相談
「ラウール様にサプライズでプレゼントをしたい?」
「しーっ! シア、もう少し小さい声で話して……っ」
「あら失礼。でもここは寮のわたくしの部屋。いるのはわたくしとあなただけ。廊下にも人の気配もないからそんなに警戒しなくても大丈夫だと思うけれど……。と言うかあなた、しょっちゅうラウール様に疲労回復の薬湯や石鹸など差し上げているじゃない。今さら改まってわたくしに相談も何もないのではなくて?」
「そういう日用品じゃなくて、もっと特別なものをラウにあげたいの……!」
その言葉にシンシアは水色の瞳を瞬かせる。
「あら、あらぁ? リリィに一体、何があったのかしら? あなたがそんな風に頬を染めるなんて。先日のラウール様の公開プロポーズが届いたのかしら」
「あれは台詞の言い間違いでしょう……! ――でも……」
「でも?」
「今までラウが戯れにくれた言葉が、本当になったら良いなって思い始めたの……」
「あらあら、まぁまぁ! 今のあなたの顔をラウール様が見たら、リリィ、あなた確実に3日は自分の部屋に帰してもらえないわね」
「……なに言ってるのシア?」
リリアーヌ=アスタロッド18歳。
恋に前向きになった彼女だが、前世を17歳で終え、今世もラウールの鉄壁のガードで守られてきたため、その恋愛知識は清らかなものがメインだ。
「……ごほん! 失礼、思考が低俗でしたわ。……そうですわね、ラウール様はリリィから貰ったものなら例えハンカチ一枚だろうと消しゴム一つだろうと錬金術の材料用の虫の羽一枚だろうと大喜びで大切にすると思うけれど――」
「シア、ラウがいくら優しいって言っても猫や犬じゃないんだから」
いくら『貴族庶民関係なく平等』というラビントス学園でも、ラウールに対するその扱いはあまりにも雑過ぎてはないだろうか。
「そうね。リリィの前では羊の皮を被った狼ね。――あぁそうだ! ほら、あの学園祭の時に来てらした旅商人の方。ふだんは色んな国を巡って珍しい商品を探しているけれど、アーヴァンド王国にはしばらく滞在してるんですって。王都の商人仲間のお店に間借りして自分も商売をするつもりだと言っていたから、もしかしたらまだリリィが見たことのない物も扱ってるかもしれなくてよ」
そう言われて、学園祭前日に玄関ホールでシンシアと話していた男の姿を思い出す。
確かに言われてみれば、日本で言う長袍風の服を着た姿はアーヴァンド王国では珍しかった。
「そうね、うん、いいかも……! もしかしたらアーヴァンドにない書物とかも置いてあるかもしれないし、調合のヒントにもなりそう……! シア、お店の場所を教えてくれる?」
「たしか――」
シンシアに店の場所を教えてもらいメモしたリリアーヌは、次の休校日にラウールに内緒でプレゼントを買いに行くことに決めた。
心を込めた贈り物を渡し、これからも――いや、今までと違う、幼なじみから一歩進んだ親しい関係になりたいとラウールに伝える。
その時のラウールの反応や表情を想像するとドキドキしてソワソワして落ち着かない。
けれど、今まで彼がくれた優しさに、きちんとケジメをつけて自分の気持ちを告げたい。
異国の商品を集めたという商人のお店。
そこにはいったいどんな出会いが待っているだろう。
ラウールを驚かせ喜ばせることはもちろん、何より言葉を紡ぐきっかけとしてプレゼントが欲しい。
様々な期待が胸をいっぱいにして、休校日の前日はなかなか寝つけなかった。