第三十七話 これから
「え……王女殿下……?」
「はい、お久しぶり……と言いたいですが、今朝まで寝ていたので、あまり実感はわきませんね」
開かれた扉を掴んでいるのは、王女殿下その人だった。
「だ、大丈夫なんですか?」
「元々、エルーシャとマサヤ様に比べれば、そこまで深い傷というわけでもなかったので、治療の魔道具ですでに傷は塞がっていましたから」
治療用の魔道具は、例え傷が深くとも死んでさえいなければ治すことが出来る。
ただその代り、相当高価で余り作られていないらしく数が少ない。さらに消費魔力が、他の魔道具と比べると段違いであり、使用も医術の知識が必要らしく、おいそれとは扱えないもののようだ。
俺とエルーシャはある程度は治してもらっているが、お姫さまに魔力を渡していたこともあり、医療関係の方々が軒並み魔力切れを起こしそうだったので、残りは通常の治療に任せることになった。
「パトリック卿と叔父様にご無理を聞いてくださって、マサヤ様のお加減を、その、お伺いに……」
お姫さまは、先ほどまでカインズさんの座っていた椅子に座り、顔を伏せる。
「大丈夫ですよ」
「っ――!?」
お姫さまの肩が、ビクリと動く。
「この傷は自分が決めたことでついたものですから、王女殿下の責任ではありません」
あの時も、俺を巻き込んだことを悔やんでいる様子だったので、恐らく今もそうなのでは? と思い、声を掛ける。
「あ、え、えっと……だ、駄目です。マサヤ様を巻き込んだのは私の責任です」
そうは言われても、そりゃ俺は聖人君子ではない。全く恨んでいないと言ったら嘘になるが、それでも俺が自分で選んだことだ。
それに、全てがお姫さまの責任ではない。囮の策を考えたのはカインズさんだ。かといって、絶対に間違っているとは言えないのでどうしようもない。
「まずは謝罪を言わせてください」
「既にそれはカインズさんから受け取っています」
お姫さまの言葉を、言い方は悪いが拒否する。
気まずい沈黙が訪れる。
「そ、それでしたらどうすれば私はマサヤ様に償いを……」
そういうことじゃないだよ。
「償いなんて必要ありません」
「ですがっ――」
「あのサンドウィッチをもう一度いただけませんか?」
お姫さまの顔がポカンとした表情になる。
当然だろう。
どうすれば許してもらえるかで、サンドウィッチだ。
「あれのおかげで、俺はほんの少し、元の世界を懐かしめました。それと、俺がこの道を選ぶことが出来た切っ掛けでもありますからね」
「あ、あれはその……」
ポカンとした表情から一変し、顔が真っ赤に変わる。
「あれは……私が作ったもので、そんなもので……」
むしろ最高じゃないか。
「おいしかったですよ? あれでお願いします」
「は……はい」
すっかりお姫さまをゆでだこのようになってしまっている。
嘘は言ってはいない。ハーブがあれだったが、美味しかったのは事実だ。
「あ、あのマサヤ様はこれからどうするので?」
そういえば考えていなかった。
そこで俺は、すっかりゆでだこになったお姫さまに言う。
「できるなら、王女殿下のところで働かせてもらおうかと思ってます」
何だか湯気がでている気がする。
転移者と知られた以上、恐らく元の職場ではないところに送られるはずだ。
それならば、と思い、つい調子に乗ってしまったのもあるが、余り期待せずに言ってみる。
お姫さまは真っ赤な顔を冷ますように横に振り、息をつく。
「マサヤ様が宜しければ、こちらからお願いいたします」
やっと、一章を終わらせることが出来ました!
本当にここまでお読みくださりありがとうございました!
十話が折り返しって言ったの誰でしょうね
言い訳と二章からの予定などはこれから活動報告に書き込みます
それと続けて、今日の11時過ぎに閑話を続けて投稿します




