5話
汽笛に耳を揺らされて目が覚める。
意識が覚醒していく過程で、やたらと窓の外が騒がしいことに気づいた。
「お、おおお……」
車窓から首を出すのは危ないけれど、それが停車中ならば話は別。
初めて舞浜駅を降りた時の興奮を思い出す。
向かい側に停泊している寝台列車。車両の色がわからないほど、入り乱れるのは新入生の群れ。
そんな光景に目が疲れて、ふと天井を見た。ガラス張りの屋根は眩しい陽光を淡い世界に溶け込ませる。
たどって来た線路を省みるとこの場所が大きな湖の上にあることがわかった。
そしてその反対側。
ここにいる全ての人間の目的地であり、魔法を学ぶための学校。
「……魔法学校は城にしなきゃいけないルールでもあるのか」
そびえ立つ巨城は要塞の威厳を保ってそこにある。
最も巨大で本郭であろう洋風の城。そして煉瓦造りの校舎と、本郭よりも一回り小さい時計塔が見える。
懐古的なセピア色が纏う風格には歴史が感じられた。
建築物に見惚れるというヴァージンをこの城に奪われてしまった。目を奪われるつもりだったが、貞操を奪われるとは危険な城である。
ポケットの中にある感触を確かめると共に、数分前の愛馬との会話が脳内で再生される。
「その紙、誰かがいる前で絶対に出しちゃダメ。一人でいる時でも注意して。けど絶対に肌身離さず持ってるように」
会話が砕けたものになったのは、愛馬が俺と同い年であったから。その情報がもたらすのは同年の女子との交流という恩恵ではなく、俺が一つ歳下の奴等と勉学に励む事実だった。
つまり現実世界で言う留年、浪人扱い。
たった一年、されど一年。
ひとつ歳が違うのは海を隔てた島と島のようなもの。たかが三六五日、八七六四時間早く産まれただけでマウントが発生する日本の年功序列社会から鑑みても、年齢差は字面では表しきれない深い意味がある。
