3.自己分析
結局信じてもらえなかったソーアンは公園を出てレンガでできた家が並ぶ、人があまりいない石畳の道をガレンと共に宿を目指して歩いていた。
歩いているうちにソーアンは一旦自分を落ち着かせ、自分自身の新たな状況を整理する心の余裕を作った。
ガレンのやつに信じてもらえなかったことは一旦置いとこうそれよりも、この世界の事もそうだが、まずは自分自身について整理しよう。
私は異世界召喚された。召喚されたって事は召喚者がいるわけで、その正体について前世の記憶を辿ってみたものの心当たりがない。何か目的があるはずだが、これについても見当もつかない。
そして女の体になってしまったわけだが、、、、、まぁこれも分からん。
でも違和感がある。召喚された直後全速力で走った。しかし、私は何も違和感が感じられなかった。前の自分の体とはだいぶ体格が違うにもかかわらず何も違和感を感じられないのはだいぶおかしいけど全く感じなかった。前からこの体だったかのような感覚。自分の体のような安心感。脳がこの感覚が正常だと判断している。違和感のないことが違和感。もう訳がわからん。
記憶についても自分が女だと確信してから召喚される前の記憶に実感がない。
記憶していることは過去の事だから実感のがないのは当たり前のことだが、自分がやったことなのに自分ではない誰かがやったと錯覚してしまいそうになる。
女の体になったことがそんなに衝撃的だったのかもしくは時間が経つと召喚される前の記憶は消えていってしまって思い出せなくなってしまうか、、、。後者だとすれば怖い話だけど。
前の自分タカヒロだと思いたいけど今はすごく違和感がある。これ本当に私の名前か?
俺っていうのも女って気付き始めてから恥ずかしくってしまった。今さっきつけてもらった名前だが、ソーアンが謎にしっくりくる。
私は召喚されると同時にどこかいじられてしまったのか。それともこれが人間召喚の呪いなのか、、、、、?
呪いだとしたらなんで私なんだ、、、?召喚者だろ普通呪い受けるの。
ああぁぁぁぁぁぁもうクソがッ!クソ召喚者めッ!会ったら絶対ぶっ飛ばしてやる!地面歩けなくしてやるからな!なんで私がこんなに悩まなきゃいけないんだよ、、、、。チュートリアルぐらい用意しとけよ、、、、
「ど、どうしたの?そんな怖い顔して、、、、、」
ガレンは心配そうに見つめる。
「え?ちょっと考え事してた。ごめん。」
ソーアンは今にも人間を襲っていうような表情で一点を見つめていた。
「そんな顔して考えることもないと思うけど、、、、。」
ガレンは顎に手を当て悩んでいる。
おそらく私のことだろう。
そんなに私のことを考えてくれるのはありがたいことだし、何処の馬の骨かもわからない私を助けてくれるなんて本当に優しいけどなんか優しすぎて逆に勘ぐってしまう。
宿に着いた途端いきなり犯されて捨てられてしまうかもしれない、なんて頭の端の方で想像してしまったりする。
本当はこんな想像したくないけど。
それにしてもガレンって何者なんだろう。
明らかにそこらへんの人より綺麗な格好してるしローブだし、魔法に詳しい。しかも、そんなやつが都合よく私を助けるなんてありえるか?
「あの、聞いていいかわからないけど仕事って何してるの?ほらあの、、、他の人と明らかに服装が違うし、、、」
ソーアンは慎重にガレンの素性について問う。
「仕事?僕は魔術師やってるんだ。魔術師っていってもまだ下っ端だけどね。」
魔術師?貴族って感じだけど違うのかな。格好からして魔術師って結構儲かりそう。どうやったらなれるだろう。
「へーじゃあ貴族じゃないんだ。」
するとガレンは急に吹き出し
「貴族?ハハハッ君面白いね。僕がこんな格好してるからって貴族はないよ!」
顔真っ赤にして大笑いしている。
おぉ何これ貴族ってそんなにおかしい?貴族って魔術師にとってみれば笑える存在なのか?なんか貴族が不憫になってきた。
「えぇちょっと待って。そんなにおかしいの?貴族ってそんなに笑えるの?」
冷静にガレンを質問をするソーアン
「ま、まぁそうか。昔話に出てくる貴族ってこんな感じだったね。失念してたよ。」
とまだ少し笑っている。
「昔話って、、、じゃあ今の貴族はどんな感じなの?」
と質問した直後ガレンはひょうきんな顔から真顔に戻り疑いの目をソーアンに向ける。
「今って、、、今は貴族制度が廃止されて絶対君主制から立憲君主制になったじゃないか。何百年前の話をしてるの?君もしかして過去から召喚させられてきたなんてある?」
立憲君主制?立憲君主制がどんなものか詳しくは知らないないけど私が前にいた日本と同じってことか?
