4.宿
「つ、ついた、、、、ソーアン早く入ろう、、、、」
「、、、、、うん、、、」
三人が宿に着いた頃には空が赤色に染まっていた。
「二人とも大丈夫ですか?体力なさすぎですよ?二人とも運動不足じゃないですか?」
ルーカスは疲労困憊の二人に対して、体力マウントを取りイキがっているが、二人は反論することができず、呼吸を整えることに必死になっていた。
呼吸を整えるとつかさずガレンはルーカスに反発した。
「うるさいな、、、お前みたいに街一周しないと息が上がらない体力バカと一緒にするな。それと魔術師に体力を求めるな、、、ソーアン大丈夫かい?」
無理したせいで気持ちが悪くなり、顔色が悪い少女に話しかけるが、返答がなく頷いているだけだった。
「ダメそうだね。ルーカス、2階に部屋一つ空いてたよね。そこまでソーアンを運んで欲しい、、、僕は便所に行ってくる。」
そういうとガレンはフラフラしながら、家の中に入っていった。
「大丈夫かなぁ。ソーアンちゃん、、、、でいいんだよね。背負うから背中に乗って」
ルーカスはしゃがんでソーアンに背中を向ける。
ソーアンは疲れ過ぎて何も考えられず、躊躇なく背中に乗る。
背中に体重がかかり密着したことがわかると太腿の内側を持ち一気に立ち上がり、家に入っていった。
「すみません、、、ルーカスさん」
「大丈夫だよ。あと、そんなにかしこまらなくていいよ。子供なんだからもう少し堂々としていいんだよ。」
「子供ですか、、、やはり子供に見えます、、、?」
「あれ?ダメだった?」
「いいですもう。諦めます。」
「そう、、、、。バーナさーん。帰りましたよ。」
ルーカスが玄関のすぐ横にあるカーテンで仕切られたドア枠にむかって話すと強面の男がひょっこり顔を出した。
「あぁルーカスか。って後ろの子は誰?」
バーナはルーカスがおんぶしている子供に指を指しながら指摘する。
「この子?ほらあの召喚されてきた子ですよ。ソーアンって言うんですって。あ フードかぶってるから分からないか。」
するとソーアンはフードを脱ぎ強面の服の下からでも筋肉隆々とわかる男に半分目蓋を開けて挨拶をした。
「あぁ!ってことはガレンさんは、、、」
「はい。一緒にいました、、、」
「そうか、、、しょうがねぇな。で、この子どうする気だって?ガレンさんは。」
「あれ?あってないんですか?さっき入っていきましたけど。」
「あ?あぁ気配はしたけど、足音立てて便所の方に駆け込んだから話してねぇ」
「本当に大丈夫ですかねぇ。話戻りますけど、あの様子だとここに泊めるんじゃないですか?他の魔術師になんて渡したくないでしょ。」
「そうだな」
「じゃあこの子、二階に連れていきますね。」
二人は同時にため息をついて、バーナはもといた部屋に帰り、ルーカスは二階の部屋に連れて行った。
部屋に着くと力の抜けた少女をベットの上に寝かせ、毛布をかぶせてその場を去った。
ソーアンは目が覚めると上半身を起き上がらせ、周りを見渡した。
壁は白く塗られベットの反対側には机と椅子があり、カーテンからは光が漏れていた。
朝か、、、?どこだ?あ 宿か。
ベッドから出て、知らないうちに枕の横に畳まれていた靴下を履き、その上から小さな靴を履く。
視線を落とすと昨日と同じワンピースを着ていた。
部屋から出ると隣にはもう一つドアがあり左奥には下の階へ続くであろう階段があった。
階段を下ると左に部屋があった。
ドア枠を潜るとリビングとキッチンが一緒になった部屋に見覚えがある二人がテーブルで朝食を食べていた。
「おはよう、、、ござます。ルーカスさん、バーナさん。昨日はありがとうございました。」
丁寧に挨拶をすると二人はソーアンを認識し、挨拶をしてくれた。
「おはよう。ソーアンちゃん。っていうかまだちゃんと挨拶していなかったね。俺の名前はレイト・ルーカス。で、こっちのおっさんが俺の先輩、バルセ・バーナ。俺ら二人ともガレンさんの護衛で雇われた民間の警備員なんだ。よろしくね」
「おっさんいうなルーカス。バーナだ、よろしく。」
警備員、、、?ボディガードってことか?
