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遥か高みへ至る者  作者: 英明孔平
第一章 
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第七話 監視者

前話での悠馬を思い出すシーンを本日0時過ぎに編集しました

 パトリックさんによるとここは、軍の兵士のための食堂らしい。

 朝昼の時間は決められているが、夜間警備などの任務はない限りは訓練が終わった後は、この食堂を使うか街の酒場や飯所に出て行くようだ。


 広さは学校での体育館ほどか。

 窓の外は既にくらくなっているが、話に聞いた明かりの魔道具なのか、天井にいくつかぶら下がっている球体が光を放っていた。


 食堂は非常にやかましい。何しろ、大勢の屈強な男どもが集まり酒も飲む場所なのだから仕方がないと言えば仕方がないが。

 食事は薄く切られた黒パン三切れにスープと干し肉だ。

 

 確か、黒パンはスープ浸すんだったよな。

 能力を使わずに思い出した知識を使って、黒パンをスープに浸し噛む。

  

 歯が欠けるかと思った。

 すごく固い。試しに軽く叩いてみたところ、コンコンときれいに音が出る。

 今度はたっぷりとスープに浸してから、慎重に口に咥え、噛み砕く。

 とても固く、バリバリと音がするが食べられないことはない。

 

 次に干し肉に移る。

 保存用の食材とはいえ、この時代の保存技術では少し腐ったような匂いでもするかと思ったが、意外と干し肉はいけるようだ。


 う~ん。料理チートも思いついたことには思いついたが、食材の問題もある。


 幸い、一人暮らしだったため料理に関してはある程度は経験がある。

 経験があるということは「記憶の引出」を使って作り、「予測」で精度を上げるという手もある。

 しかし、この世界での調味料や食材の種類や保存についても知らない。

 それと「予測」を使ったとしても、どれほどの腕前になるかはわからない。所詮は素人に毛が生えた程度だ。

 料理チートは要検討だな。


 干し肉を、口の中で咀嚼しながら能力について考える。

 それにしても、この干し肉は不思議だ。てっきり生臭いか腐った匂いでもするかと思ったが。

 魔道具なんてものがあるので、この世界の科学水準はもしかしたらある程度高いのかもしれない。

 確か干し肉の作り方は……。


『肉をそのまま干すのではなく、塩や香辛料などを使用することにより腐敗を防ぐ。また、燻煙することも多い』


 わざわざ発動までしなくていいから。

 こんなことを調べたこともあったのか。こんなのを調べる暇があったら、異世界で役に立つ知識でも覚えてろ、と過去の俺に向かって文句を言う。

 声もなんで発動してるんだ。「予測」の能力じゃないのかよ。


 自分で思い出すことと、能力によって思い出すのは少しわかりづらいな。

 今みたいに疑問が発生して即発動、だと魔力の心配もある。

 ここら辺の能力の調整も要検討っと。


「どうかしたのかい? マサヤ君」

「い、いえっ、パトリックさんは騎士って言ってましたよね。貴族の方がこんなところで食事なんてって思いまして」

 

 どうやら考え事をしていて、かなり長く干し肉を噛んでいたようで、パトリックさんが怪訝そうな顔をしている。

 誤魔化そうと咄嗟に思い浮かんだ疑問を問いかける。


「僕は、騎士の家の次男坊でね。本来なら他の家に婿養子にでも行くはずだったが、偶然、閣下に気に入られてね、今じゃこの領の事務処理関連を任されることになった。人生どう転ぶかわからないものだ」


 すごいな、実力出世か。

 それと自分の上司が無能ではなくて安心した。パワハラは何時の時代も嫌なものだ。

 感心しながら、黒パンの二切れ目をバリバリと噛み砕く。

 やっぱりすごく固い。


「それじゃ結構上の立場じゃないですか。なんでこんなところでこんなものを?」

「ははは。こんなとは随分だな。別にここで食べていいという理由はないだろう」

「そりゃそうですけど……」


 納得のいかなそうな俺に、パトリックさんテーブルに乗り出してゆっくり顔を近づける。


「階級が高い人達がいるところは、今はやめといたほうがいいからね。

 英雄君」

「な…」


 なんで知ってるんだ、と問いただす前に、パトリックさんの人差し指が俺の口を制す。


「ごめん、びっくりしたみたいだね。閣下からは君の世話役を任される時に君の秘密や、ここに来ることになった理由を聞かされたんだ」


 パトリックさんは俺が納得したのを確かめると人差し指を離し、体を元に戻す。


「僕もこうして今は落ち着いてはいるけれど、閣下から話を伺った時なんて腰が抜けかけたよ。僕なんかは一生見ることなんか叶わないと思ってた存在が僕の部下になるなんて悪い冗談だ」


 そこでパトリックさんは話を切り、手を胸に当てる。


「だけど、閣下はこういう冗談を言う方では無いからね。それにこんな機密を僕に任せてくれるなんて光栄だ。今こそ、小さい騎士の家の次男坊の僕を、これまで目を掛けてくれた恩を返す時だと思ったよ。 

 それにしても君、閣下このことをおっさんって呼んだらしいね。笑いながら話してたよ」


 カインズさんとの話の内容を知っているようだし、どうやらカインズさんに心酔してる感じだ。

 悪い人ではないようで、少々真面目すぎるような気もするが、だからこそ話の内容を話せる人物なのだろう。


「パトリックさんが、カインズさんに大分惚れ込んでいるっていうのはわかりましたけど、俺が転…あれだって知っていたんでしょう?いきなりそんな警戒心を煽るような台詞は、ちょっと不用心すぎじゃないですか」


