Ⅰ シヴァ星域会戦 パート1
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ファルナ王国暦1012年1月18日20時17分
「撃て!」
〝戦争の天才〟ファルナ女王ローナが、垂直に上げた右手を振り下ろしながら、凛とした声で命令した。
「攻撃開始!」
と、ファルナ王国宇宙軍スターフリート最高旗艦艦長、リチャード・ロック・ウォルシンガム大佐。
《レザリース》は、全長2518m(2518マルス)─―1マルス=1メートル─―の司令戦艦である。見る者を圧倒する巨大さだ。
ホワイトにカラーリングされた、水平型スターシップ(前後に長いフォルム)であり、格好良さと美しさを併せ持つ外観だ。
《レザリース》、および約2万3千隻の戦艦─―ほとんどが、ホワイトのファルニウス級戦艦─―からなる、ローナ女王艦隊戦艦部隊が、長砲身の主砲41cm3連装ビーム砲による砲撃を開始する。
ライトブルービームの奔流が漆黒の宇宙空間を切り裂き、ザタリウ帝国軍きっての名将〝サイエンティスト〟(科学者提督)シュヴァルム上級大将率いる、シュヴァルム艦隊戦艦部隊約1万1千隻に襲いかかる。
輝く星々をバックに爆発が大量に生じ─―オレンジ、レッド、イエロー、ホワイト等に煌めいている─―、艦艇多数が揺動する。
ローナ女王艦隊は、苛烈な主砲ビーム砲撃を加えつつ前進した。
前進中の、シュヴァルム艦隊所属ネヴェル級戦艦の、激しく傷付いた4番主砲─―38.5cm3連装ビーム砲─―前面に、《キング》41cmライトブルービーム2発が命中した。
2つのオレンジの爆発が発生する。
強力なエネルギーが、主砲前面装甲を貫通して主砲内部に侵入する。
内部構造物群が破壊され、イエローの大爆発が生じる。
4番は、宇宙の塵と化した。
「4番主砲、爆散!」
《ザノハ》防御士官が、やや緊張した声で報告した。
「むぅ……」
と、渋面を作りながら、《ザノハ》艦長。
《ザノハ》は、4番基部から、黒煙・紫煙・青煙、少量の炎・光炎を噴出させながら、前進を続けた。
ネヴェル級戦艦は、ザタリウ帝国宇宙軍主力戦艦である。
ザタリウ帝国艦隊艦艇の外観は、角張っており前部が大きい、〝前部巨大〟フォルムの水平型スターシップだ。
艦体表面は、大小様々な直方体様・ドーム様の装置で覆われており、グレイに塗装されている。
ネヴェルは、ネビュラと同意である。
8時方向・下方へ向けて、スライド回避機動中の、ネヴェル級艦体正面から、9条の、ライトブルーに輝く《キング》41cmビームが、猛速で飛来する。
9つの細長いエネルギーは、ファルニウス級の主砲砲撃によって、前面外部装甲に穿たれた巨大な穴から《ヴェストファーレン》艦内に突入し、前面内部装甲─―はなはだしく損傷している─―に命中し、爆発が折り重なって発生する。
1条のビームが、エネルギータンクを覆っている前面内部装甲を貫通し、エネルギータンクを直撃する。
エネルギータンクが大爆発し、《ヴェストファーレン》は、巨大な白熱した光球に転じた。
2時方向・上方へ、スライド機動中の、ネヴェル級艦体左舷下方に、41cmライトブルービーム7発が肉薄する。
「うわあぁ!」
「きゃ─―─―─―──!」
「くそっ!」
オレンジに煌めく7つの光の花が乱れ咲き、対宙パルスビーム砲《可動式連装タロス》5基が、吹き飛んだ。
《パスカグーラ》は、被弾部から炎と煙を上げつつ、スライド機動を継続した。
アウトレンジ攻撃とは、敵兵器の射程よりも長射程の兵器を使用し、敵の射程外から一方的に攻撃を加える戦術の事だ。
今まさに、ローナ女王艦隊戦艦部隊は、シュヴァルム艦隊へアウトレンジ攻撃を加えている。
ファルニウス級主砲41cm3連装ビーム砲の射程は、ネヴェル級主砲38.5cm3連装ビーム砲の射程よりも長いのである。