押し寄せる不安を顔に出したら「そんなの気にしてんの?」と愛馬に鼻で笑われた。
俺が過剰に危惧しているだけで、実際は年齢差など他愛のないものなのかもしれない。ただ、他人の事だと割り切ってこちらを馬鹿にしてくる愛馬には、純粋にムカついた。
こーいうところが女の悪いとこだと常々思う。
復讐を心に刻み話を戻す。
「そんなに大事なものなのか、これ」
「換金したら一生遊んで暮らせる」
「ねえ、やっぱりこれ買い取らない?」
「あげないんじゃなかったの……」
__貰えないとわかったものを無理に貰おうとは思わないから。
愛馬はそれ以上、この紙に言及してくることはなかった。ただ、その代わりに俺の素行を危ぶんでいるようで。
「表からわざわざ呼んだってことは、彼にも魔法の才能が?」
「わかんなーい」
「……はあ。ほんとテキトーなんだよなぁ、このじじい。とりあえず君は目立った行動をしないようにね。いろはとの約束」
「自分のこと名前で呼んでるのか…?痛い子……」
「ちょっとキャラ作っただけでしょ⁉︎」
優秀なのだろうけれど、ちょっと抜けてる子。
それが愛馬いろは__に抱いた印象だった。
「携帯持ってる?」
「え、あ、うん。持ってるけど」
突然の問い掛けに、戸惑いながらも愛馬はスカートのポケットから水色の手帳型をしたケースを取り出す。
この世界にもスマートフォンという文化はあるらしい。
それを確認してからトイレットペーパーを一欠片破り、テーブルの上に備え付けられていたペンに手を伸ばす。出来るだけ丁寧な文字を心掛けて、愛馬に渡した。
「は、え?なにこれ…」
「俺の電話番号とメールアドレス。何か困ったことがあったら頼らせてほし__」
__ドタドタバタンッ!!!
布団の上に倒れただけで、どうしてこんなに音が出るのか不思議だった。互いが対面する猫のように身を固める。
愛馬の息が荒い。どうしたんだこの子は。
「こ、これが、リア充の……リア充流の連絡先交換……。なんて鮮やかで素早い動きなんだ」
いや。
LINEを交換していないあたり、かなり奥手だと思うのだけれども。
最近のリア充って、粘膜接触が挨拶みたいなもんじゃねえの?知らんけど。
「迷惑だったら返してもらっても」
「いや、大丈夫!」
何が大丈夫なのかわからない。
ぱたぱと熱を逃がすようにシャツの襟を上下させる愛馬。渡した紙を壊れ物でも触るかのような手つきで、手帳型ケースのポケットに忍ばせる。
早めの復讐が出来て良かった。
「と、とりあえず紙ね、紙。いい?大丈夫?わかった?」
「はいはい」
「うむ、良い返事。返事の二乗」
謎の造語を残して、愛馬とペンシルドは鏡の中に消えてしまった。二人とも外せない大事な用事が後に控えているらしかった。出来ることならもう少しばかり止まってもはい、この世界の予備知識をご教授願いたかったけれど、その話題にはほとんど言及なく終わってしまった。
列車から降りた新入生は続々と城へ向かって歩いていく。自然の営みが生み出す耳心地の良い空間は消え、この場所は人工物であると思い知らされる。
知り合いに会えたのか、列車の中で仲を深めたのか、きゃっきゃっうふふとしている女子たちが目立つ。
それは男衆側も同じようで快活な笑い声は耳障りではない。桜の木でもあればさぞ良い風景だっただろう。
「新入生の方は誘導に従って進んでください」
声の主を視界に入れた瞬間。胸が大きく高鳴る音が骨を伝ってきた。
新入生と混ざらないよう目印として付けられた左腕の腕章。揺れる黒のスカートから覗く同色のスパッツ。なぜ彼女のスパッツの色を確認できたのか。俺が姿勢を屈めて先輩のスカート内を覗いているのではない。
彼女が浮いているのだ。ふわふわと。
箒に跨って。
城へと続いて行く生徒の頭上。少し目線を上にずらせば、そこには空を自由に散歩するとんがり帽子が目に入る。
まあ、本当は城を見た時点で気付いていたのだけれど。胸が高鳴ったのは、女子特有の肉感あるスパッツに興奮しただけなのだけれど。
浮かぶ箒にとんがり帽子。
the・魔法に胸を躍らせながら個室から出ると、すでに車掌が空いた個室を見て回っているところだった。
軽い会釈をするも反応は無く、俺の部屋をスキップして次の部屋へと進んでいく。全くもって失礼な態度だが、効率を重視すれば会釈も非効率的な行いなのかもしれない。
降り口から出て実際に真正面に立つと城の荘厳な雰囲気が肌を撫でていく。身が引き締まるとはこういうことなのだと思う。