「君の力は解析結果で見たからね。自分から攻撃するような力ではなかったし、大体の人柄は閣下から伺っているよ」

「なんて言っていたんですか?」

「へタレ、不用心と」


 あのおっさん……後で文句を……言えないな。


「ああそうそう、ここでなんで食べているかの話題だったね」


 そういえばそうだった。

 話題が大分それてしまっていた。


「簡単だよ、お偉いさん方は君を監視している。おっと、周りを見ない方がいい、疑われるよ」

 突然の言葉に、辺りを見回そうとするがパトリックさんに制される。

「それは俺がアレだからですか?」

 周囲を窺いたい気持ちを抑え、パトリックさんに質問をする。


「いや、君がアレなのは、閣下と姫殿下とその近衛騎士、あとは少数の信頼のおける者しか君の正体を知らない」

「だったら何故」

「いいかい? もう一度、君の正体を抜きにして自分の立場を考えてみたまえ。君は出自もわからず、怪しい人物だが王女殿下を追手から助け、その功績を姫殿下と閣下が称え、褒賞としてここに滞在することが許されたわけだが」


 なるほど怪しすぎる。

 そんな得体のしれない人間が、公爵や王女に気に入られているなんて、お偉いさん方には面白くないわけだ。

 

「中には閣下に敵対する貴族連中か、もしかしたら他国の連中も混ざっているかもね。

 一応、閣下の部下である私が見張るという条件付きで表だってはいないが、下手なことはできないというわけだよ」


 かなり微妙な立場というわけか。

 カインズさんも無理をしてくれていたようだ。

 まあ、多少の無理と転移者というお宝を他所に渡すことを考えればそう無理なことでもないかもな。


「そんな話をこんな所でしていいんですか?」

「こんな所だからだよ、マサヤ君。さっきも言ったように、ある程度階級が上の方々がいる方の食堂なんてどこに敵がいるかわかったものじゃない。

 ここなら騒がしくて声もかき消されるし、広くて周りがさっぱりしているから、盗み聞きもしてたらすぐわかる。念のために閣下から感知の魔道具をお借りしてきてるから盗聴の心配もないけれど、君も監視者には注意してくれよ?」


「なるほど……。感知の魔道具というのは?」

「ああ、君はこの世界についてはあまり知らないらしいね。ちょっと長くなるからこの話はまた今度だ」

「そうですか」

 

 適当にはぐらかされた気がするが、深くは訊いてはいけない雰囲気だ。

 感知の魔道具か。名前からして魔力か、人を探知するようなものだろう。

 

 その後は俺の世界の話やこの世界の常識を少しだが教え合った。

 

 帰りにもパトリックさんは付いてきて、途中の道のりで部屋近くのトイレの位置などを教えてくれた。


「明日の朝は僕が迎えに行くから待っていてね。

 あ、そうそう、もう一つ言っておかなければいけないことがあったんだった」

 部屋に着き、パトリックさんとの別れ際に彼はそう言うと、そっと俺に耳打ちをする。


「あんまり魔道具は使わない方がいいよ。ほんの微力だったから良かったけど」

 耳打ちをすると、彼は背中越しに手を振りながら去って行った。


 もしかして干し肉の時のか、と思いだしてから次いでパトリックさんが持つ魔道具のことを思い出し頭を掻く。

「何が、監視者に注意してくれよ、だ。最初っからあの人も監視者じゃねぇか」


 溜息をつき、扉を閉めると途端に部屋が暗くなる。

 どうやら、明かりの魔道具が設置してあるのは廊下だけらしい。


 窓から差し込む月の明かりを頼りに、ベッドにたどり着き、靴を脱ぎ捨てベッドに潜り込む。


 明日からの未知の異世界生活に、不安と面倒くささとちょっとの期待を胸に抱き、瞼を閉じる。


 最終目標は元の世界への帰還だが、やっぱりちょっとくらいはチート無双を目標としよう。


 様々な気持ちと目標を胸に明日から頑張ろう。

 おやすみ……。





「寝れねぇ!!」

 目を見開き叫ぶ。

 そりゃ気絶してた分と食事前の仮眠、それと体感的にはまだ12時にもなっていないだろう。

「あんだけ寝て、さらに早寝なんて無理に決まってんだろ……」

 恨み言を言うが誰かが答えてくれるわけもなく。

 

 こうなりゃ能力でラノベかアニメでも流して時間潰すかと思い発動しようとすると。


『残りの魔力残量、約25%』


 使い過ぎた……。

 さんざん暇つぶしに使ったもんな。あと食事中にも僅かだが。

 魔力が少ないからか、多少の倦怠感はあるが眠ることができるほどではない。


 魔力が減っても、多少の倦怠感だけなのか、それとも急に、倦怠感や気分の悪さが増えるラインがあり、最終的には気絶するのか。

 前回は、攻撃を避け続けた疲労があったので気づかなかったがこれも要検討……。

 

 眠るのに魔力切れによる気絶も考えたが、貧血に似た症状で、気絶する前に気持ちが悪くなるからやめておく。

 どれくらい眠るかもわからないし、もう使ってしまったがあまり使うなと言われているからな。



 ああ、いろいろ考えることが多すぎる。

 さっそく明日からの異世界生活に嫌気が差してくる。


 瞼を再び閉じ、やっと眠ることができたのは瞼を閉じてから声が三時間経過、と余計な情報を追加してからだった。


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