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遥か高みへ至る者  作者: 英明孔平
第二章
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第四十五話 クリス

 エルーシャの案は、結果を言ってしまえば駄目だった。

 案としては悪くないのだが、アルドが相手だと、むしろ俺への尊敬度みたいなのが増えていくだけだ。


 それに、河原で殴り合うような汗を流して連帯感を感じるのは、元が仲悪い場合だ。

 約二か月ほど一緒に暮らしていたようなものだ。仲が悪かったらやっていけない。

 

 というわけで、お姫様の案に移ろうかと相談したところ、予想はしていたが難しいとのこと。

  

 おかげで打つ手がない。

 駄目元で「予測」を使ってみたが、俺自身の対人経験の少なさからか、声が聞こえることはなかった。

 一応ちゃんと……友達と呼べるような存在は小学校から大学にいた。中学からはオタク友達ようなものだったが。

 他の主な交友関係が親友の悠馬ぐらいで、年下への接し方を知らない俺では流石の「予測」も無理だったようだ。


「まだ……悩んでいるんですか?」

 

 考え事をしていると、リーゼが俺の顔を覗き込むようにして尋ねてくる。


 俺とリーゼは、普段訓練をしているところとは違って少し離れた場所にある、広場のようなところに並んで座っている。

 普段は兵士などが休憩時間などに集まる場所だが、今日は一週間に一日だけある休日だ。大体の兵士は寝たり休んだりか、街に出るかで今ここにいるのは俺とリーゼだけだ。


 アルドがここにいない理由も同じだ。最初のころは、インスティントの件からあまり時も経っていなかったので、一週間休みなしの護衛体勢だったが、一か月前からからアルドとリーゼに休みを取らせることにした。


 当然ながらアルドには反対され、リーゼも納得ができない様子だった。

 しかし、そんなブラック企業な真似はしたくない。二人を説得して、何とか一週間毎に交代制ということで落ち着いた。


 アルドはまだ不服そうな顔をしていたが、今日は街に出ているらしい。リーゼも休みの日には、家に戻ったりもしているようだ。

 最初は俺がブラックな職場は嫌というだけだったが、先日ルッカさんと話をしたことでこれで正解かな、と思えるようになった。

 二人とも反対はしていたが、休みの日にはアルドでさえ、年相応の顔に戻っている気がした。


「……俺の世界じゃ、俺はただの一般人だったんだよ。それがいきなりこんな異世界に飛ばされて、転移者だなんて変な称号つけられて……そんなわけのわからない状況なのに、周りにいる人間まで他人行儀なんて生活、俺には無理」


 言いながら手を上で組んで体を伸ばす。背骨が鳴る感覚が地味に気持ちがいい。

 

「だからさ、リーゼには感謝しているし、アルドにもそうなってほしい」


 リーゼの頭に手を置き、撫でる。

 最近じゃ、こんなこともできるようになってきている。

 お姫様やエルーシャ、ルッカさんに……一応パトリックさんとカインズさん。そしてアルドとリーゼ。


 クラウディオやインスティントたちみたいなのもいたけど、こうしてのんびりしていられるのは、転移して出会った人たちのおかげだ。

 元の世界の俺では考えられても、感じることが出来ないことだ。運が悪ければ天涯孤独になりかけたからかもしれない。


 リーゼは目をつむりながら、俺の撫でる手の動きに合わせながら頭を揺らす。

 既に何回かしているので、嫌がっていないことはわかる。


「マサヤさんは……変わった人……です」

「そりゃ異世界人だからな」


 しばらく撫でた後は、広場に寝転がる。

 娯楽の少ないこの世界では、暇つぶしとは言えば本かチェス(この世界にもあった)や飲んだりぐらいだ。

 俺個人だったらラノベやアニメを頭の中に流して暇を潰せるが、リーゼがいるとそうもいかない。

 試しに折り紙やあやとりなどを教えようとしたが、折り紙は紙が貴重なので却下、あやとりは「予測」を使っても不可能な俺の経験と知識不足なためこれも却下。


 となるとこうして、のんびりするのが一番ということになる。

 リーゼも日向ぼっこが嫌いではなく、好きだと言うことなので、リーゼが休みの日はここに来ることにした。

 俺もわざわざ休みなのに、魔力を使って疲れたくはないしな。

 

 元の世界のころは大きくなってからやったことがないのでわからなかったが、案外気持ちがいいものだ。


 流石は休憩場所に選ばれるところのようで、夏の暑さを中和するようにさらりとした風が吹く。

 近くに木陰もあるので、暑い場合はそこに避難すればいい。


 忙しい現代日本を離れたからできることだな。


 リーゼもリラックスしたように座り、風で涼しそうに髪を揺らす。


 気持ちよさに瞼が負けそうになるが、誘惑には負けない。

 リーゼが起きたままだからだ。


 一緒に涼んではいるが、リーゼは護衛の役割がある。故に気持ちよさに負けて寝ることはできない。

 そして俺も、そんな少女の横でグースカ寝るほど無神経ではない。

 寝たい誘惑はあるが、十分この状態でも満足だ。



 しばらくのんびりと日向ぼっこをしていると


「やあ、いい天気だね」


 どこからか声が掛かる。


 状態を起こして辺りを窺うと、傍に一人の男が立っていた。


「えっと……」


 会ったことが無い男だ。なのに、何だか……どこかで見たことがあるような気がする。

 歳は、俺よりも少し上ぐらいだろうか。いかにも貴族のような豪奢な服を着ていて、少しくせっ気のある金色の髪をしていた。


 うーん、元の世界で外国人と知り合うことなんてないし、白人系が多いこっちの世界でも、俺の交友関係は狭い。

 なのに何だか……少し前にどこかで見たような……駄目だ、思い出せない。


 試しに「記憶の引出」で男を思い出そうとして、目の前の男と会ったことはないことがわかった。

 

 「記憶の引出」で思い出せないなら会ったことが無い。

 そう結論付ける。


「すまない、初対面だったな。僕の名前はクリスだ」


 クリスと名乗った男は、スッと手を俺に伸ばす。


 握手、だろうか?

 隣でリーゼが不審そうにクリスを見ている。


 一先ず、差し出されたのだから無視するのは良くない。

 クラウディオの前例があるから、あまり貴族には良い印象がない。けれど無視するわけにもいかないので、恐る恐ると彼の手を取った。


 あちらから握手を求めておいて当たり前だが、理不尽に振り払われるようなこともなく、クリスは俺の手を握り返す。

 こうなると無碍にするのも駄目だな。


「ユウキマサヤ、です。初めまして」


 俺が名乗るとクリスは、もう片方の手で自分のくせっ毛を弄りながら満足げに頷く。


「うむ。初めましてだ、ユウキマサヤ」


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