シュヴァルム艦隊は、反撃する事が出来ないでいる。
この不利な状況を打破するため、ローナ女王艦隊戦艦部隊の主砲砲撃開始とほぼ同時に、シュヴァルム艦隊は、ローナ女王艦隊へ向けての前進機動を開始している。
ほどなく、シュヴァルム艦隊戦艦部隊は、主砲射程内にファルナ艦隊を捕らえ、主砲を斉射した。
主砲から放たれたレッドビームの豪雨が、ローナ女王艦隊戦艦部隊へ降り注ぎ、同部隊各所に多種多様な光の花が大量に咲き乱れた。
主砲砲撃を行いながら前進している、ローナ女王直率部隊所属ファルニウス級戦艦の艦体上部に装備された、2番主砲─―《キング》の前面装甲に、38.5cmレッドビーム3発が着弾した。
しかし、《キング》の分厚く強力な前面装甲を貫通する事ができない。
オレンジの爆発3つが、被弾部に発生した。
《キング》前面装甲に傷と黒っぽい汚れを付けたのみだ。
「2番主砲、ビーム3発を被弾! 損害は軽微!」
「了解した」
《レオニダス》は、2番主砲を含めた4基の《キング》で、ネヴェル級をビーム砲撃する。
ライトブルーに輝く光の矢12条が、暗黒の領域を突き進んだ。
銀河帝国は崩壊し、銀河系では戦乱が続いている。
銀河系中央部宇宙域に位置するファルナ王国、フラガラック帝国、ザタリウ帝国は、巨大星間国家である。
この三大国は互いに戦争状態にあり、三つ巴の乱戦を長期に渡って継続している。
過日、〝戦争の天才〟ファルナ王国女王ローナが、遠征艦隊14万隻を率いてフラガラック帝国への親征を開始し、〝軍神〟フラガラック帝国皇帝レオナルドも、自ら迎撃艦隊総司令官となって、迎撃艦隊8万5千隻を出撃させた。
〝戦争の天才〟対〝軍神〟の死闘が開始されると思われたが、戦場であるシヴァ星域に、ザタリウ帝国の〝賢帝〟アダムスが10万5千隻の遠征艦隊で親征してきた事で、事態は予想外の展開を見せている。
「……敵は、防御に徹するであろう」
ファルナ女王ローナ・ファルナが、威厳のある落ち着いた声で言った。
ローナは、〝戦争の天才〟と称される絶世の美女である。
年齢は20歳と若い。シルクのような黄金の髪、長い睫・美しい碧眼、「爆」が付くほど立派な、美しいバストとヒップを持つ白人だ。
ピュアホワイトドレスにグラマーすぎる女体を包み、豪奢な黄金の刺繍の入ったダークブルーマントを羽織っている。
ローナの父であるリチャード五世は、銀央─―銀河系中央部宇宙域─―において名将で響く有能な王であり、母ディアナ王妃は、優しく賢明な美女だった。
2人は、一人娘の幼いローナをとても可愛がっていた。
末長く続くかと思われたローナのこの幸福は、だが、悲劇によって幕を閉じる事となる。
漆黒の軍艦からなる謎の大艦隊が、ファルナ王国を襲撃してきたのである。
リチャード五世が迎撃艦隊を指揮して宇宙で死闘を繰り広げ、同じ頃、ディアナ王妃は、〝時の聖域〟─―ファルナ王国主都ファルティウスに存在する─―と呼ばれる不思議な塔に単身こもった。
リチャード五世は壮絶な戦死を遂げ、ディアナ王妃は行方不明─―塔から出てきていないにも関わらず、塔内のどこにもいなかった─―となったが、ファルナ王国は謎の大艦隊を退ける事に成功した。
父母を同時に失い痛哭したローナは、時を移さず、幼くして至尊の王冠を頭上にいただき、有能な女性宰相であるステイシー・ファインタックに育てられる事となった。
暫くしてローナは、就寝中に、奇怪な超巨大黒色球体の放った凄まじいレッドビームによって銀河系が消滅し、その直後にディアナ王妃と容姿が瓜二つの女性から3つの指示を受けるという、夢とも現ともつかぬ事象を知覚した。
