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遥か高みへ至る者  作者: 英明孔平
第一章 
39/59

第三十六話 不器用なやり方

すみません、細かい所をあーじゃないこーじゃないとやっていたら、二日も過ぎてしまいました

それと、前話での後書き部分を前書きに書いてしまっていたので変更しました

「どうしてそう思うんだ?」

 

 カインズさんは膝に肘をつき、頬杖をつきながら問う。


「事件の最中は何も思いませんでしたけど、今頃になって考えてみると色々変なんですよ。いくらエルーシャがいたからって、襲われて一週間もたたないのに王女殿下のお忍びを見逃すなんて。それに今更ですが、前日のパトリックさんの態度も、変に思わなかったのがおかしいくらいです」


 カインズさんの表情は動かない。


「クラウディオもそうですよ、絡まれてからの流れがタイミングが良すぎです。絡んできたこと自体はクラウディオの行動ですが」


 変わらない表情に変化が表れる。

 疑いを掛けられたことによる怒りでも、企みを疑われている焦りでも、ポーカーフェイスや質問の意図がわからないといった表情でもない。


「森での件と今回の件、カインズさんが来たのはどちらも戦闘が終わり、どちらも助けが必要だった時です」


 汗が額に浮かび、頬をつたる。

 

「つまり、儂が黒幕というわけか?」


 カインズさんの表情は、俺の予想のどれも違った。怒ったり焦ったり、知らんぷりの場合も対応できるよう対策はしていた。だが、カインズさんの表情は口角を上げ、何か、面白そうなものを見るように俺を見ている。


「黒幕とは考えていませんよ。黒幕だとしたら、あの場面でパトリックさんを寄越す必要がありませんから」

「じゃあ、坊主はどう言いたいんだ」

「だからさっきも言ったじゃないですか。今回の知っていること、全部話してくださいって」


「坊主……いやユウキマサヤ」

「正也でいいですよ」

「はっ、マサヤ。これは仮定だが、俺が今回の件に一枚噛んでいたとする。そんな奴に真っ向から聞くなんて……お前、命が惜しくないのか?」


 背中に冷や汗が流れる。布団に入れているはずの足が震える。

 だが、引かない。

 太ももを思い切り捻る。


「惜しいに決まっているじゃないですか」

「なら何でお前……」

「今回だけは、もう逃げないことにしたんですよ」

 

 相当に俺は馬鹿だろう。ここでそれを問い詰めても、何の解決にもならないことはわかっている。

 それでも、この件だけは流されないようにしたい。もし、このまま追及しないでまた狙われるようなことがあれば、今度はお姫さまどころか、俺自身の身すら守りきれるとは限らない。


 カインズさんが関係している可能性に気づいたのは、つい昨日だ。やることもなく、ただ寝ていたらある不自然さに気づいた。それからは「予測」を何回も何回も繰り返し、不自然が疑問になって疑いとなり、どうしても何も知らないままではいられない考えに至った。


 最悪、刺し違えてもとまで思った。


 俺の答えを聞くと、一瞬、カインズさんが呆気にとられた表情をしたかと思うと、膝を叩きながら大笑いを始める。


「がっはっはっ! そうか、そうか!」


 豪快に笑い出した目の前のおっさんに、俺は言葉も出てこない。恐らく文字通り、開いた口が塞がっていない状態だろう。


「おい、入ってこい!」


 ひとしきり笑ったカインズさんは、呆気にとられている俺を無視して、扉の外に叫ぶ。

 

 扉が開かれ、一人の人物が入ってくる。


「アレン、どうやらお前の案は見破られているみたいだぞ」

「閣下、せめてもう少し誤魔化すなりしていただけないと」

「細かいことは気にするな。こいつに対して回りくどいのは、むしろ面倒なだけだ」


 ど、どういうことだ。


「ほれ見ろ、凄く警戒した目をされているぞ。こいつに読み合いなんてする意味などない」


 カインズさんの言葉にパトリックさんは溜息をつき、こちらに視線を向ける。


「あー、マサヤ君、色々言いたいことがあるだろうけど、一先ず説明をきいてくれると助かるんだけど」


 言いたいことも何も頭が追いついていかない。

 その無言を了承と受け取ったのか、パトリックさんは説明を始める。





 パトリックさんの説明は、こうだ。

 森での戦闘は、お姫さまが公爵領に訪問する際に起き、この件は関与をしていない。

 独自に調査をしていた結果、街中だけでなく城内にも幾人か、スパイらしき者が紛れ込んでいることを突き止めた。背後関係までは調べ上げることができなかったが、目的などは突き止められ、ここで一計を案じた。


 公爵領、特に城の中にいる間なら、如何なる相手だろうと警備を突破される心配はない。

 だが、お姫さまの滞在は一時的な物だ。王都へ戻る際にどうしても襲われる危険がある。敵の正体と数が不明なため、いくらエルーシャや、護衛をつけようと心配は残る。現に森での出来事の様にだ。

 いくら護衛対象が王女で、さらにカインズさんが公爵と言えど、軍を動かすわけにはいかない。


 そこで、餌を用意することにした。

 お姫さまと、連中に転移者の可能性を思えわれている俺を。


「王女の危険は考えなかったんですか?」


 自然と険のある声が出てしまった。


「そんなわけがなかろう。元々は、リリアンの身を守るために考えたことなのに、万が一何かあったら元も子もない。当然、いざというときのための監視はつけておった」

「だからって……」

「それに、マサヤには関係がない話だろう。異世界の、さらにこういう裏の話は」


 思わず言葉に詰まる。


「うむ、確かにマサヤを巻き込んだことは謝ろう。本来ならこんな大事になる前に方をつけるつもりだったが、オリジナルの存在までは考慮に入れておらんかったこちらの不手際だ。すまなかった」


