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遥か高みへ至る者  作者: 英明孔平
第一章 
27/59

第二十四話 炎を纏い

前話での

「ああ、だが奴らが何を考えているのかわからない。御者台にいたのは二人だけ、しかも武器も短剣だけでさらにはの剣までぶら下げてな」

「さらには私の剣までぶら下げてな」

に訂正致します

 金属同士がぶつかる甲高い音が響き渡る。


 幾度となく響き続け、ひときわ甲高い音が鳴る。


「くっ……」


 エルーシャの剣が大きくはじかれる。

 仰け反ったエルーシャをクラウディオは容赦なく攻め続ける。


 エルーシャはそれでも応戦するが、額からは一粒の汗が流れ落ちる。


 あいつは確か出来が悪いって言われてたよな。あれでか?


 少なくとも、彼の剣技は素人目でも見ても出来が悪いなんて言われることはない。

 近衛騎士であり、並ではないことを知っているエルーシャを押す程の実力があるのに、出来が悪いと称されるなんておかしい。


 実力を隠していた?それもない。出来が悪いせいで人質同然に送られたんだ。隠す意味なんてないだろう。


「はぁっ!」


 押されていたエルーシャが横薙ぎに剣を振り、距離をとる。


「まずいな、辺境伯のご次男坊が武芸に優れているとは聞いたことが無いが、このままだと勝てぬかもしれないな」


 肩で息をしながら、横目でこちらを見る。


「貴様はどうする、と聞きたいところだが、恐らくあの者の狙いは貴様にも向かっていると思うのだが」

「そうだな、一応知り合いだよ。恨みつらみの方で」


 どちらかと言えば俺に向いている殺意の方が大きいかもしれない。

 エルーシャが負けたら、そのまま俺に斬りかかってくるだろう。


「まだここに来て7日ほどだろう、何をやらかしたんだ貴様は」

「何もやってない」


 エルーシャが呆れ顔をつくり、クラウディオに話しかける。


「ブランディ卿。貴方が斬りかかってきた理由をお話願えますか?お話にならなければ失礼を承知で申しますが、姫さまとこの者を狙った一味として考えますが。例え辺境伯のご子息でも、王族に手を出したならば極刑、下手をすればブランディ家全体が処罰の対象となります」


 クラウディオは答えない。

 ただ、目の奥に殺気を浮かべてこちらに剣を向けている。


 話が通じる雰囲気ではない。


「仕方がない。もっと離れた方がいい」


 二人の間に割ってはいる気もないので、言われた通りに距離をとる。


 剣を構え、一拍置いてから言葉を発する。


「……燃えろ」


 すると、薄暗闇の空間を剣が明るく照らす。


 彼女の剣はサーベルだ。その細い刀身が赤く光り、やがて炎を纏う。

 闇を照らすその炎は、同じく燃えるような赤髪をもつ彼女にとてもあっていた。


 炎を纏ったサーベルを振るう。振るった後には赤い残像が残る。

 

 再び剣戟が始まる。


 炎を纏ったと言っても、魔法でいう炎球ファイアボールのように打ち出すということはなく斬り合う。

 これでは結果が同じに思えるが、クラウディオは剣技にほんの少し陰りが見える。


 話が通用しないほど殺気を放っていても、警戒心などはある。

 彼女の剣は、遠目に見るだけでも相当な熱量を放っている。先ほどとは違い、掠るだけでも炎の熱で周りも火傷を負うはずだ。

 さらには僅かだが炎の残滓のようなものが残像のように残る。

 クラウディオは鬱陶しそうに残滓を睨みつける。





 おかしい。ブランディ卿の剣技に関しては、腑に落ちない部分もあるが隠していたと考えれば納得はできる。 

 しかしこの膂力はなんだ。

 私自身、細身でありながらそこらの男よりは力があると自負している。


 この剣の重さはただの人間では出せない。それこそ強化用の魔道具でもなければだ。

 閣下より魔道具を賜ったと聞いてはいたが、その能力によるものだろうか。


 そうと考えなければおかしい。


 今も奴の剣を受け止めるたびに体中が悲鳴をあげている。既に腕は痺れて感覚がなくなってきている。


 それと卿の様子もおかしい。元々、出来が悪く短慮と噂を聞いたが今の卿はまるで欲望のままの獣のようだ。

 私と後ろの、あの者への殺意しか考えていないように見える。


 勝てるだろうか。そんな思いが心に浮かぶ。


 一瞬の心の不安をつくように、相手の剣が縦に振るわれる。

 赤い髪が数本ひらりと舞い落ちる。


 ふっ、情けない。そんな考えが少しでも頭に浮かぶとは、私の命は姫さまに捧げ、その姫さまと私の命はあの者に一度救われた。

 所々、姫さまに近寄り気に食わないところもあるが、主君と自分の命を救われた者を助けられないようでは騎士の名折れ。

 やろうではない――


 わき腹に何かが刺さった感触を感じる。

 

 視線を動かすと、矢がわき腹に深く刺さっている。


「ぐふっ!?」


 喉から何かがせりあがってくる。手の平で押えるが止められない。

 口の中は鉄の味しか感じない。


 押えた手の平を見ると赤く濡れていた。


 卿に視線を移すと三人、卿と同じ歳ほどの少年らが卿の周りを盾のように取り囲む。そしてそれだけではなく、もう一人少し離れたところに立っている。


 内二人は先ほど御者台にいた二人だ。二人も含め四人の手には、遠くにいる一人が弓、残る三人は剣が握られていた。

 縛るための道具がなかったため、焼き切ってもまだ長さが残っていた縄を使おうと、深く気絶させていたはずだが。


 戦況は絶望的だ。

 卿一人でさえ手を焼いていたのにさらに四人だ。


 こちらには負傷者が二名だ。

 

 諦める、そんな言葉が再び心に――――浮かばない。


 ここまで来て諦めるてなるものか、これは無駄な特攻ではない。諦めずに生き残るためだ。


 卿が一歩引く。

 不審に思うと、弓を持っている男が矢をつがえる。


 油断せず遠くから狙って殺す気か。

 

 いいだろう。真正面から打ち破ってやる。あの者にも出来たのだ、私もやってやろうではないか。


 一人が構える矢の先を凝視し、剣の柄を握る。

 負傷によってうまく魔力をコントロールできない。剣に纏っていた炎を消えてはついてを繰り返していた。


 剣の柄をさらに強く握りしめる。

 絶え絶えだった炎は再び燃え上がる。


 さあ、来――い――――――

  

【炎のサーベル】

魔力消費によって炎を纏う

ランクA

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