じゃあ民主主義国家で政治は市民がやっているってこと?
いや待てこの国のことなんて今私に関係ないだろ。
「いや過去ってわけじゃない。こことは全く別のところから来た、ぐらいしかわからない。多分その別のところは召喚とは関係ないことだと思う。」
「別のところって君が今まで住んできたところだよね。その別のところってどういうところなの?」
「それ聞く?多分信じてもらえないと思うけど。」
ガレンは無言で聞きたそうにしている。
「本当に?聞くなら信じてよね。」
聞き手は何度もうなずく。
話し手は言いづらそうにしていたが、ため息をついて丁寧に自分の住んでいた世界のことを知っている限り話た。
ガレンは話を聞いて渋柿を食べたような表情をしていた。
「ごめん。話しが全く理解できない。魔法がない?そんなことある?科学だけで文明を発展できるのか?二つないと何千年かかるかわからないよ、、、。そんな途方もないことやってるの?君がいた世界の人類は、、、、!」
ガレンは足を止め、頭を抱え呟きながら考えている。
「大丈夫?ごめん意味わからないよね。いいよもう。どれだけ考えたってわからないものはわからないよ。だって平行世界のことじゃん。忘れても大丈夫だよ。お前とは全く関係ないことでしょ?」
ガレンはハッとして自分を取り戻し頭を抱えているのをやめた。
「ありがとう。考えすぎて自分を取り戻せなくなりそうだった、、、、。そうだよね。今の状況とは関係ないね。ただそんな奇天烈な世界があるなんて、、、。あきらかにこの世界より文明が進歩しているし。人間が肌の違いや宗教の違い、価値観の違いがあるだけで妖精類や魔人がいなんてあり得るのか、、、?そんな御伽話ありえるのか?」
またガレンは自分の世界に入り始める。
「おい!ガレンまたやってるぞ。戻ってこい!お前からしたら御伽話に近いけど実感ないけど多分これは本当のことだ。」
そして再び帰ってくるガレン。
ガレンは信じると誓った以上信じるしかなく、何も理解できないままソーアンが言っていることを信じた。
二人は再び歩き出すと遠くの方からガレンを呼ぶ声が聞こえた。
ガレンは何も聞こえていないような態度を取っていたが、少し笑みを浮かべて歩いていた。
ソーアンは何かこっちへ走ってくる影が見えて眉間にシワを寄せた。
よく見ていると全速力でガレンを呼ぶパーマがかかった茶髪の帯剣した男がこっちを見て手を振っていた。
「ガレンさーーーーーん!!」
帯剣した男は息をあげ、両手を膝につけて二人の前で止まった。
「ガレンさん、、、やっと、、、、見つけました。一体どこまで行ってたんですか、、、、?!ほんとに、、。」
え?誰?
「やあ、ルーカス。ご苦労さん。」
疲労困憊の青年に対して笑顔で対応する。
「ご苦労さん、じゃないですよ、、、。見つけたと思ったら、、、見知らぬ女の子と歩いてるし、、、、ほんとなんなんですかって、、、あれ、、、この子、、、?」
青年は顔をソーアンに向けじっと顔を見つめる。
「あれ?召喚された子じゃないですか、、、!?見つけてたんですね、、、。この子、他の魔術師の方が探してましたよ、、、、。ハァハァ、、、すみません、深呼吸しますね。」
青年は深呼吸をしているとガレンは苦い顔をして
「まずいな。他の魔術師に見つかるのはまずい。おい、ルーカス。深呼吸おわったらそのマント、ソーアンに貸してやれ。」
深呼吸が終わり、呼吸を整えると嫌な顔一切せずにマントを脱ぎソーアンに渡した。
「ありがとうございます。ガレン、なんで見つかるとまずいの?」
マントを着ながら質問する。
「その話は宿でしよう。ルーカス、裏道知ってるかい?」
「はい!ガレンさんを街中走り回って探したので、大通りから裏道まで全部覚えました!」
ドヤ顔で話す。
「ほんと要領悪いよなお前、、、。じゃあソーアンはフードかぶって。ルーカスは宿まで案内しろ。」
ソーアンは言われたようにフードを深く被り、ガレンに手を繋ぐよう促されたが、それを拒否してルーカスの案内のもと三人は足早に宿へ向かった。