第五十話 予想外の叫び
五十話です
感慨深い物があります……
ここまでお読みくださりありがとうございます
「「ついていきます」」
二人に説明したところ、第一声がこれだ。
「もしかしたら、命の危険があるんだぞ」
そこまで過酷でもないらしいが、キツめに言っておく。
素人の俺じゃ、過酷じゃないって言ってもどれくらいかわからない。
「だとしたら、ますますついていかなくては!」
アルドの言葉にリーゼも無言で頷いている。
「……アルドはともかく、リーゼは駄目だ」
正直どうなるかわからない以上、リーゼは連れていけない。
アルドがどうでもいいというわけでは当然ない。まともに戦えば俺より強いと言っても、リーゼを連れて行くのはどうしても抵抗がある。
幼いということもあるし、女の子であるリーゼを軍に入れるのは色々と不便が起きそうだ。まあ、それを言うなら、素人の俺の方が色々と問題が起きそうだがそれはそれとして。
「……私なら……大丈夫です」
リーゼも引く気がないようだ。
かと言って、ルッカさんに二人を任されてそれを受けたこちらとしては、正直アルドも連れて行きたくないのが本音だ。
護衛に関しても、俺の安全は保障してくれるだろう。釈然とはしないが転移者という肩書のおかげでもある。さらには第二王子も同行するのだ。討伐に向かう兵士達も雑兵なわけでもないはずだ。
今回の賊討伐は俺の問題だ。二人を危険地に連れて行くわけにはいかない。
二人については、パトリックさんを通じてカインズさんに頼んでおきたい。
「二人は、さ、ほら王女殿下の護衛もあるだろ? エルーシャも四六時中守れるわけでもないし、その代わりをお願いしたいんだけど……」
「それはそうですがっ」
アルドがなおも食い下がる。
これは、いつもみたいに強く言わなきゃ駄目か。
「駄目だ」
いつものようにこれでアルドは諦め……
「納得できません!」
アルドの剣幕に、思わず目を丸くする。
アルドがこうも声を荒らげたのは初めてだ。リーゼに注意する時も、ここまで声を張り上げていなかった。小さい体でも、肺活量も身体能力と同じで並みではないのか、空気が震えたかと思ったぐらいだ。
アルドがいきなり声を荒らげたため、その隣に座っているリーゼも目を丸くして口を小さく開けている。
「――っ! も、申し訳ありません、自分はこれで失礼します!」
無意識に声を荒らげたのかアルド自身も驚いた顔をして立ち上がり、勢いよく頭を下げて部屋を飛び出して行った。
扉が閉まる音で、呆然としていた意識が戻る。
「私も……失礼します」
同じく意識が戻ったリーゼが立ち上がり、ゆっくりと立ち上がって部屋を出て行く。
一人になった俺は、息を数秒かけて吸い込み吐き出す。
何を間違えたんだろうな。
俺は本当に二人のことを弟妹みたいに思える。しかし、二人と出会ってからまだ二か月だ。俺とは違って二人にはそれぞれ兄妹の存在がいる。少し離れていても両親もいる。
俺にとっては二か月も、だが二人にとっては二か月しか、だ。短い付き合いの俺のために、危険に付きあわせるわけにはいかない。
俺はこの異世界じゃひとりぼっちだ。ようやくできた大切な存在を危険から遠ざけて何が悪いんだ。
それにしても、アルドの大声には驚いた。いくら転移者を尊敬しているからって、そこまで尽くさなくていい。
わからない。これも人付き合いの少なさからかな。
一人で頭を抱えていると、閉まっている扉がノックされる。二人だろうか。
「はい」
「私だ」
名前は名乗らない。しかし誰かはわかる。
「エルーシャか。どうぞ」
「失礼する」
扉の鍵は閉めたと思うが、別に不思議ではない。エルーシャは本館、別館のマスターキーを持っている。警備上の理由もあるし、エルーシャが持っているならばむしろ安心できる。
扉を開けて入ってきたのは、いつもより険しい顔をしているエルーシャだった。
険しい顔に思わず気圧される。
「ど、どうしたんだ?」
「それがだな……む、アルドとリーゼロッテはどうした」
そりゃ疑問に思うよな……。
「あー、二人はだな、その」
歯切れの悪い俺に対して、怪訝な顔をするエルーシャ。
「ふ、二人はちょっと俺が頼んだものを買いに行ったんだ」
「買い物ならば一人で十分だろう」
「いや、量が多いから」
「二人の力ならば、一人でも大抵の物を持ち運べるが」
即席の嘘ではエルーシャに通じない。
かと言って二人が部屋を出て行ったことを言ったら、何か罰則でもあると嫌だしな。元は俺からの話が原因だし。
「マサヤ、正直に言え」
「は、はい……」
なんというか、エルーシャの眼力が怖い。これならどんな凶悪犯の取り調べでもバッチリだな!
半分脅されたような形で事のいきさつを話す。
いきさつを聞いたエルーシャは渋い顔をする。俺の言い分にも納得できるが、同じ護衛の立場として二人にも共感できるようだ。護衛を放棄したことも、渋い表情の原因の一つでもある。
エルーシャも、俺の安全のためのことなので反論はできない。それでも二人に対して罰則のようなものはしないでくれと頼んでおくことは忘れない。
「わかった。マサヤがそこまで言うのなら私に言うことはない。討伐への動向については、私も二人に話を聞いておこう」
「ありがとう」
「礼には及ばん。さて、私の用件だが、姫様がお前をお呼びだ。」
「王女殿下が?」
「ああ、本館の方でお待ちになっている」
恐らく先ほどの件だろうが、何を言われるのだろう。騎士という立場で、お姫様に余り詳しく確認とらずに決めちゃったからな。文句を言われても仕方ない。
頭を掻きながら立ち上がり、扉の前に立ったままのエルーシャを見る。
……あれ?
「エルーシャ?」
「ん? ――っとすまない」
どうしたのだろうか。今度は気難しい表情をしている。
その表情のまま、部屋を出ると俺に道を譲る様に廊下の脇に避ける。
首を傾げていると
「先に行ってくれ」
「いや、でも」
「姫様は、ど・う・し・て・もお前と二人で話したいそうだ」
ああ、なるほど。エルーシャの表情の訳はそういうことだったのか。
先ほどのカルロとの対面時にも言われた通り、信用してくれていることはわかっているがそれとこれとは話が別のようだ。
「それとだな……二人のことについて言っておこう。自分のことを過小評価、軽んじすぎだ」
何のことだ? 俺が転移者だという大げさな肩書に反して貧弱なのは、エルーシャがよく知っていることだろうに。
それに俺は、自分のことを軽んじているつもりはない。インスティントの件だって、途中までは抵抗する気なんてなかった。あの時はただ、お姫様を見捨てたくないってだけの結果だ。
「……全く、ある意味似たもの同士だな……」
「? 何か言ったか?」
「いや、何でもない。ほら早く行け。姫様を待たせるな」
エルーシャから背中を押される。
「それと、今日は通路を開けているからそれを使え」
よくわからないが、怒られるのなら待たせるのは得策じゃない。
言われた通り、エルーシャより先に進んで本館に向かうことにした。




