一章 四話
「ご馳走さまでした」
手伝いの後、給料の代わりにとアイシャから振舞われた朝食を、楓は全て綺麗に平らげていた。
(凄く美味しかった…)
平らげた後もしばらくの間余韻に浸っていた楓の前に、食器を片付けに一度厨房へ戻っていたアイシャが布に包まれた小箱を置いた。
「ハイ、お弁当。食べ終わった後の箱は学校帰りにまたウチによって返してくれれば良いからね。」
「わあ!ありがとうございます、アイシャさん」
楓は受け取った包みをカバンに仕舞う、中身が寄らないように慎重に。
「それじゃあアイシャさん、ご馳走さまでした。」
「お粗末さま。また朝食とお弁当が欲しかったら、手伝いに来なさいな」
アイシャの返事に一瞬動きが止まった楓は、直後に物凄く目を輝かせてアイシャの方を向く。
「いいんですか!?」
「ただし、魔女の弟子になるまでだからね」
「はい!ありがとうございます!」
そう言って一度頭を下げた楓がドアに駆けて行くのをため息混じりに見つめていたアイシャは、ふと楓に言うべきことがあったのだと思い出す。
「そうそう、そういえば最近この街に新しく、“オールラウンダー”の魔女が二人、着任したらしいわよ?」
「ほ、本当ですか!?」
「ただ、既に弟子をとっているかどうかまでは分からないから。ぬか喜びになるかもしれないし、伝えようか迷ったんだけど…」
「いえいえ、十分有難い情報ですよ。有難うございます!」
「本当は工房の場所とか…もっと詳しく教えてあげたいんだけど、協会が開示している事は“まだ”一般人のあなたに教える事は出来ないのよ…ごめんなさいね」
「謝らないで下さいよ!ここのお店に出会ってなければ未だ闇雲に魔女を探しているだけだったでしょうし…それに…」
「それに?」
「これは予感…といいますか。私の勝手な妄想かもしれないんですけど、もうすぐ私の師匠になってくれる人が見つかるような気がするんです。」
「…」
楓の少し恥ずかしそうな告白に、アイシャは顎に手を当て難しそうな顔をしている。
「…?アイシャさん、私そろそろ行かないと遅刻しそうなので、もう行きますね。」
「…あぁ、いってらっしゃい。引き留めてしまってすまないね。」
謝罪を口にしながらも、未だ物思いに耽っているアイシャを尻目に、楓は今度こそドアを開ける。
「行ってきます!」




