第四十八話 カルロの用件
呆気にとられている俺を見て小さく笑った後、俺とお姫様の向かい側のソファ、つまりカインズさんの隣に腰を下ろす。
「何だ、面白い反応をしてくれたのはユウキマサヤだけか」
カルロの残念そうな物言いに、カインズさんが溜息をつきお姫様が苦笑を浮かべる。
「しばらく待っていろと、言っておいたはずだが」
「やだなぁ叔父上、俺がそんなのを守れると思っているの? そんなのは赤ん坊からおしゃぶりを取り上げるようなものだ。癇癪を起しても知らないよ」
カルロは軽薄そうな笑みを浮かべる。
先ほど会った時よりも、相当に砕けた態度だ。
「それに、俺は兄上から嘘偽り無く、決して手抜かりのないように調べろと言われているんだ。叔父上、リリアン、ユウキマサヤの当事者三人がこうして集まっていたら、疑って調べに来るのは当然だろ?」
悪びれる様子もなく、いけしゃあしゃあと喋り続ける。
「ふん、よく言うわ。それで? 何をしに来たんだ」
「わかってるくせに、リリアンが誘拐された件は既に調べはついてる。結果は報告通り、まぁ儀式的なものだしな。ここに来た理由は残りの一つ、そこにいるユウキマサヤについてだ」
カルロが俺を視線を向ける。
どうやら、囮やら云々はバレなかったようだ。
俺からバラすつもりはない。今更蒸し返したところで得はないからな。
「その、俺についてですけど、どうすればいいんですか?」
「あれ? 叔父上、彼にまだ話してないの?」
ちょうど聞くタイミングで、あなたが来たんです。
「まぁいいや、俺が説明するか。ユウキマサヤ、お前には俺の下についてもらうだけだ」
「下……に?」
怪訝に思っていると、隣に座っているお姫様が、少し怒ったような眼差しでカルロを見つめる。
「お兄様、それはいったいどういうことですか」
「落ち着け我が妹よ、今から説明するから。叔父上なら知ってるよな。最近、北の方でちょっとでかい賊が暴れまわっているのは」
カインズさんが頷く。
「ん、ああ。そこらの山賊よりも人数が多く、付近の領主たちが頭を抱えているとな」
「そう、それ。最近さらに規模が大きくなってさ。その付近の領主たちじゃ手も出せなくなってきたんで、国が出張ることになったわけ。転移者のこともあったから、どういう人物か知る必要もあってそいつに任せようってなってな」
「俺一人でどうにかしろってことですか?」
「いや、お前が戦闘向きじゃないってことは聞いているからな、こっちも兵は連れてきている。あくまで形だ、転移者がロレーヌの軍と一緒に動くっていう形をつくりたいんだ」
助かった。東の転移者ならともかく、俺じゃ無理に決まっている。
にしても形、か。やっぱり転移者ってだけで、他の国への牽制だとか意味があるんだろうな。俺自身は雑魚なのに。
というか他の転移者のハードルが高すぎるんだよ。歴史上の転移者のことを調べていてわかったけど、落ち込む気すら失せるほどのチートっぷり。
「マサヤ様の安全は?」
「規模が大きいと言っても相手は所詮山賊だ。正規の兵士の敵ではない。多少は参戦してもらうが、何も前線に出ろと言っているわけじゃない」
それでもお姫様はまだ納得がいかない様子だ。
俺が言うしかないか。
「わかりました」
俺の一言で、場の意識が俺に集中する。
「俺としては異論はないです。ですが俺は仮の立場ですが、王女殿下の騎士です。王女殿下、許可をいただけませんか?」
お姫様に体を向け、頭を下げる。
はっきり言って行きたくない。
カルロの言葉通りなら、安全は確保されているだろう。それでも、絶対じゃない。
そして、今度は確実に人が死ぬ場所だ。
前回は人が死ぬことも殺すこともなかったが、今度はどんな形にしろ人死には出る。
山賊が何もせず降伏でもすれば別だろうが、それはないと言い切っていいだろう。
でも、ここでごねた所で問題は解決しない。
ただでさえ転移者だってだけで厄介なのに、疑いまで持たれたらどうにもならない。
それに俺はお姫様の騎士だ。仮だろうと何だろうと、ごねたらお姫様に迷惑がかかる。
お姫様もそれぐらいはわかっているはずだ。
それでも俺の身を案じてくれる。改めてあの時、流されないで良かったと思う。
今回は流されるんじゃない、自分で進むんだ。
「……わかりました。お兄様、よろしくお願いします」
俺の気持ちを察してくれたのかはわからないが、不承不承ながらも了承してくれた。




