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遥か高みへ至る者  作者: 英明孔平
第一章 
32/59

第二十九話 2R

『「魔道支配」発動』

 

 声が頭に響くと同時に動いていた足が止まる。

 手をグーパーと開け閉じする。

 

 操る効果が消えた。

 

「どうしましたか、早くお乗りください」


 背後からインスティント声が掛かる。

 

 よし、このまま反撃……いや待て。

 「魔道支配」は今のところ、ただ操られないというだけだ。他にも能力があるのかもしれないが知る方法はない。

 それだったら操られたままの振りで、チャンスを伺った方がいいんじゃないか?


 ……無理だな。お姫さまを連れてこいつから逃げ切れるわけがない。

 

 楽な方に逃げるな。言い訳をするな。


 息を大きく吸い込む。


 脚に力を込め、斜め後方に全力で振り返る。


「っ!?」


 インスティントが驚いているのが何となく分かる。

 そりゃそうだろう。劣化していてもオリジナルだ。破られるなんて露にも思っていないはずだ。


 「思考加速」発動。


 目標はまずお姫さまと彼女を人質にしているクソ野郎だ。


 ゆっくりと両手がそれぞれ二人の頭に迫る。 

 左肩が痛む。傷を開かないよう、出来る限り左腕を使わないでいたが仕方がない。背中の傷は既に開いてるが、我慢すれば行動に支障はないので無視だ。


 まだインスティントは動揺している。


 両手が二人の頭に触れる。


(頼む、発動してくれっ!)


『「魔道支配」使用しますか』

 YES!!

 

 両手から体へ、何かを吸い込んでいくような感覚がある。


 お姫さまとクソ野郎の虚ろな目が段々と光を取り戻していく。


(成功だ――っ!?)


 発動したことに喜ぶ暇もなく、短剣が「思考加速」をしているというのに考えられない速さで迫ってくる。

 「思考加速」の速度を上げる。


 速い。多少は遅くなったがそれでもとんでもない速さだ。


 触れていた両手でそれぞれお姫さまは引き寄せ、クソ野郎はそのままの勢いで押し飛ばす。

 お姫さまを引き寄せて抱え込んだまま地面に身を投げ出す。


 うなじに風圧を感じる。背筋が震える。


 それでも何とか落ち着いて自分を下敷きに地面に倒れ込み、「思考加速」が止まる。

 素早く立ち上がりお姫さまの腕を引く。


「マ…サヤ……様」

「立て!」


 お姫さまの驚きと喜びに満ち溢れた涙目に、物語の主人公のように答える暇はない。


 俺の言葉にお姫さまは表情を引き締め、すぐさま立ち上がる。


 立ち上がったお姫さまを、エルーシャが固まっている方に転ばない程度に突き飛ばす。


 後ろは振り向かない。

 振り向いても振り向かなくても、次が来てたら今度は避けられない。だったら振り向くなど時間の無駄だ。


「ぐっ!?」


 背中が熱い。

 瞬時に刺されたと察する。

 ここに来てから結構怪我を負っているけど痛みは一向になれない。

 立ち止まって叫びたい気持ちで一杯になる。しかし走りは止めない。


 刺された後、引き抜かれたり短剣で中をかき回されるようなことはされていない。

 恐らく投げたか。ならば止まるわけにはいかない。折角のリーチをむざむざと詰めさせるようなことはしない。


 右手を思いっきり伸ばす。

 指先が、虚ろな目をしているエルーシャの赤い髪に触れる。


(「魔道支配」っ発動!)


 先ほどと同じく、触れた指先から体に何かが入ってくるような感覚を味わう。だが少し違和感を感じる。

 吸い込まれてくる何かとすれ違いに、何かが吸い出されていく感覚がある。

 不思議に思う間もなく「魔道支配」は完了する。


 それとさっきもそうだが、頭に触れるのは何となくだ。

 触れなきゃいけないとは言われていない。逆に触れなくてもいいとも限らない。だったら洗脳系にありがちな頭に触れて発動する。


 エルーシャの目に光が戻る。


「エルーシャ!」

「ああ、貴殿にはどれだけ礼を尽くしても足りなさそうだ」


 近づく俺と入れ替わりになり、背後で金属音が鳴る。


 音から逃れるように一歩二歩と進んで振り返り、そのまま近くにいるお姫さまを背中で庇うようにしながら言う。


「……貴殿はよしてくれ」


 エルーシャがフッと笑い、迫ってきていたインスティントにサーベルを振りかざす。

 インスティントの口が忌々しげに歪められる。


「何故私の【誘惑する者】が効かないだけでなく解除までできるですか」

「さあ……な。ピンチの時に覚醒するってやつじゃないか?」


 さらに口が歪められる。


「貴方は危険です。オリジナルの力を解除するオリジナル、あのお方の妨げになる」


 魔道具を無力化する魔道具。そういう力なのだろうか。

 もちろんそうだったらチートだが、俺はそんな都合のいい能力とは考えない。少なくとも解析か何かで確定しない限りは。


「……了解しました」


 突然、独り言を言いだしたかと思うと歪められていた口が元に戻る。


「おい、何をしている」

 

 インスティントが言葉を発しエルーシャが斬りかかるが、それを後ろに跳んで避けられる。


「少々、あのお方が試しておきたいことがあるようなので……」


 後ろに下がりながらエルーシャの剣を避け続け笛を取り出し吹く。


 エルーシャは斬りかかる途中の動作で動かなくなる。

 俺も一瞬動きが止まるがすぐさま「魔道支配」を発動し、手をお姫さまに触れる。


 操りが解けた後は、エルーシャにも駆け寄り彼女の操りも解く。


 すると複数の足音が近づいてきた。

 視線を向けると今度は残りの三人と、今度はクラウディオも立っている。


「では、ユウキマサヤさん。どうぞ」


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