3話 記録的な寒気
寒い...朝起きてはじめにお茶を沸かした。我が家には新年を祝う文化などない。某歌合戦も見ないし、初詣など行ったこともない。でも今年は行きたい。父親に合格祈願に行くという名目で外出する。そういえばお年玉をもらったこともないな。1月だって普段のお小遣いと同じ五百円だ。一礼して鳥居をくぐる。お賽銭を入れて鈴をならす。二礼二拍手一礼。合格祈願なんてしない。私が願ったこと、それは...ご想像にお任せしよう。
新年から私は受験勉強だ。あと一ヶ月を切った。時々頭をよぎるあの人の声と戦いながらシャーペンを握る...そんな毎日はあっという間に過ぎていき今日からもう新学期だ。久し振りに見た朝のニュース。アナウンサーはこういった。
「首都圏では1日を通して曇りでしょう。また記録的な寒さは今日も続き、最高気温は関東地方の広い範囲で1度から3度と、10度に届かないところも多い予想です。」...誰かと一緒じゃないか。
「美鳥、あけおめ。勉強した?」
「え?勿論。まさか紗菜、全くしてない?」
「いやぁ、そのまさかで~」
「とかいってほんとはめっちゃ勉強してたんでしょ~」
人前では明るく振る舞う。まさか期待なんてしていない。それでもショックだ。ほら、今日はやっぱり寒い。そして運命の女神様も冷たい。走って帰る元気もなく、とぼとぼ歩く。寒くて擦り合わせた手を目元に持っていく。泣きながら帰るなんていつぶりだろう。濡れた手で鍵を開ける。もうやめよう。凍るように冷たい水で顔を洗う。さあ、勉強だ。
スーツ姿の人の列に制服で潜り込む。電車が着くと押されるように電車に吸い込まれる。満員電車に三十分ほど揺られ最寄り駅に着く。今日が本番。集中できるといいけれど。問題が解けるか以前の問題を私は抱えている...まあ、何はともあれ、手応えはそこそこだ。面接も難なく終えた。筆記試験に多少不安が残るが、それはなんとかなるだろう。それと入れ替わりに出てくるのは彼のことだ。今日から勉強という逃げ道がなくなってしまった。ほら、寂しくなってきた。ひさしぶりに空想を楽しんでみる。私と誠は、無事志望校に合格し、手を繋いで遊園地に向かう。お化け屋敷で私はどさくさに紛れて彼の腕にしがみつく。ジェットコースターで、私と彼の心の距離は縮まる。そして最後に観覧車に乗る...ロマンチックじゃないか。それでもこの世は無情だ。ドアの音で現実に引き戻される。一気に空しくなる。はやく家に帰ろう。
三日後の合格者発表日。私の受験番号はそこにあった。ふーん位の感想しか持たなかった。それから卒業式まではあっという間だった。
「咲湯波 美鳥」
名前を呼ばれて卒業証書を受けとる。
「碧海 誠、本日欠席」
違う。本日欠席じゃない。連日欠席だ。第2ボタンを渡す相手が病院にいる私は、紗菜とツーショットをとってそそくさと最後の中学校を後にした。最後の今日、この日。誠の話は教室で出なかった。あれからもうすぐ一年だ。神様はこの一年を返してくれるのだろうか。そして私の冬は、いつ開けるのだろうか。季節が移っていくのとは反対に、私の心はいまだに冬将軍に占拠されている。
どうやら私には、季節感という概念が無いみたい(;・ω・)。
次回は本日2020,5,17PM9時に投稿します!お楽しみに~ wacca




