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星空の花

 花火が上がる。

 夜空に咲く大輪の花と光のシャワー。

 戯れるペガサスやグリフォンたち。


 新たな花が咲くたびに、空を見上げる観客たちから歓声が上がる。


 後夜祭の恒例となった、リリアーヌの花火とラウールの幻視魔法のショーも今年で最後だ。


「みんな喜んでくれてる。花火の火薬の調合、去年と変えたんだね」

「そうなの。グラデーションみたいに色が変わるようにしてみたの。ラウはこんなに空いっぱいに魔法を展開してるのに平気な顔をしてて、さすがだわ」


 生徒会のメンバーだけが入ることを許可された屋上で、リリアーヌとラウールは白い石造りの欄干の側に並び、ショーと観客たちの笑顔を見守っている。


 夜風がリリアーヌの青銀の髪をなびかせる。少し冷たいくらいの温度が頬に当たって気持ち良かった。ケープを生徒会室に置いてきてしまったが、ちょうど良い。


 屋上の中央ではシンシアが今日の成果に満足そうに笑っている。

 アウインとロードもリラックスした表情でお互いを労っていた。

 一年生と二年生のメンバーも、学園祭本番の緊張から解放され、空に広がる光景を楽しんでいるようだ。


(私、やっぱりみんなを笑顔にすることが好きだわ。ラビントス学園を卒業しても、みんなが……国のみんなが笑ってくれるように自分の力を使いたい)


 昼間、リリアーヌのおかげで幸せを掴むことができたと語ったプリメラの言葉。それがリリアーヌの心をずっと温かくしていた。


「……どうしたのリリィ。俺の顔より、空を見た方が良いんじゃないの」

「ラウこそ……私の顔ばかり見ているわ」


 そして、ゲームヒロイン(プリメラ)に出会っても変わることのなかったラウールの態度。

 その事実が、泣きたくなるくらい嬉しかった。



 ずっと、心に鍵をかけていた。

 ずっと、色んなことに気づかないように錬金術のことで頭をいっぱいにしてきた。

 ずっと、自分はいつか身の丈にあった、まだ出会っていない誰かと恋をするのだと思っていた。


 でも。

 それも今日で終わりにして。

 もっと。もっと素直に生きて良いのかもしれない。


 ――ここはゲームではなく、自分が生きる世界なのだと、誇って良いのかもしれない。そう思えた。



「リリィ?」


 黙ってしまったリリアーヌに、ラウールが不思議そうに首をかしげアメジストの瞳を瞬かせる。


「ラウ、私、頑張るから。もっと素直になれるように、頑張るから……っ」


 もっと、素直に。自分の心の求めるままに。

 心に従って行動できるように――


「リリィが素直じゃないなんて思ったことないけど……」


 ドン! と花火が上がるたびにラウールの後ろの夜空が輝く。


 この景色をここから2人で眺められるのは今日が最後。

 でも、これからもラウールと一緒に、心震える美しい光景や人々の笑顔を見たい。

 もっと、色んなことを一緒に体験して共有したい。


(それを私が望んでも良いのだと、今日やっと思えたの――)


 そっとラウールのケープの裾を握る。一歩、ラウールの方へと距離を踏み出す。


「リリィ?」


「ラウ、私ね……。――くしゅん!」


「あぁ、少し肌寒くなってきたね。リリィのケープは生徒会室? ……じゃあ、俺のこれを着て」


 躊躇いなく自分のケープを脱いだラウールが優しくリリアーヌの肩を包んでくれる。

 ふわりと、石鹸とラウール自身の香りを感じる。その匂いとぬくもりに胸が高鳴った。


「嬉しいけど、ラウが風邪ひいちゃうわ」


「鍛練のおかげで俺が病気知らずなのリリィも知ってるでしょう? それに、風邪をひいてもリリィの薬があるしね」


「もぅっ! ……ありがとう」


「……でもそうだな。俺が風邪をひかないように心配してくれるなら――」


 軽い力で引っ張られ、ラウールの腕の中へと引き入れられる。くるりと身体を反転させられて後ろからギュッと抱き締められた。


「これなら寒くないし、一緒に花火も見られる」


 その言葉に、リリアーヌは自分の身体にまわされたラウールの腕に手を重ねた。



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