そして、驚くべき事に、目覚めたローナの首には就寝前には身に着けていなかったシルバーネックレス─―ディアナ王妃が行方不明になった際に、ディアナ王妃が着用していたもの─―が、かかっていた。
ローナはこの不思議な体験を心にかけつつ、並々ならぬ努力をして、帝王学と武芸を修め、政治・軍事の方面において天才を発揮し始めた。
ローナは、疑い深い性格であり─―疑い深さはローナを有能な王としているファクターの一つだ─―、謎の女性を母と信じたわけではない。
しかし、ローナは考え抜いた末に、母に瓜二つの女性の指図通り、銀河系統一を目指す事・アヴァロンを探す事・不老不死の秘密を解き明かす事を決断した。
最終的なローナの考えは、こうである。
(敬愛する両親を奪った、憎き〝戦い〟をなくすため、そして我がファルナ王国臣民の幸福な暮らしのため、戦乱の続く銀河を統一して、平和な世の中にしようと考えておった。
それが、銀河を消滅から救う一因となりえるのであれば、なおさら良い。
アヴァロンの探索・不老不死の秘密の解明は、節度をもって行えば問題とならぬ)
心を決めるやいなや、ローナは行動した。
ファルナ王国領域を拡大するために、遠征艦隊を派遣し、又他国へ策略を仕掛け、優れた外交・内政を行い、アヴァロン探索隊および不老不死テクノロジー探索隊を組織して、銀河系各地へ派遣し、不老不死に関する研究を行う科学者チームを組織して、巨額の研究費を与えた。
ディアナ王妃の捜索と、謎の漆黒艦隊、自身の不思議な体験の調査も続けさせた。
その美しすぎる姿からは到底想像ができぬほど御転婆なローナは、自らスターフリートを率いて星々の大海を転戦し、巨大すぎる武勲を上げ、銀央のヒューマ(知的生命体)達に〝戦争の天才〟と呼ばれる事となった。
スターク星域会戦におけるローナの大活躍は、特に有名だ。
5倍以上の艦艇数の敵艦隊に、まず、直率する分艦隊を用いて敵艦隊を巧妙にその超巨大ビームの進路上に誘導し、巨大恒星スタイランバースト(自然発生する超巨大ビーム)によって大打撃を与え、次に、ダークスペース(暗黒宙域)に伏兵として配置しておいた、別動分艦隊との共同攻撃を加えて包囲殲滅したのである。
今回のシヴァ星系侵攻作戦も、銀河系を消滅から救うかも知れぬ、銀河系統一という壮大な野望を実現するための一手なのだ。
現在、ローナは、ファルナ王国遠征艦隊最高旗艦、司令戦艦の、広いブリッジの後部に位置するコマンダーシートに腰を据えている。
《レザリース》ブリッジは、航宙ブリッジ、司令部ブリッジ、戦闘ブリッジ、射撃指揮所を兼ねており、大量の装置が存在するが、比較的シンプルな造りである。
ローナの眼前に、コマンダーデスク(司令官用指揮卓)が存在する。
その先に、巨大円筒形メインホロプロジェクターが設置されており、上方に戦場・部隊・各種データ等のホロイメージ(3D画像)を映し出している。
メインホロプロジェクターの周囲には、司令部要員・APM(軍用メック)達がいて、彼らの外側に、各々のクルーシートに座したブリッジ要員達が存在し、それぞれが自身の職務を行っている。
ホワイトの床・壁・天井に囲まれた、美麗なブリッジの前面と側面を1つのヒュージウィンドウがぐるりと囲んでおり、それを通してブリッジ前方、および側方を見渡す事ができる。
現在、このヒュージウィンドウ越しに、漆黒の宇宙空間、煌めく星々、前方から飛来するレッドビームの雨、《レザリース》のホワイトの巨体、《レザリース》艦体に着弾したレッドビームによって生じた爆発、立ち上る炎・光炎と黒煙・紫煙・青煙、艦体に生じた亀裂等が見られる。
ブリッジ前面上方には、巨大なメインスクリーン─―ウォールスクリーンである─―が存在し、〝▲マーク〟で表される敵味方の艦隊、各種情報等が表示されている。
