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謁見

「――顔を上げよ。リリアーヌ=アスタロッド」


 若く張りのある、そして威厳に満ちた声に言われリリアーヌは伏せていた視線を上に向けた。


 王宮の謁見の間。長く赤い絨毯の伸びる先。

 リリアーヌが片ひざを曲げ拝謁の姿勢をとる場所から数段上の玉座で。その人は紫の瞳でこちらを見下ろしている。

 王家の者にしか現れない紫水晶の瞳には、思わず従ってしまいそうな力があった。


(まだ20代半ばのはずなのに、なんて堂々として立派な方)


 アーヴァンド国王。

 吟遊詩人に『金獅子王』と吟われるに相応しい見事な金の髪と、王家直系の証である夜明け色の瞳。

 この国を統べる彼は、他を圧倒する空気を纏った美丈夫だった。


 そして王の隣に座る、金の髪と琥珀色の瞳の女性。

 王とは対照的にほっそりと優しげな王妃。

 金糸で刺繍の施された白の優雅なドレスが、彼女の品の良さを引き立てている。


 彼らの姿はリリアーヌ前世の記憶……ゲームスチルと少し印象が違うが、間違いなくこの国の国王夫妻だ。


(記憶よりお二人が若く見えるのは、スチルで登場するのが今から10年後……お二人が30代の時のはずだからよね?)



 数日前。

 国王からの王宮召喚の書状を受け取ったアスタロッド家は蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。


 両親、執事、メイド長総出で王に謁見するためのドレスを選び、カーテシーの動作を見直した。あんなにも必死に着るものを選んだのは前世でも今世でも初めてだ。

 青銀の髪の色に合わせて選んだスカイブルーのドレスは、デザインは少し古いものだが質はいい。


(うちは貧乏伯爵家だから、日々成長する子供のための最先端のドレスなんて常に用意されてないのよ……っ)


 無欲で出世とは縁のない父。優しくおおらかな母。伯爵令嬢ながらそんな2人にのびのびと育てられたリリアーヌ。

 しかし、学ぶことに貪欲なリリアーヌの所作は、幼くとも十分に宮廷でも通用するものだった。


 凛とした瞳で壇上を見上げた少女の姿に、王と王妃が感心したように頷く。


「あなたに会えるのを楽しみにしていたのよリリアーヌ。素晴らしい錬金術の才能を持っていると王宮でも評判なの。あなたの作った化粧水は肌が白く瑞々しくなると、侍女たちに教えてもらって私も使っているわ」


「……!」


 驚いて金の瞳を見開くリリアーヌを見て、うふふ。と王妃はまるでいたずらっ子の少女のように微笑んだ。


「化粧水だけじゃない。『バン・ソーコー』という貼り薬も、騎士団で『わざわざ治癒魔法をかけてもらいに行かなくとも、自分達で効果の高い治療を簡単にできる』と重用されている」


「あ、ありがとうございます……っ」


 更には王にまで自分の錬金術について言及されて、さすがにとっさにお礼を言うので精一杯だった。リリアーヌの隣に並んだ父も喜びと動揺で声を上擦らせている。


 バン・ソーコーはリリアーヌが錬金術で開発した傷の治りを速める貼り薬だ。

 錬金術で作った回復アイテムや防御アイテムは、治癒魔法、防御魔法と違って誰でも使うことができると、使った人たちに好評だった。


 多少、使い方によって効果に振り幅はあるが、それでも魔術の素質や精霊たちとの相性に比べれば効果の差は微々たるものだ。

 リリアーヌは自分のように魔法の才能がない者でも豊かに暮らせる道具を創りたいと思っていた。


(あと、前世の私みたいに病気で苦しむ人がいなくなるように……)


 リリアーヌの願いから生まれた薬や健康食品、更には身体に良い化粧品。

 それを親バカな父は友人、親戚、近隣住民に広めまくって評判を呼んでいた。

 それが遂に王の耳に入り、王妃が愛用するまでになったのだろう。




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