どこに行けばいいのかまるでわからない俺なので、新入生の波にその身を任せるしかない。
駅に改札はなく、扇状に広がる通路を進んでいく。
終着駅から城までを結ぶ道。途中、石レンガで出来たアーチ状の橋があった。
橋の端を歩く俺からは下に広がる水面の様子がよく見える。苔生したような深緑色は海中を決して覗かせない。さっきから巨大な影が往復している気がするけれど、見なかったことにしよう。
西洋の城を思わせる巨大な門をくぐると、その活気は突然現れた。
「おめでとうございまーすっ!!」
「ゴレーム研入ってくださぁぁあいい!!」
「うわやば、めっちゃ可愛い子おる」
「今年の一年生イケメン多くない?」
おぇ__異世界じゃないのかここは。
めちゃくちゃ日本じゃねえか。
道を作るように列を成す在学生とその姿に眼を輝かせる新入生。隠す気のない浮いた言葉達に辟易しながら進んでいく。
魔法が使える世界__そんな前提がひっくり返るほどこの世界は日本じみていて既視感が強い。
あれだ。大学の新歓みたいだ。めっちゃ苦手。
ただ、目新しいものもあり、海外の成立ちというか日本人を疑うというか、そういった出で立ちを持った生徒をちらほらと見かける。赤に、金色、緑に青に黒、奇抜な髪色の人間は目立つ。
「テレビで見た大学の入学式にそっくりなんだが……」
成り行きに身を委ねるというのは怖いもので、自分が未知に放り込まれている事実に気づくのが遅れる。
見ず知らずの人、見ず知らずの世界。ここは日本であり日本でない。外国だ。
やばい。帰りたくなってきた。
どうやらこの人波が向かっているのはホールのような建物のようで、察するに入学式が執り行われる場所はそこのようだ。
流れるままにそのホールへ入る。
正面に構えるステージから、規則的に並べられた木製の椅子。従兄弟の結婚式で座った教会の椅子と形が同じだ。
驚いたのは天井とホール全体の側面に張られたステンドグラス。万華鏡を覗いたような、不規則に見えながら色調の整った絢爛な模様。
天井が高いおかげで、差し込む光も淡いものとなり、幻想的な空間造りに一役買っている。
入場した順番で座らされた席。クラスも決まらないままに入学式を行われるのは初めての経験。隣の生徒に話しかけたところで同じクラスとは限らないというのは、会話のやる気を削ぐには十分すぎる理由だと思う。
幸いにも右隣は同性だけれど、別に喋らなくてもいいと結論づけてしまう。本を読んでいるところ邪魔するのも悪い。
そう思ってスマホを取り出そうとした時だった。
「すごい格好だね」
と、入学式に本読んでるインテリ系眼鏡男子__隣の男子に話しかけられてしまった。
でもまあ、いつまでも会話パートがないのはつまらない。丁度良いタイミングといえばその通りだ。
「前衛的なファッションだろ?」
「いや、どうして制服じゃないのかを訊きたかったんだけど…」
困ったような笑みは穏やかで、場を乱さない小声はきちんと俺の耳に届く。青白いながらも、思春期の赤みがない肌。文庫を閉じる指は細長く、無意識に直された眼鏡の奥にある髪色と同じ栗色の瞳には、俺の顔が映っている。
一言二言だけで、第一印象で想像していた人物像とはかなり乖離しているのがわかる。人は見かけによらないものだ。
ここまでの経緯を説明すると、少しばかり長話になってしまう。いつ式が始まるのかわからない状況では、かい摘んで言うしかない。
けれど、かい摘めるほど俺も自分の境遇と要点を理解しているわけでもないので。
「制服って買えるのか?それとも貰えるの?」
「え、そこから⁉︎」
無礼を承知しながら質問に質問で返させてもらった。
眼鏡は露骨に不機嫌になることはなく、会話に本腰を入れる気になったのか、本を閉じるとそのまま胸ポケットに忍ばせた。
「制服は支給制。15歳の誕生日の日に入学届けと一緒に送られて来るんだ」
「へー。まるで入学が強制事項みたいだな」
「強制……ではないかもだけど裏世界で暮らしていくには魔法の技術は必須だから。うーん、暗黙の了解みたいなものかな」
「それにしては生徒が少なくないか? ここに居るのが今年の十五、六歳全部って」
俺の言葉を聞いて眼鏡の瞳が大きく開く。そして仄かに影が差したように見えた。
黙ってしまう眼鏡を前に、何か悪いことを聞いたのかと内心あたふたしていると。
「はっきり言ってやりなよ。あんた」
俺の左隣。
独り黙々とスマホをいじっていた金髪ポニテが声を上げる。
長い睫毛に、均整の取れた鼻梁。透き通る肌には、何の化粧っ気もない。