「よ、よろしくお願いします」
二人は笑顔でうなずくと顔を洗ってこい、と言われ。ルーカスにトイレと洗面台そしてカーテンで仕切られてたシャワー室がある部屋に案内された。
なんかホテルみたいだな。ってここ宿だから普通なのか?宿っていうかただの家に見えるけど。しかも、普通に水道とかあるし、水道が普通にあるぐらいには科学か魔法が進歩してるってことか。どんな仕組みかは知らないけど。
「これって、、、」
「ああ最近やっと整備されたんだ。便利なんだよこれ」
「、、、そうなんですか。これって他の街とかにはないんですか?」
「首都のマーベイトとかここサハラとか大きい街しかないと思う」
「そうなんですか。」
「うん。ここで顔洗って。あと、朝食作ってあるから」
「ありがとうございます」
ソーアンは洗面台に備え付けられている楕円の鏡を見る。
これが私の顔、、、
これじゃ21歳って言っても説得力ないかもな。本当に西洋人の子供って感じだし。胸だってないし。
そういえば髪の毛、肩ぐらいまでの長さだったのか。しかも真っ白。自然過ぎて分からなかった。
気づかないと違和感に気付けないのか私は。そういうことなら、まだ気付いていないところがあるんじゃないか?
しかし、あんなに女性の体に魅力を感じていたのに、いざなってみるとそうでもないな。
いや、子供の体だからか。
「どうしたの?そんなに鏡を見つめて」
視線を上げると寝巻きを着た男が鏡に写っていた。
「おはよう、ガレン。別になんでもないよ。顔を洗うからちょっと待ってて」
自分より少し高いところにある洗面台に、頑張って手を伸ばし蛇口の栓をひねると、ガレンが後ろで何か呟いた声が聞こえた。
すると急に足の裏が砂を踏んでいるような感覚になり、たちまち目線が高くなった。
「なにこれ!?」
足を見ると体が砂によって持ち上げられていた。
「ガレン!これなに!?」
慌てた様子で後ろを振り返ると、ガレンはにこやかな様子でこちらを見ていた。
「君の世界にはない魔法だよ。砂を発現させて操る魔法さ。便利で相性がいいんだよこの魔法」
「知らないよ相性なんて!あと、急に魔法使うのやめて!びっくりしちゃうから!」
「ごめん、ごめん。急に使うのはやめるよ。でも洗面台、高いだろうなぁと思って。」
「そ、それは、ありがとう、、」
ソーアンは、なぜか体が安定する砂の上で顔を洗う。歯ブラシがなかったのでコップでうがいをするだけにして、ガレンと入れ替わった。
朝食は楕円形で縦に線が一本がはいったパンとトマトと卵のスープ、サラダを食べた。
一日ぶりの食事は目に涙がにじむほど美味しく感じた。
「これからどうするの?ソーアン」
寝巻きから黒いローブに着替えたガレンはパンをかじりながら尋ねる。
「まだ、わかんない。ここのことも知りたいし。魔法のことも知りたい。けれど、最初に知りたいのは、なんで私が他の魔術師に見つかるとまずいのか?かな」
「ああそれね。それは、君にとってこの街で、一番危険な存在は魔術師だからだよ。あんな派手な召喚を見て、興味が湧かない魔術師はいない。しかも、魔術師はなにをするか分からない。だから君を守ると決めた以上、他の魔術師に見つかるわけにはいけない」
「ガレンはなにをするの?」
「僕?僕は君を観察するだけだよ。僕は人の道を外れたような魔術師じゃないからね」
「なんか観察される方が気持ち悪いな」
「気持ち悪い!?」
ガレンは脳天に雷をうけたような顔をして、驚きながら机に膝を当てた。痛がっていると、その様子を見ていた三人の笑い声が聞こえた。
その後、ガレンは仕事に行くと言ってバーナと一緒に出かけて行き、ルーカスはソーアンの護衛のために宿に残った。ガレンはソーアンに今日は大人しくしていろと本をもらったが、文字は全く分からなかった。
「あの、今日って何かする予定とかあるんですか?」
退屈に耐え切れたなかったソーアンは、ソファに座って剣を手入れしているルーカスに話しかけた。
「俺はソーちゃんの護衛だからねぇ。ソーちゃんが動かない限りは俺も動かないよ」
ソーちゃん、、、
「あの、私のことってガレンから聞きました?」
「ん?聞いたよ。なにもわからなかったけどね。ソーちゃんのこと。あれって本当なの?」
「はい。多分、、、」
「多分って、、、ま、疑ってもしょうがないか。あの召喚を見たのは俺もだし」
話したのかガレンは。ガレンは私をどうする気なんだろう。違うか、私がどうしたいか、か。
「あの、外、出ませんか?このままだと、退屈すぎて死んでしまいそうです」
「ダメだよ。ソーちゃんが危険だから家に匿っているのに、出て行ったら、元も子もないでしょ」
「そうですよね、、、」
こうして、スマホがないソーアンは、一日中読めない本と格闘した。