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最後のアイスティー
わたしは オレンジジュースを頼む
きみはいつもの アイスティー。
子どもみたいだときみは笑うくせに
運ばれてきたオレンジジュースを
いつも 一口だけほしいとねだる
正方形に整えられたグラスの中の氷が
ちいさく、ちいさくなるまで
飲み干すことも忘れて
きみを見つめた
左目の下に並ぶ
小さなほくろが好き
その甘い声を響かせる
優しい形をしたくちびるが好き
きみと視線が交わりそうになると
わたしは決まって
オレンジジュースを少しだけ口に含んで
うつむいて
無意味にストローをくるくるまわしたりする
きみは、気付かぬふりをして
冷たいアイスティーに手を伸ばす
それだけで、良かった
わたしの幸せというものは
たぶんひとつのグラスに
簡単に入りきってしまうくらいちっぽけで
シロップを落としたアイスティーの
不安定な歪みのように
儚くて うつくしかった
わたしはアイスティーを頼んだ。
オレンジジュースをねだるきみはもういない
初めて飲んだきみのアイスティーは
きみが笑ったときみたいに少しだけ甘くて
後味はいつまでも、苦かった。
fin.