白鳥が着飾ることなど意味がない、とでも言いたげな容姿には、けれど一つ、いやおそらく二つ、似つかわしくないと思うものがある。全く似合っていない緋色の輝きを持つピアス。
他の女子たちより明らかにあか抜けている。というかこいつ__きっと。
空色の目はあくまでも画面にあるものの、その言葉ははっきりとこちらに向けたものだった。
「こいつ、あぶれ組でしょ。きっと親に何も説明されないまま送り出されたんだよ。ふん、可哀想に」
「あぶれ組?」
「あー、それは、えっと…ね」
「この様子、そして無知が何よりの証拠。ちゃんと説明しない方が残酷」
言い淀む眼鏡と冷たい口調の金髪ポニテ。
ぽりぽりと頬を掻いた眼鏡は、一息大きく息を吐くと俺の目を見据えて言う。
「この世界には魔法学校が三つある。けれど、そのたった三つで補えるほど子供の数は少なくない。全員が全員公平とはいかないんだ」
「魔法を学べない人間もいると」
眼鏡は頷く。
「で、俺がその人間であると」
「……」
ここでの沈黙は肯定と受け取っていいらしい。
誕生日に制服が送られてくる、そのイベントはこの世界の子供達にとって本当に特別なものなのだろう。
列車を降りてからここまで。隣を歩く新入生の眼が輝いていた理由。
それは選ばれたという自信と誇りに裏打ちされたものだったのだ。
制服を受け取っていない俺は、いわば選ばれていないのにここに来てしまった人間。
金髪ポニテの反応からするに珍しいことではないのかもしれない。
自分の子供が選ばれなかったという事実。それは本人だけでなく、産んだ親自身にとっても辛いもののはず。
なるほど。
俺はこの二人に、現実を受け止められない親に何も知らされないまま送り出された子供、と見られているのか。それは穿った見方ではあるけれど、まあ、間違った認識ではないな。勝手に送り出されたという点は、しっかりと抑えているし。
「じゃあ帰るか」
「え」
「は」
眼鏡と金髪ポニテの素っ頓狂な声が重なる。
「ここまで来た列車に乗れば帰れるんだよな」
列車の行く先などわからない。けれど、車両の振動に身を委ねて目が覚めたら新宿線の車内だった、みたいなオチがあるかもしれない。
立ち上がって眼鏡に訊くも、返事はなくただ口を開けて固まっている。
仕方なく軽く眼鏡を「おい」と小突くと再起動がかかった。
「そんなにあっさり帰るの……⁉︎」
「え、ここにいちゃいけないなら帰るのが普通だろ?え?なに、違うの?」
「そう…だけど…」
振り向いて金髪ポニテにも尋ねるが、信じられないものを見ている目は眼鏡と一緒だった。
おいおい。
帰って欲しいのか帰って欲しくないのかはっきりしてくれよ。
金髪ポニテは続ける。
「もっと抵抗するのが……普通」
「君はきっと知らないだろうけど、魔法学校への不正入学は大きな問題の一つなんだ。絶えない裏口入学に進級試験での賄賂。悪い噂は裏を返せば、それだけ必死になる人がいるという意味になる」
「へー。なんか冷めるなあ。夢と魔法の世界って蓋を開ければ現実と変わらねえのな」
軽口が出た瞬間だった。
ぐらりと、一瞬だけ視界が揺れる。
視界が固定されたと思えば、香りがわかるほど近くなった金髪ポニテの顔と、首元に掛かる圧力が遅れて伝わってくる。
胸ぐらを掴まれていた。
「ねえ、あんたの言う現実ってなに」
「おい…っ!!」
眼鏡の制止に聞く耳を持たない金髪ポニテの握力。俺の服に寄るしわが増えていく。
和やかとは言い難い俺と金髪ポニテの雰囲気に、少しばかり周囲がざわついた。
「もしかしたらと思ってたけど、あんたこっちの人間じゃないでしょ」
「この世界の娘っ子は皆好戦的なのな」
含みのある言い方でも俺の意図は伝わったようだ。
この女。感情の起伏が激しいようだが、冷静さは持ち合わせているらしい。
「こっちはね、魔法が使えるか否かでその人の権利が決まるの。だらだら何にもせず生きていけるほど楽な世界じゃない。家族のために本気で学ぶ気のある生徒だっている…、そんな子達から見ればあんたの態度は癪に触る。遊び半分は目障り。馬鹿にしないで。消えて」
「なるほど。お前は家族のためにここに来てると」
「……」
力強い瞳から意志の強さが伺える。
沸点が低い。と考えるより逆鱗に触れたと考える方が妥当だろう。
この少女には俺なんかでは到底理解出来ない薄暗い過去があるのだ。本気の人間にとって、生半可な気持ちの人間ほど苛立たしい存在はいない。
ここは素直に謝罪して足早にこの場を去った方が良さそうだ。
