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遥か高みへ至る者  作者: 英明孔平
第一章 
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第五話 就職

 その少女は、幻想的だった。 

 

「どうかされましたか」

「へ!? いやえっと」


 少女の言葉に、茫然としていた意識が戻る。

「もしかしてあの時の?」

「はい。ロレーヌ王国王女、リリアン・クリスタ・ヴァン・ロレーヌと申します」

 

 本物だよ。どうしよう、さっきお姫さまが言った通り、出会いがしらに思いっきり笑っちゃったんだけど。

 いや、カインズさんと話した通り一応、俺は王女の恩人だ。

 ここで下手な態度を、とらなければ平気なはずだ。 

 お姫さまから先に名乗っちゃったけど、こういうのは俺から話すものだよな。


「あの時は王女殿下とは、知らず無礼を働き申し訳ありませんでした。遅れながら、お、僕は結城正也と申します」

 こんな時の礼儀なんて知るわけがない。

 できる限りの敬語で、腰を直角90°に折る。

 

「初めましてマサヤ様。堅苦しい挨拶はなしで行きましょう。叔父様もいつも通りで、どうせ正也様にも砕けた態度をとっていたのでしょう?」

「うむ。という訳だ、坊主も緊張せず楽にしろ」

 軽すぎるだろ。

 後、楽にしたくてもできないんですよ。最初、気づかなかったけど、お姫さまの後ろにエルーシャさんが構えてるし。

 ものすごく睨んでくるんですよ、この人。

 おかしいな。この人も、助けたことになると思うんだけど。


「立ち話もなんだな。二人も腰かけるといい」

 そう、カインズさんが切りだし、俺の時と同じように隅に置いてある、椅子を二つ引っ張ってくる。

「閣下のご配慮痛み入りますが、私は姫様の護衛であります。いつ何時、賊が現れたとしても対処できるようにしておきませんと」

 言いながら、こっちを見るのをやめてください。


「お前は相変わらずだな。そこが長所でもあり短所なんだが」

 カインズさんは、エルーシャさんの視線の方向に気づき、肩をすくめる。

 円状に運んだ椅子に、お姫さまが腰かけ、エルーシャさんが後ろに控える。


 カインズさんは、こちらを見ると意地悪そうに笑う。

「この坊主はリリアンの言うとおり転移者だ。証拠はまずオリジナルだな。

 それと姫さんの証言、後は坊主自身と衣服や持ち物、付いていた泥などを解析したところ、この世界にはまだ発見されてないものや、技術的に不可能なものがあったってところだな」

「俺の体を解析っていつの間にそんなことをしたんですか!」

 便利すぎる解析魔道具は、置いといて。

 

「いつも何も、坊主が魔力切れでぶっ倒れている時しかないだろ。安心しろ、解析っつってもそんな大げさな物じゃないからな」

「俺は、そういうことじゃなくて、勝手にそんなことをされているってことに抗議しているんですが」

「勝手も何も、せめて何者かぐらいは調べなきゃならんだろ。坊主が転移者って可能性もあったんだからな。

 儂らは怪しい奴をのこのこと侵入させるのか。それとも気絶したまま、身寄りのない坊主を放っておけば良かったか?」

 

 このおっさん、さっきの話で俺が何も知らないことに強気に出るか。

 実際正論だし、この世界の知識やらも、全部おっさんに教えてもらってやっとわかったところだ。

 金もなく知識もなく、あのまま森の中に放置されたらどんなことになるか。

「わかりました。進めてください」

 不満はあるが、今のところ解析とやらの違和感もないので、これ以上食い下がりはしない。


「うむ。では坊主も納得したことだから次に進もう。

 転移者とわかったことである問題が出てくる。坊主をどうするかだ」

 どうするかってどうなるんだ?


 このまま、この国で活動するのがいいんだろうけど、俺は元の世界に帰りたい。

 能力は、思ったよりチートでもないし、転移者として戦いに駆り出されたとしても、小説の主人公のように割り切って人を殺すことに、理由も動機もない。

 このまま、いたところで俺ができることはないだろう。知識チートもあるが俺の場合、広く浅くだ。

 銃などの兵器についてはある程度知っているが、構造なんてさっぱりで他も同様だ。知識も技術もない。


 第一この世界にはentertainmentがない。元の世界にまだ見終わってないアニメや積ゲー、積ラノベが山ほどあるんだ。

 

 となると行き当たりばったりになるが、恩を盾に異世界の知識と資金を手に入れて、帰る方法を探すという手もある。

 盗賊に関しても、能力か商団の移動に着いていけばいけるか?


