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記憶の面影

 ラウール=アーヴァンドがリリアーヌ=アスタロッドに公開プロポーズをした。


 その噂は瞬く間に学園中に広まり大騒ぎになった。

 おかげで生徒会の仕事としてラウールと学園を巡回しているだけなのに、行く先々で生徒たちに祝福されてしまう。


「ラウ! ちゃんと、あれは台詞の言い間違いだったって訂正してよ……!」


「いやー、習慣って怖いよね。ちゃんと役名で呼ぶつもりだったのに、リリィの顔を見てたら思わずリリィの名前を呼んじゃった。でも大丈夫だよリリィ。そんなムキになって訂正しようとしなくても、今はみんな学園祭の空気もあって浮かれてるだけだよ。噂なんてすぐにおさまる。それに、みんなが喜んでるのに違うって言ってまわるのも無粋じゃない?」


 衣装から制服に着替えたラウールはリリアーヌの抗議をにこにこと受け流す。

 王太子が伯爵令嬢なんかに求婚したと広まったら困るのは彼の方だろうに。


(おじ様)王妃(おば様)の耳に入ったら叱られてしまうのではないの?」


「父上と母上が? まさか! むしろ『よくやった!』って大喜びだと思うけどね。二人からは『リリィを早く捕まえておけ』ってせっつかれてるくらいだし」


「それはお二人が冗談をおっしゃってるだけだと思うわ……」


 あぁ、頭が痛い。後で頭痛薬を調合して飲まなくては。


 そんなリリアーヌの様子を見て「これでもダメか……」とラウールが呟く。


「え? ごめんなさい、もう一度言ってくれる?」


 ラウールは小さめのリリアーヌより30センチ近く背が高い。更には学園祭のザワザワとした空気のせいで言葉が上手く聞き取れなかった。


「あそこの教室で売ってる魔法石のアクセサリー、リリィが好きそうなデザインだなって。行ってみない? それと、魔法生物部が危険なことをしていないかもチェックしに行こう。あそこはマンドラゴラを脱走させた前科があるから」


「あ、確かに好きかも! 去年は魔法生物部と生徒会メンバーで網を持ってマンドラゴラを追いかけたのよね懐かしい」


「学園祭のお客さんにぶつかったら大変だから魔法禁止でね。おかげで大変だった」


「苦労してるラウの姿、けっこう貴重だったかも」


 学園生活の思い出を語りながら見回りをする二人の姿を、生徒たちが温かく見守っていることにリリアーヌだけが気づいていなかった。





 ――その女性を見つけたのは、無事に校内の見回りを終え生徒会室に戻ろうとした時だった。


 無意識に、ドクン! と心臓が耳元で大きな音を立てる。

 頭より先に、体が、心がその面影に反応する。



「……っ! ごめんなさいラウ! 先に、戻ってて……!」


 

 肩にかかる程のストロベリーブロンド。

 記憶に重なるその横顔を認識した瞬間、リリアーヌはケープとスカートをひるがえし衝動的に走り出した。



「えっ、リリィ?!」



 驚いたラウールの声を背に、ただその姿だけを追いかける。



 まさか。という衝撃と、やっぱり。という諦め。


 あぁ、人が多くて上手く走れない。

 お願い。その人とどうしても話をしなくちゃいけないの。

 お願い。どうか振り向いて――



「――プリメラさん! プリメラ=コーラルさん!」



 画面の向こうで何度も何度も見たストロベリーブロンドの少女。プリメラ=コーラル。

 ラビントス魔法学園物語の主人公。

 


 ゲームヒロインのデフォルトネームに反応し振り向いた彼女は、記憶通りの大きな緑色の瞳を見開く。驚いたその表情も、スチルと同じ。


 何度も何度も。画面の向こうに見た面影。


 あぁ。彼女こそがラビントス学園の、この世界の正当な主人公だ。

 アウインやロード、魅力的な彼らと恋愛する権利は彼女にある。


 ……そしてもちろん、ラウールとも。



 ずっと覚悟していたことだった。

 自分はこの世界の脇役なのだと、ずっと思っていた。

 彼女の居場所を奪ってしまったことに、罪悪感を覚えていた。


 だから今さら、胸が痛むなんておかしい。



「――プリメラさん、私、貴女に伝えなきゃいけないことが……!」


 息を切らしながら、必死に言わなければいけない言葉を整理する。


「えっと、確かにプリメラ=コーラルは私ですけど、でも……あら! あなた、もしかして……!」


 人違いかもしれない。

 そのせめてもの可能性は消えてしまった。


 伝えなければ。あなたこそがこの世界の主人公なのだと。

 けど、突然そんなことを言って信じてもらえるだろうか――



「――ママ! この人、さっきの劇のお姫様だよー!」



 言いかけた言葉を遮るように、突然、大きな声がした。


 声の方へ視線を向けると、赤髪の元気そうな男の子がプリメラと名乗った女性と手を繋いでいる。5歳くらいだろうか。プリメラと同じ緑の瞳を好奇心いっぱいにクリクリと動かす様が微笑ましい。


「あ、そうなの。さっき、劇でお姫様をやってたのよ。見てくれたのかな? ………………え?」



 ……………………ママ?



「うん! 見たよ! 最後、花がブワー! って出てきてすごい面白かった! ママなんて感動して泣いてたんだよ! ね、ママ!」


 男の子にママと呼ばれたプリメラは「恥ずかしいからバラさないで」と照れつつも、男の子のママという言葉を否定しない。


 ストロベリーブロンドに緑の瞳。プリメラ=コーラルという名前。


 しかし、目の前の女性は、よく見ると記憶(ゲーム)の姿より大人びて見えた。




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