第2話・織田家の現状
「名は決めたのか?」
信長の父である信秀は吉法師の柔らかい頬を触りながら信長に問いかける。
「吉法師だ、俺の幼名にちなんでな」
「ほぅ、お主の割にはまともな名を付けたな」
「失礼だな親父、『割には』は余計だ」
「どうせ帰蝶に叱らられたのであろう。ところで信長よ、最近色々な若者を集めているようだが少しは控えろよ?」
信秀は信長が近頃、新しい家臣を雇っていることを嗜める。
「重臣たちが煩くて叶わんのだ」
「そんなのほっとけば良い。ただ俺は能力がある者を家臣にしている。能力がないのに重臣の座に座っている者よりかは断然いい」
信秀の言葉に首を振りながら否定する信長。
「ただでさえ国内には敵対勢力がまだある。それに加えて家臣たちにも謀反させられたら、ひとたまりもない」
「そんな事は分かっている親父」
「自覚しているなら心配はいらないと思うが、巷ではうつけと評判なお主だ、あまりやりすぎると意味がないぞ?」
信秀は信長がわざと周りの者に対して奇妙な出で立ちで振舞っていることを知っていた。
「やり過ぎが丁度いいんだ。何時、今川が攻めて来るやも知れぬからな。織田の嫡男がうつけと呼ばれていれば少しは油断するからな」
「だと良いんだがな。あの雪斎を出し抜けるかは分からんがな」
「やってみなければ分からんだろう」
「まぁ、このまま今川と戦を続けていたらこちらがいずれ負ける。どこかで決着はつけるべきだな」
信秀は今川の本拠、駿府館がある駿河の方角である東の空を見上げる。
「たが親父、今川は北の武田とは婚姻を結んでいるが、かつての同盟相手の相模の北条とは争っているから尾張に攻め込むのはまだ先だ」
「あと数年が限度かもしれんな。恐らくだが武田・今川・北条で同盟を結ぶかもしれん」
「本格的に今川と争うことになるか」
「あぁ、それまでに尾張を統一させて隣国の斎藤家と連携して迎え撃つしかなかろう。そうすれば兵も互角に戦えるだろう。せめて吉法師が元服するまでは死ねぬな」
「親父、冗談はよしてくれまだ俺は家督を継いでも家臣を纏められる自信はないぞ?」
信秀はこのところ体調が優れないことが多く寝込むことが多くなっていた。
「悲願である尾張統一という仕事がまだ残っているから簡単には死ねぬと思うがな」
「フンッ!だといいがな」
信秀の弱々しく尾張統一といった言葉に信長は強気に言ったが内心では心配していた。
「さてさて、尾張国内には清洲の尾張守護代・織田大和守家、東には大国である今川家。北は同盟国の斎藤家。西は長島城の一向宗と伊勢を治める北畠家。これはちと骨が折れるわい」
「是非もなし、弱い勢力から滅ぼして仕舞えば簡単。守護代を倒し今川を誘い込みこれを撃つ。長島の一向宗は無視して北畠家へ攻め込む。これしかなかろう」
「言葉では簡単に言うなお主…」
信長の自信に信秀は呆れるのだった