第五十三話 決めたこと
一晩考えた。
それでも俺には、決めきることはできなかった。
所詮、流されないというだけで、自分で決めきることにためらいが生じるのだ。
自らを笑いたくなる。
だが決めきってはいないが、少なくとも悩みの半分は決めることが出来た。
それを伝えに行く。
俺はベッドから起き上がり、隣の部屋へと続く扉をノックする。
返事はない。だがいるはずだ。
エルーシャと話したのか、外で彼女と一言二言話していたのが聞こえた。その後、微かに隣から物音が聞こえた。
「アルド、リーゼ。いるよな?」
そう扉に問い掛けるとゆっくりと扉が開いた。
「マサヤ殿……」
アルドだ。
「リーゼは?」
「先ほどまで起きていて、流石に疲れには勝てなかったのか眠っています」
まあ、そうだろうな。
まだ十二歳なんだ。
「ん……マ、マサヤさんっ」
「ごめん、起しちゃったか」
「い……いえ」
「あー、そのなんだ。二人に言いたいことがあってな」
俺の言葉に二人の体が震える。
「そ、その前に! 大変申し訳ありませんでした!」
「も、申し訳ありません……」
アルドの隣にリーゼが駆けつけ、二人揃って頭を下げる。
「マサヤ殿のご決定に背くばかりか、怒鳴りあげてしまうなど……」
「私も……護衛の任を放棄……しちゃって……」
やっぱりか。
この二人のことだから、まずこのことについて話しておかないと話を進まないだろう。
「今回の件! 責任は私にあります! お咎めはすべて自分に!」
「兄さん、それはやめるって……兄さんだけじゃなくて……私に責任があります」
「リーゼ!」
「二人とも落ち着いてくれ」
二人が静かになる。
俺の言葉を待っている様子だ。
「今回の件だけど、二人にはお咎めなし。エルーシャの許可も貰ってるからな?」
「ですがっ」
喋ろうとするアルドを手で制す。
「当たり前だろ? 二人がいなくなったら、誰が俺の護衛をやるんだ。俺は嫌だぞ? 突然護衛が変わったりして、生活に支障がでるのは」
手で制したままだからか、二人は言葉を発しない。
悪いな。こうでもしないと聞いてくれなさそうだし。
「それと、討伐についてだけど、来たいなら来てもいい」
二人は、驚愕と喜びが混じった表情を浮かべる。
「もちろん条件がある。あくまで最優先は自分だ。俺を庇って前に出るなんてのは無し。これが守れないなら、連れてはいけない」
制していた手を下す。
「護衛が自分の命を最優先にするなんて、聞いたことがありません!」
「駄目……です。そんなこと」
「だったら許可できない」
自分で言ってて無茶苦茶だな。
心の中で苦笑いが浮かぶ。
「何で……マサヤさんは、そんなに私たちを行かせたくないんですか」
俺は言葉が詰まる。
「マサヤ殿が、母さんと知り合いだということは聞きました。それが理由なのですか? 自分たちは今、母さんの子供として立っているのではなく、アルドとリーゼロッテ、自分たちでここにいるです」
ああ、わかった。
俺は、正直逃げ口をルッカさんに求めていたんだと思う。
二人の危険に晒したくない、ルッカさんのためにもそれに答えたいのは本当だ。だけどそれだけじゃない。俺が二人をどう思っている。
「アルド、確かにルッカさんに言われたから、ということもある」
「……っ!」
「だけどな、それだけじゃないんだ。勝手だと思うけど、俺は二人のことを弟と妹のように見てる」
二人が目を丸くする。
そりゃそうだ。こんなことを言われれば当然だろう。
「迷惑だろ? だけど、そんな二人を危険な場所に連れて行きたくない。それが本音なんだ」
心臓がバクバク言っている。力を抜くと足の震えが止まらなくなりそうだ。
だけど言えた。二人を納得させると言うのに、俺が本音を言わなければ二人は納得しないだろう。
「まあ、そんなわけだ。二人からしたら、ゆっくりと考える時間も欲しいだろうから、しばらく考えてくれ」
二人は驚きで声が出ないような様子だった。
できれば、拒否の方向じゃないといいんだけどな。
固まっている二人をもう一度見てから振り返り、扉を閉めた。
それからだ。
二人は俺に同行すると伝えてきた。
俺が言った条件を飲むとのことだったので、俺はもう反対しない。
弟妹の件については何も言われなかった。俺も聞かなかった。
二人はいつも通りに戻っていた。それには安心できた。
中庭で訓練すると、お姫様との気まずい空気が流れるが、エルーシャのしごきを受けるとすぐに気にする余裕がなくなった。
そして、お姫様との空気を解消することもできず、討伐軍が出発する日となった。
すいません、しばらく不定期更新になるかと思います
大変申し訳ないです