「なーんて思うわけねえだろあほか」
「は?」
「笑わせんな。人を馬鹿にしてるのはお前の方だろうが」
大声で言い放てるほどの勇気は無いので、最低限金髪ポニテに聞こえるボリュームを意識する。
必然的に距離が近くなる。
口臭が臭ってないか気になるところだ。
「今お前が俺に言った台詞、外で浮かれてる先輩共に言ってこいよ」
「……っ」
「私は本気で学びに来ているのだから遊び半分で浮ついた気持ちは目障りです、って俺の前で先輩さんたちにちゃんと言えよ。そしたら俺も素直に謝ろう」
「そ、そんなこと……」
「出来ないか、出来ないよなあ。当たり前だ。お前の詭弁は相手を弱者と判断してるからこそ出るんだから。先輩に突っかかって、悪目立ちして、学業に支障が出たら大変だもんな」
次第に弱々しいものになっていく金髪ポニテの表情。
「けれど俺はすぐに消え去る存在。いくら罵声を浴びせようと蜥蜴の尻尾切りに過ぎない。いい加減気づけよ。それってさあ__」
悪口でマウントを取っても仕方ない。
用意した言葉は俺自身の胸を貫きながら金髪ポニテの元に向かう。
努めて無色の声色を意識しながら俺は言う。
気取った奴と思われるのは死んでもごめんだ。
「__お前やお前の家族を傷つけてきた奴と、やってること同じじゃないのか」
「……」
『省みる』ことの残酷さ。
この無言はその時間だ。
身の内からじわじわと広がっていく嫌悪は誰でもない、自分への感情。
言葉は立派な刃物だ。人を殺せて自分も殺せる。けれど中には人を殺して、自分を生かす者もいる。
だから俺は去ろう。
ちょっとカッコいい言い回しが出来て俺は大変満足だ。
「ねえ、またダークなストーリーだと思われちゃうでしょ? 今時流行らないよそういう重い話」
ぐらりと、頭全体が揺れる。
__重いぞ、ナッパ!!なんつって。あははは。と、自らの発言でツボるこの声を俺は知っている。
「なんで俺の頭上から声がするんだ」
「そりゃあ勿論、私が君の上に乗っているからさ。ケイスケ君」
「ペンシルド……さん」
俺の視野ではその姿を捉えることは出来ないけれど、さぞ楽しそうな顔をしているのだろう。
踏まれている感覚はあるのに、ペンシルドの重みはない。
「入学早々問題を起こさないでくれよ。あっ、あと君の前で湖吹き飛ばしたやつ、あれ、ナッパの伏線だからね? 人差し指と中指で町吹き飛ばしたあのシーンの伏線だから⁉︎」
「パロディ好きですね…」
「私はジャンプが大好きだからね! これからもパロディは続けていこうと思ってる」
「権利云々で貴方の登場シーンモザイク処理されますよ」
「全然構わない、いや、むしろ歓迎するさ。【突如差し込む謎の光】で隠してくれば、それだけでパロディになる」
「待望の円盤で光が取れたら中身じじいとか、炎上通り越して詐欺容疑で訴えられそうですね」
精神年齢が中学二年生くらいの老人だ。
億劫な会話に継続を断念すると、ペンシルドもその意を汲んでくれる。
ペンシルドは大きく手を叩きホールの注目を集約する。まあ、人の頭上にいる時点で十二分に目立っていたのだけれど。
「待たせてしまったようだねえ、新入生の諸君。ここからは静粛に願おう。裏世界第一魔法学校の入学式をここに執り行なうよ!!」
高らかな宣言と共に起きるホールが震えるほどの拍手の音。喝采に紛れるのは羨望と尊敬。ペンシルドの威厳がそこに現れる。
その中で拍手をしていないのは、俺と眼鏡と金髪ポニテだけだ。
流れに乗り遅れたのではない。巨大な渦の真ん中はいつも静かなのだ。
「ケイスケ君」
呼ばれた方向は見れない。
けれど、その違和感からすぐに気がついた。
これがプライベートな通信であることに。
まただ。原理のまるでわからない魔法の類い。原理があることすら疑わしい魔法の類い。
「人との縁は大事にするべきだ。魔法とは人が紡いできた繋がりという名の営み。訪れる出逢いは大切に、そして丁寧に、そうすれば裏世界はきっと応えてくれる」
「…はあ?」
「仲直りは宿題だよ」
心の中で疑問符を返すと頭蓋に衝撃が走る。
ペンシルドがホールのステージに向かって飛翔する姿を見て、今のが踏み込みの衝撃であったと知る。
あまりの衝撃に一瞬視界が歪み、立っている力を保てなくなる。クッション性のない椅子は、俺の腰を受け入れるどころか抵抗してきた。腰痛っ。
対峙する相手を失った金髪ポニテが静かに着席したのを見て、ペンシルドが喋り始める。
眼鏡も金髪ポニテもその後執り行われた入学式の間、話しかけてくることはなかった。




