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君に《あい》をおくりたい

作者: 厨二 太郎

 人は定期的に贈り物をする。

 誕生日にバレンタイン、何かの祝いや旅行の土産など、実にさまざまの贈り物をする。

 全員が全員好きで送っているわけではないだろうが、人と交流している人間には必要不可欠な儀式だろう。


-まあ、僕には関係のないことだけれど。

 僕は人と関わることもないし関わりたいとも思わない。したがって贈り物などというものは必要ない。


-必要なかったんだ。




 その日はいつもより校舎が静かだと思った。

 春という浮かれやすい季節であるにもかかわらず、落ち着いているように感じた。

 そのせいもあってか、僕は機嫌よく昇降口にはいった。

 ローファーを脱いで下駄箱を開けると、中にはあったのだ。間違いなく間違いなものがあった。

 お餅だ。

 下駄箱の中にはお餅(個包装されているもの)があったのだ。

 開いた口が塞がらない、とはこういうことをいうのかと強く感じさせられた。

 

-なぜお餅が僕の下駄箱に?おかしいだろう!ふつうこの流れではラヴレターという甘美な響きをもつ品が届いているはず……いや、そうじゃない。そもそもラヴレターが男子校の下駄箱にあったとしたら、それこそ問題だ。よし、忘れよう。ラヴレターなどこの世界には存在しない!あぁ、無情!

-しかし、なんだってお餅なんだ。贈り主はご老体か!だとしたら下駄箱(一番下)なんて腰的に辛いものは選ばないだろう。なんということだ…謎が謎を生む。まさにlabyrinth!(わからない単語は人には聞かず、自分で調べましょう)

 考えすぎて疲れた僕はため息交じりに

「それにしても下駄箱って…」

と呟いて、しまった。


 次の日からは下駄箱には特に何もなく、あそこまで悩んだことがばからしかったし、拍子抜けでもあった。

 しかし、

 下駄箱にお餅が置いてあった日から一週間以上がたった日の昼休みのこと。

 廊下にある個人ロッカー、普段から教科書を持ち歩いているし使うことはないものなのだが、僕はその日、気まぐれにその扉を開いた。

 するとそこには、某トッポ、最中、大福、チョコレート、煮干し、納豆、と統一性のない食べ物が置いてあったのだ。

 僕は不意打ちには弱いほうなので、思わず「うわっ」と声をあげてしまった。

 しかもよく見ると、きちんとまっすぐ横に並べてあった。

 僕は不覚にも、律儀な奴だなぁと感心した。



 その日の放課後、僕は教室に忘れ物をしたので取りに戻った。

 この時も、学校は何故だか異様に静かだった。


 さっさと帰りたかった僕はせかせかと教室に足を踏み入れた。

 そこで、奴と目があった。

 教室にはもう誰もいないだろうと思っていた僕が愚かだったのか、教室に残っていたこいつがばかだったのか、僕にはわからない。が、とにかく僕は会いたくない/関わりたくない人間NO.1のクラスメイトに遭遇してしまった。

 名は草薙。下の名は知らない。猫みたいに自由気ままで気まぐれな奴。成績はお世辞にも良いとは言えない上に焦りも向上心も皆無。端的に僕の一番嫌いなタイプだ。

 とりあえず、最小限の交流のみを果たす。そしてノートを持ってダッシュ。

 そう心に決め、草薙に会釈でもしようかと思ったときだ。奴はガタっと音を立て席を立ち、教室を走り去っていった。

 本当に一瞬の出来事だった。

 教室に一人ぽつんと残された僕は仕方なしにノートを回収して教室を出ようとした。

 しかし、僕は目の端に奴、草薙の席の下に納豆が落ちているのを見つけた。


 パチッと頭の中でパズルのピースがはまったような気がした。

-連日律儀に置いてある怪しい(が、美味しい)食べ物たち。

-おそらく草薙の落としたであろうロールケーキ。

-そして、草薙のあの慌てよう。


「あ、そういうことね。」


 そう言うや否や僕は走り出した。

 理由はない。とにかく僕は奴を追った。

 この際、あのロールケーキが奴のおやつかどうかは考慮しない。

 授業をサボっている草薙。

 以前は見つからずに職員会議ものになっていたらしいが、最近はよく屋上で発見される。

 たったそれだけの根拠で僕は迷わず屋上に向かう。


 ギィィと重たい扉を開いたら、きれいな夕焼けがあった。

 その夕焼けの下には草薙が立っていた。 

 草薙は気に食わない奴だが、割とモテる。らしい。夕焼けをバックに立つ奴はなかなか様になっていた。


「あ、見つかっちゃった。」

 そういって草薙はふにゃりと笑った。

「いや、明らかに待ってただろ。」

 えへへ、と照れたように髪を掻く。

「で、一体何のつもりだったんだ?」

 僕の問いに奴は驚いたようで、目を丸くしキョトンとした顔をしていた。

「あれ?気づいてなかったの?」

「…何をだよ。」

 奴は胡散臭い笑顔で某うまい棒をさし出した。

「お餅、トッポ、最中、大福、チョコレート、煮干し、納豆、ロールケーキ、そんでこれ。」


 僕はようやく、このばかげたおかしな謎を解き明かした。というか、ほぼ答えだが。

「なんという、まどろっこしい上物好きな奴なんだ…」

「うん。褒め言葉かな」

「調子狂うなぁ。僕お前のこと割と嫌いなんだけど。」

 さすがにこの言葉は予想していなかったのかびっくりして、しゅん…と悲しそうな顔をした。

 いい気味だ、とほくそ笑みながら奴のうまい棒を手にとった。

「だが、お前の贈るものは実に美味い。だからこれは受け取ろう。」

「君は現金な人だねぇ。」

 僕は包装紙を開けてぱくりとうまい棒をかじり手を広げた。

「そして僕はフェアじゃないことはしない主義だ。だから、僕からは僕を贈ろう。」

 僕の行動がおかしかったのか、草薙は腹をかかえて笑った。

「君は律儀だなぁ。うん。そうだね。だから君なんだ。

 僕と『おともだちになろう』」


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