「リリアン、お前はどうしたい」

 これからについて考えていると、カインズさんがお姫さまに話を振る。

「私はマサヤ様が宜しければこの国に留まって頂きたいです。マサヤ様は私の恩人ですから是非お礼をしたいのですが」

 お姫さまは、俺に向かって微笑みながら答える。

 女耐性のない俺に、この微笑み&頼みごとはキツイ。 

 つい喜んで、と言いそうになってしまう。


「なるほどな。坊主はどうなんだ」

 今度は俺に振ってくる。


「俺ですか? 俺は一先ず、元の世界に帰りたいですね。前の世界でやり残したことも多いですし、この世界で、俺がやれることはあまりないと思います」

 ここでなんとか援助を頼み込めれば。

「そうか、となるとますますこの国に滞在しなくてはな」

 はい?


「お前もさっき聞いただろう。この世界での転移者の立場を。生憎、転移者と知りながら、はいそうですか、と出て行かせるわけがないだろう。

 坊主の魔道具の能力はすでにこっちも知っているしな。どうしても出て行きたいのなら、こちらにも考えがあるぞ」

 えーと、これはもしかして監禁ルートとか?解析されているってことは、俺の能力も知っているわけで、つまりどんな戦い方もわかってるってことだよな。

 

 冷や汗が止まらない。

 どうする。まだ異世界について知らないことが多すぎる。金もない。

 逃げられる可能性も低いし、逃げられたとしてもこの先、生きていく術がない。


 俺が青い顔をしていると助け舟を出してくれる人物がいた。


「叔父様、この方は私の恩人です。物騒なことはお考えにならないでください」

 おお、お姫さま天使。 

「何も脅しているつもりはない。オリジナルだけじゃなく、転移者だけでも、その知識はそれだけで計り知れない価値がある。

 坊主、お前はリリアンを助けるために、追手の連中と戦った際に、魔道具を使っただろう。恐らく、連中もそれに気づくはずだ。確信はないにしても、我々の庇護下になくなった時、お前に何かしらの接触はあるはずだ」

 

 例え、少ない知識でも、異世界の知識だ。もしかしたら文化レベルを引き上げられたり、兵器に使える知識もあるだろう。

 さらに、転移者にはオリジナルがある。

 あの連中や、他にも何かの拍子に転移者だってことがバレたら、とんでもないことになるだろう。

 お姫さまもそれをわかっているのか、浮かない顔になる。


「本来なら、坊主を捕まえておくのは簡単だ。だがこっちには、坊主に絶大な恩がある。坊主がこの国に滞在してくれると言うのなら、儂らはできうる限りのことをすることを約束しよう」


 他の国は俺をどうするかわからないが、少なくとも、自分らの国にいるなら保護してやるってことか。

 オリジナルを渡したところで、俺自身にも価値があるというのなら、どうしようもない。

 まず、能力もない状態じゃ、唯の一般人である俺に身を守る力がない。それに俺が生きている限りオリジナルは使えない。つまり、俺を解放する意味もない。

 どの道、恩は使うつもりだったのだ。

 下手に逆らうよりおとなしくするのが一番いい。

 わざわざ俺の前で、こんな物騒な話をするところも恐ろしい。全然隠す気がないってところも。


「わかりました。遠慮なく、恩を受けることにしますよ」

 

 俺の言葉に、カインズさんはわかっていたかのように薄く笑い、エルーシャさんは苦い顔になり、お姫さまは、申し訳なさそうにしながらも、笑顔になる。 


「それでは、坊主の扱いは決まったな。さっそく働いてもらうとしよう」

 働く? 客人対応じゃないの?

「何を呆けた顔をしている。当たり前だろう。

 お前が転移者だってことは、ここにいる三人と、少数の信頼できる者しか知らないからな。

 陛下には報告しなくてはならんが、他の連中への説明はどうするんだ。説明もなしに、身元不明の輩を客人対応など不可能だ。坊主が転移者ってことは国家機密に入る事柄なのだからな」


「申し訳ありません、マサヤ様。私も悩みましたが、正也様が、転移者と他の国に知られる危険を考えますと……」

 

「大丈夫だ坊主。できる限り(・ ・ ・ ・ ・ )の仕事や、生活面での優遇はしよう。連中が転移者と疑わない程度にだがな。

 この国はいいところだぞ?飯もうまいし空気もいい。仕事もやりがいがあるしな。きっと坊主もこの国に骨を埋めたくなるだろう」


 おっさんはものすっっっごいいい笑顔で言った。


 ああ、うん。

 逃げ道もないが、これは充分好待遇だろう。客人扱いではないにせよ、収入も得られることのなった。さらには、ある程度の優遇も約束された。

 だけど、おっさんのこの笑顔が無性に腹立つ。

 


 何にせよ、元の世界に帰るため、異世界での生活が始まる。

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