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遥か高みへ至る者  作者: 英明孔平
第一章 
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第三話 能力の対価

 少女はしゃがんだ状態で、戻ってきた俺に安堵の眼差しを向け、次にキラキラした目を向けてきた。

「素晴らしかったです!  矢を掴んだり、迫る巨大な剣を華麗に避けたり!」

 ああ、尊敬の眼差しが気持ちいい。

「無事だったか、もう一人は?」

「はい、エルーシャなら……」

 少女が言った矢先に、軍服の少女が枝をかき分け戻ってくる。  

 所々、傷があるが元気そうだ。

「姫様! ご無事で何よりです」

 軍服の少女エルーシャは、少女の姿を確認すると泣き出してしまった。

 大事な姫様を置いて離れるなよ、と言いたいところだが、流石に空気を読んで見守る。


「エルーシャご苦労様です。あなたは私の無茶な命令に、よく従ってくれました」

「無茶だなんて! 私は姫様の命令でしたら火の中水の中!」

 あの子のスカートの中~。

 ふと、そんなフレーズが頭に思い込んでいると、エルーシャがこちらに視線を投げかけてきた。

 凄い不審そうな目、今にも襲い掛かってきそうだ。 

 確か、まだ敵は二人いたよな。凄いなこの人。声の発動条件がまだ不明だし、思考加速にも限界がある。攻撃されたら無傷って訳にもいかなさそうだ。

 

「そんな目を向けてはいけません。この方は私たちを助けてくれたのです」

「しかし追手の手の内かもしれません、背中を見せた途端に……」


「それこそないでしょう。まず先ほどの戦力差では私たちの勝ち目は少なかったというのに、わざわざ助けてからと理由がありません。

 それに私からはこの方の戦いが見えていました。武芸には詳しくありませんが、あちらは手を抜いているようには思えませんでした。

 それなのにこの方はそれを無傷で避け続けたのです。この方があの時、敵にまわっていたらと思うと背筋が寒くなります」


 少女の言葉にエルーシャは不服そうながらも口をつぐむ。

 本当は必死で避け続けるしかなかっただけなんだけどね。

 反論できないからって、俺に向かって無言の圧力はやめてください、エルーシャさん。


 圧力に負けないよう、エルーシャとは視線を合わせずに、彼女たちに話しかける。

「話は済んだか?」

「私の従者が失礼を致しました。改めてお礼をしたいのですが、言葉だけでは貴方も納得しないでしょう、無論私もそれで過ごすわけにはいきません」

 そう言って立ち上がろうとするが、上手く立てないのかエルーシャに、手を貸して貰いながら立ち上がる。

 少女の足を見ると、血が滲んだ布を巻いている。


「お、おい! 大怪我してるぞ!?」

「ご安心ください。すでに血は止まりましたから」

 かなり真っ赤に染まっているけど、本当に大丈夫なのか?


 大量出血まではいかないが、結構な量が滲んでいる布を見るのは、事故にも合わず大怪我とは無縁でいた俺にはかなり厳しい光景だ。

 頬や肩にも小さな切り傷が多々見られる。女の子が傷だらけでいるのもいい気分ではない。


 何かないかとポケットを漁っていると絆創膏がいくつか出てきた。

 なんでこんなの持っていたんだっけ?そうだ、確かあの時から…


「それはなんでしょうか?」


 今、思い出しても関係ないな。

 とにかく持っていたんだから活用しよう。

「あ、ああ…これは、包帯? みたいなものかな。足の怪我みたいに大きな傷は無理だけど、小さな切り傷ぐらいなら使えるけど」

 そういいながら視線を頬や肩の傷を移すと、少女は今まで忘れていたかのような顔をした。


「すぐ治るみたいな便利なもんじゃないけど」

「い、いえありがとうございます。助けてもらうだけではなく傷のことまで」

 少女は僅かに赤くなりながら首を振る。

 

 絆創膏を手渡すと、つまんでしげしげと眺める。

「あのこれはどう使えば」

 そりゃそうか。使い方がわからないのは当たり前か。

 少女から絆創膏を受け取り、少女の頬に張ろうとすると、必然的に距離が近くなる。

 密着とまではいかないが充分近い。

 少女の僅かに赤くなった顔が、さらに僅かだが赤くなる。

 目もギュッと閉じられる。 

 なんだか俺も少し緊張してきた。ゆっくりと絆創膏を少女の頬に近づけていき……


「おおっとお!手が!!」


『頭を低く』


 ちょっ!?

 声と同時に思考加速が発動される。

 後頭部付近を何かが通り過ぎる後の風を感じ、うなじにハラハラと短い糸のようなのが落ちる感覚がある。すこし涼しくなった気もする。


「ちっ」

「ちっじゃねえよ!今、完全に殺りにきてただろ!」

「安心しろ。きっとお前なら避けると思っていたさ」

「この短時間で、あんたとの信頼が目覚めるフラグを立てた覚えがないんだが」


 油断も隙もないなこの人。

 さっきからの様子を見て、この子をかなり大事にしてるみたいだし。

 なにヤンデレ? ヤンデレでさらに百合百合しいの?


 少女は目を瞑っていたせいで、見ていなかったのか頭に?を浮かべている。

 全く……とんでもないな。

 あ、やばいなんか頭がクラクラする。死の恐怖で貧血にしては今更な気もするが。

 まずい意識…が……。


 今、立っているのか座っているのか、倒れたのかもわからなくなってきた。


「大…夫ですか! エ、……ーシャ、いっ……どうす……」

「私じゃありま……本当に避けられるって思って……ま…し」


 そこで意識は闇に沈んだ。

続いて9時過ぎに幕間を投稿します

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