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遥か高みへ至る者  作者: 英明孔平
第二章
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第四十二話 コミュニケーション

 視界が開くと、ここ二か月ほど毎朝見ている見慣れた天井だ。

 体を起こそうとすると頭痛がする。


 窓から差し込む光が目に染みる。


 窓を覗けば既に日は、空高く昇っていた。


 頭痛と眠気でクラクラする頭を押え、地面に足をつけると忘れていたことに気づく。体をずらして、ベッドの脇に置かれている靴を、つま先で手繰り寄せてから履く。

 今でも、部屋の中で靴を履くというのは慣れないものだ。


 手をベッドに置き、支えにしながら立ち上がる。が、頭がクラクラするせいか、バランスを崩してしまう。

 

 前向きに倒れそうになる体が止まる。


「マサヤさん、大丈夫……ですか?」


 リーゼだ。前に回り込んで肩に腕を懸命に伸ばして俺を支えてくれている。

 彼女は、俺のへそよりちょっと高いほどの身長にもかかわらず、俺の体重の重さなど微塵も感じていない様子だ。


「おっと、ごめん」


 リーゼの体からは、想像できないほどの力があるのは既に知っている。そして落ち込んでいる。

 今更気にしたことではない。


 リーゼの手を借りて、ベッドにもう一度座り込む。


「アルドは?」

「兄……さんは今、ローゼさんと訓練をしています」


 あの人は疲れを知らないのだろうか。


「リーゼは行かなかったの?」

「一応……護衛とお世話役……ですから」


 なるほど、リーゼもエルーシャと訓練したかったのか。それは悪いことをした。

 エルーシャの訓練は、素人の俺でもわかりやすいからな。


「い、いえ……そういうわけじゃないんですが」

「とりあえず、水か何かある?」


 リーゼは頷き、あらかじめ用意してあったのか、小さな水筒を差し出してくる。

 俺はそれにお礼を言って、勢いよく飲み干す。


 一息つくと、それを待っていたかのように腹の虫が鳴る。


「私もお昼まだなので……そろそろ兄さんも戻ってくると思います」


 俺は頷き、再びリーゼの手を借りて立ち上がった。





「マサヤ殿! 御加減は大丈夫でしょうか!」


 食事をリーゼに取りに行ってもらっていると、アルドが部屋に飛び込んでくる。


「頭に響くから大声はやめてくれ……」

「はい! 申し訳ありません」

「だから……」


 アルドの大声が、飲み過ぎによる頭痛に響く。


「そういえばリーゼはどうされました?」

「食事を取りに行ってもらってるよ」


 基本、食事や日常品に限らず、本などの調達も二人に頼んでいる。

 ここは所謂、ゲストルーム、ではなくゲストハウスのような場所らしく、そばにある本館にはお姫様とエルーシャ。そして今いるところが別館に位置する。

 

 本館の大きさは、それはもう大きくて、二人じゃ充分どころかありえない広さであった。

 お姫様という地位で考えれば、むしろ小さすぎる気もしたが。


 対して別館は、どうやら本館を使用するお偉いさんの使用人が泊まるところらしく、やや小ぢんまりとしている。あくまで本館と比べてである。

 最初は警備人数などの都合から、俺も本館で暮らすらしかったが、さすがに遠慮しておいた。

 エルーシャさんも、難しい顔をしていたからな。逆にお姫様からは、少々残念そうな顔をされた。


 別館と言えど広すぎるため、主に使用しているのは現在の部屋だけだ。

 なので、多少広さが変わっただけで、あまり前の部屋とは変わっていない。


 ちなみに訓練にしようしている場所は、本館と別館に挟まれている小さな中庭のような場所で行っている。


 警備上の理由だか知らないが、前と比べてあまり自由に行動できなくなった。二人が俺の代わりに動くのもそのせいだ。

 なので、エルーシャが城の外に連れ出してくれたのは本当に感謝している。同じ外でも、例えるなら刑務所での運動場と、普段外出するような外と言ったところか。

 恐らく監視はついていたであろうが、それでもお姫様たち四人、あとパトリックさん以外とは約二か月ぶりだ。とても充実した時だったことは確かだ。


 今度は俺から誘ってみるか……外に出る許可が貰えるかは別として。


 その後、アルドは、俺の強さの秘密というあるわけがないものを聞いてきて、非常に困った。





 食事を取った後は、普段ならまた訓練! といったところだが、今日は午後も部屋で頭痛する頭を押さえている。


「マサヤ殿、何か御用はありますか?」


 アルドがベッドの脇に立ち、休めの姿勢で尋ねてくる。

 リーゼはアルドと代わって、エルーシャの訓練を受けている。

 二人とも、訓練の意欲は凄まじく、成長速度も俺とは段違いだった。


 エルーシャが、肩を優しく叩いてくれたのを覚えている。


「そうだな、部屋に戻っていてくれ」

「わかりました!」


 大声が頭に響く。

 アルドは、意外と気が利いて助かるんだが、どうもあのテンションが慣れない。

 

 部屋に戻っていろというのは結構酷い言葉だが、そうでもしないとどうにもならない。

 アルドも、むしろ命令された方がやりやすいらしく、嫌な顔一つしない。

 中高と、運動部どころか、帰宅部だった俺には後輩といった年下の接し方がわからない。

 

 お姫様は気軽に接するというわけでもないし、エルーシャも年下ではあるが、上司みたいな存在で威厳も俺よりある。リーゼは小さすぎるからある意味接しやすい。

 クラウディオたちとはまずまともに話をする、そういう関係ですらない。


 二か月も経つのだし、アルドももう少し、柔らかくなってくれると助かるのだが。

 もちろん、アルドのことは、ルッカさんに言った通り、大切な弟のようなものだと思っている。慕ってくれることは単純に嬉しいが、もうちょっとどうにかならないかと思う。

 

 考えながら暇を持て余すため、「記憶の引出」を発動させるが、頭痛のため、本も満足に読めない。アニメなどを再生しても、痛みで集中が出来ない。


 大学のコンパでは、悠馬がいたために無理やり飲まされることはなかった。女子が悠馬に寄ってきて、俺が精神的にダメージを受けたのは思い出したくもない。

 俺も悠馬も、飲んでもほろ酔い気分でやめるので、飲み過ぎによる頭痛は初めてだ。

 少しは慣れておいた方が良かったと、今更ながら思う。


 そうだ。いっそ、アルドに酒を飲ますと言うのはどうだろう。十四という年齢は、元の世界では酒を飲む年齢としては考えられないが、ここは異世界だ。未成年が飲んでいても注意などされない。

 流石にリーゼの歳で飲ませようとする人はいない。


 酔わせてみれば、エルーシャの様に少しは柔らかくなるんじゃないだろうか。

 しかし、ドワーフという種族は酒に強いイメージだ。実際に、この世界のドワーフも酒に強いらしい。

 体感的にはつい先ほど、ルッカさんの酒豪ぶりを見ると、酔うことがあるのか? と疑問が湧いてくるが、案としては悪くないと思う。

 サークルのなどのコンパや、部下を飲みに付きあわせる上司の気持ちがわかった気がした。


 ここら辺のことはエルーシャに聞いてみるとしよう。


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