 カインズさんが再び頭を下げる。


 違う。こういうことじゃない。

 カインズさんの案はわかる。他にも何かあったかもしれない、だがそれは結局先延ばしにしているだけだ。

 敵であったよりはずっといいのに、上手く納得ができない。


「クラウディオたちはどうなんだ」

「あいつらは保険だ。アレンからの報告から、お前に嫉妬を抱いていたようだな。連中がお前を狙っている可能性から、あいつらに接触する可能性があった。そこから調査を進めるつもりだったが、まさか操る魔道具とはな。

 魔道具は予定外だったが、今回はそれが良かった。囮に使ったことを秘密にしたとしても、領内で王族を攫われる恥を晒した。儂に公然と非難をぶつけられるのは辺境伯ぐらいのもの、だがその辺境伯の息子が操られていたとはいえ、下手人の中に存在している。風雅によって消耗しておる今は、奴も事を荒立てたくはないはずだからな」

「あいつは……カインズさんに感謝して……」

「ふん、それがなんだ。あいつの境遇には同情はしても、助ける義理はない」


 あいつらを許すつもりはないが、こうまで振り回されているのを想うと気分が悪い。

 

「あいつらはどうなったんです?」


 クラウディオがどうなったかは聞いていなかった。興味がなかったからというのもあるが、お姫さまとエルーシャの安否、そして今回の件の不自然さで頭がいっぱいだったからだ。


「今回は操られていたことと、辺境伯の息子ということで死刑になる可能性は多くはないが、良くて、これからブランディの名を名乗ることは許されなくなり、悪いとこれからの人生は牢獄暮らしだな」 


 カインズさんは、何のこともないようにただ事実を言っているように感じた。


「もし同情するなら、お前が預かることもできるぞ。今回の件で、お前が転移者だということは公然の秘密に近いものになってしまっている。当事者で転移者である、お前がいいというのなら、お前の部下としてつけてやることも可能だな」


 何も答えることが出来ないでいると、突然頭の中に映像が流れ込む。

 これは……「魔道支配」を発動させたときに流れ込んできた、あいつの記憶……か。

「わかりました」


 俺は咄嗟にそう答えていた。

 自分でもわからなかったが、恐らく「記憶の引出」が見せた記憶が頭から離れなかった。


「あいつ自身が出たいというのなら」


 一つ付け加えておく。今はわからないが、あいつは俺を憎んでいた。

 憎んでいた奴に助けられるのは癪だろうしな。


「お前も物好きな奴だな」


 カインズさんが椅子から立ち上がり言う。


「それと、リリアンに言うのは止した方がいい。まだ連中のことは解決していない。少なくとも儂はリリアンの味方をするつもりだからな」


 そう言ってカインズさんは部屋から出て行く。パトリックさんも俺を見て、複雑そうな表情をして後ろについていき、扉を閉めた。





 部屋から出た後、僕は前を歩く閣下の後ろを歩く。

 妙に早歩きだ。


 僕は、早歩きで前を歩く閣下に言葉を掛ける。


「閣下、失礼ながら申しますが、本当にあれで宜しかったのですか?」


 すると、前の背中がビクッと反応する。


「しょうがないではないか、囮に使ったのは事実なのだから」

「それにしても、もう少しやり方があったでしょうに」


 微かに背中が小さくなったような気がする。


「あの案は私が考え出したものです。あれでは閣下が完璧に悪役ですよ」


 何となく、前の人物が苦々しい表情をしている気がした。


「閣下は王女殿下のことは、実の娘の様に可愛がられておられて。ブランディ卿も、辺境伯のやり方に腹を据えかねた閣下は、わざわざ魔道具まで与え、色んな世話を焼いていたというのに」

「あれでいい。恩や義理など、今のあいつのとっては枷にしかならない。幸い、リリアンのことを憎んではいないようだし、それならば今回の責任は儂が全て被ればいいんだ」


 相変わらず不器用なお人だ。そして甘い。

 マサヤ君が転移者だということがバレてしまった今、他国や他の貴族から彼を守らなければいけなくなり、ブランディ卿の処置に追われるなど、今回の件の後始末など、これからやることは多いと言うのに。


 そしてマサヤ君が、卿の身柄を預かると言ってくれて一番安心しているのは閣下なのに。

 普通に頼んだんじゃ、断られるのは目に見えている。


 まあ、そんなお人だから、僕もここにいられるんだけどね。


「ところでアレン、もう向かっているのか?」


 不自然に話を逸らすかのように、閣下から問いかけられる。

 主語がなかったが、何を問いかけているか、それぐらいはわかる。


「ええ、余り怪我も酷くはありませんでしたから、どうしてもということなので、彼の部屋だけなら良いと」

「助かる」

 

 さてマサヤ君、君はどうするんだろうね。





 心に靄がかかった気持ちだ。

 

 この世界のことは、俺には基本的には関係がない。帰ることを諦めて、永住するのなら別だろが、俺はまだ帰ることを諦めたわけではない。今回は譲ってはいけない、ただの意地みたいなものがあったからってだけだ。


 巻き込まれた被害者なのは確かだが、ある意味、自分から突っ込んでいった結果だしな。


 考え込んでいると、扉がノックされる。

 開けられるのを待っていると、何時まで経っても扉が開かない。


「どうぞ」


 できるだけ、外に聞こえるように大きく言う。

 すると、扉がゆっくりと開き、一人の少女がおずおずと入ってくる。

「マ、マサヤ様、よ、宜しいでしょうか」


謝罪二回目です、すみません

この後、七時半に今度こそ一章最終話です


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