ローナの右斜め上の空中に、フォレストグリーンの─―全幅約30cm(約30セアトゥマルス=約30センチメートル)の左右に長いメタルボディ。両側面に50cm程のメタルアームが装備されている─―エアSPM(特殊メック)〝バラード〟が、ホバリングしている。
バラードは、非常に使えるマルチロールエアSPMだ。
ボディに挿入されているスモールカード型の〝バラードコア〟─―バラードの脳に相当する─―を、対応スロットを有するメック、兵器(戦闘機、SB(人型機動兵器)、戦車等)等に差し替える事によって、バラードはそれをコントロールする事が出来るようになるのである。
戦闘機に差し替えれば、バラードは、その戦闘機を自分の手足のごとく巧妙に扱うのだ。
緊急時に極めて役立つ可能性があるアビリティである。
ローナの周りには、司令部要員とAPMが多数存在し、忙しげにそれぞれの仕事を行っている。
「賢帝は、手堅い用兵を行いますからね」
と、ローナの右隣に直立している、アンジェリーナ・ライト大将。
彼女は、才色兼備のファルナ王国スターフリート幕僚長官だ。
ファルナ王国宇宙軍シヴァ星系遠征艦隊司令部幕僚総長でもある。
23歳の平民美女で、卓絶した艦隊戦戦術能力と度胸を、女王ローナと国防省宇宙軍総幕僚本部に評価され、3年前、スターフリート幕僚長官に任命された。
平民、しかも齢23という若さで、スターフリート幕僚長官となった彼女は、実力主義のファルナ王国宇宙軍においてもまれな部類に入る。
優しく賢明であると感じさせる顔、黒いセミロングヘア・黒い瞳の白人である。ローナ女王より少し背が高い、巨乳のグラマー。
とても暖かい雰囲気を持っている。
グリーンの直線的パターン(模様)を有する、レッドツーピースという服装だ。
酒豪で鳴り、「スターフリート幕僚長官に、酒で勝てるファルナ軍人はいない」と言われている。
「それに加え、名将で響く〝賢帝〟、ザタリウ帝国軍八神将3名が艦隊司令官として、この会戦に参加している。たやすく撃滅するというわけには行かんな」
「はい。〝戦争の天才〟の呼び声高き女王陛下の用兵を持ってしても、手こずりそうな敵です。
特に、我がローナ女王艦隊とゼンフ艦隊の正面に位置する、〝サイエンティスト〟シュヴァルム艦隊は、防御力には定評のある艦隊。苦労しそうですね」
「ああ。ザタリウ帝国遠征艦隊を撃破した後には、〝軍神〟との戦いがあるというのに……」
「ザタリウ帝国遠征艦隊に手こずるのは〝軍神〟も同じですが、〝軍神〟艦隊の正面に位置しているであろう、〝風神〟サーファイス艦隊の方が、この状況においてはくみし易い敵であるため、交戦する敵艦隊に関しては、我が艦隊が貧乏クジを引いた確率が高いですね」
「うむ」
最高旗艦の正面に位置する、シュヴァルム艦隊所属ネヴェル級戦艦─―ファルニウス級戦艦を爆散させたばかりだ─―が突進しつつ放った《ガンシュタイン》主砲38.5cmレッドビーム8発が、《レザリース》に襲いかかった。
《レザリース》艦体上部中央やや右の装甲─―甚大な損傷を受けている─―にオレンジの爆発8つが発生し、微小な装甲片が虚空に飛び散り、ホワイトの巨体がわずかに揺れる。
被弾部装甲に亀裂が生じ、炎・光炎、黒煙・茶煙・青煙が噴き上がった。
ダークブルーの軍服を着用した、《レザリース》艦長ウォルシンガム大佐─―紫髪の白人壮年貴族。燻し銀。冷静沈着な慧眼の士であり、卓絶した艦艇指揮能力を誇る万能型艦長─―が、素早く《レザリース》後方士官ニース中佐─―小柄な、淡褐色肌平民男性。情に厚いまめな男─―へ、損害復旧の命令を下した。
ファルナ王国宇宙軍軍服は、ダークブルーを基調としている。
どの程度その効果が将兵へ与える好影響を、ファルナ王国宇宙軍が期待しているのかは不明であるが、ダークブルーには精神を落ち着かせる心理的効果がある。




