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遥か高みへ至る者  作者: 英明孔平
第一章 
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第二十二話 葛藤

 エルーシャは馬車から飛び降りて、御者台に向かった。


 俺は揺れが止まった床に座りこんだままだ。


 外からは争っている声と音が聞こえる。


 どうするかは決められなかった。

 短い付き合いだが、パトリックさんやルッカさん、お姫さま、カインズさん、エルーシャ達がいる元のところに戻りたい気持ちは強い。

 だが、今度はどうなるかはわからない。

 

 あいつらには「予測」が通用しなかった。

 下手に逆らったら今度こそ殺されるかもしれない。

 エルーシャは脱出するとは言ったが、あんだけ派手に飛び出したんだ。連中を無力化しない限りは追いつかれるだろう。恐らく知っている可能性は低くとも、首謀者の正体を連中に問い詰めるためでもある。お姫さまに害をなした連中を葬るために。


 エルーシャは恐らく強い。あの時も二対一だったというのに軽傷だけで済んでいた。

 先ほどの木製の扉を吹っ飛ばしたことも見て腕力も並の力ではない。

 しかし、ここで捕まっていたということは絶対ではない。お姫さまというハンデがあったとしても、勝てる可能性は100%ではない。


 ましてや武器を持っていなかった。俺を襲った二人というわけでもないだろうし、勝てる可能性は低い。


 そこに俺が出て行ってもまたハンデになるだけだ。

 

 エルーシャが負ける可能性ばかり考えているが、このまま連れていかれたいというわけでもない。

 彼女の言うとおり、もしかしたら同じ待遇を受けられるかもしれない。けれど、逆の可能性もある。

 力もなく、知識もないような残念な転移者ではどうなるか。

 悔しくも、カインズさんの狙い通りになったのかもしれない。


 結局、こうして自分から行動することなく、待つしかなくなったわけだ。


 俺が行っても大して結末は変わらない。むしろエルーシャの敗因が増えるだけだ。さらに死の危険がある。


 自分でもなんて情けない考えだという気持ちがある。それでも俺はこんなところで死にたくはない。急に異世界に連れてこられて、転移者だなんて面倒な立ち位置にも関わらずに使いこなせない能力ばかりを貰って、どうしろというんだ。

 俺はもう帰りたいだけなんだ。


 思えば、何であの時ルイを助けたのだろう。あの傷がなければ、という考えもないことにはない。

 あの時は完全に反射的だった。あの時だけは自分の力でも救えたというだけだ。

 今や鈴の時のように、考える時間があれば俺はどう動いていただろう。

 正義感か、まだ異世界での英雄でも目指しているのか。


 昔の、あの頃の俺だったら迷わず助けただろう。

 あの頃は何も知らなかったというだけだ。


 悠馬がいたらなんて言うだろう。幻滅するか、何も言わないか、もしかしたら背中を押してくれるかもしれない。せめてあいつが一緒にいたら何と心強いか。俺は異世界にたった一人だ。


 外が静かになった。


 どうやら決着がついたようだ。


 足音が聞こえる、近づいてくる。


 鼓動が早まる。


 そして見えたのは燃えるような赤髪だった。


「さっきあんな事を言って別れたばっかで決まりが悪いが、どうやら無事なようだ」


 エルーシャは片手に剣を持ち、傷一つなかった。


「随分、余裕みたいだな」

「ああ、だが奴らが何を考えているのかわからない。御者台にいたのは二人だけ、しかも武器も短剣だけでさらには私の剣までぶら下げてな」


 散々考えていた俺の不安は全くの杞憂だったようだ。

 しかし何を考えているのか。捕まえたから安心していたのか。


「連中は?」

「殺してはいない。奴らとはそれだけ差があったからな。このまま馬車で戻るつもりだ。

 貴様は戻るということでいいんだな。逃げたいのなら逃げてもいい、はした金だが奴らがいくらか持っていた。そろそろ多少だが生活の方法もわかってきただろう。転移者という鎖に縛られてくないのなら、適当に誤魔化しておくが」


 俺は少し悩んで首を振る。

 不安なのだ。

 これでは家出をしたいが、不安でする勇気もない子供みたいだ。


 何にせよ、葛藤は無駄になったわけだが、これでいい。これ以上変わらなくていい。

 息を一息つく。

 

「奴らをこの荷台に乗せるから、一旦降りて――」


 エルーシャは急に剣を抜き、後ろに振るう。


 金属同士がぶつかる音が響く。


「やはりまだいたのか。まさか……」


 エルーシャに剣を振るった男、名は、

「クラウディオ・ブランディ卿。何故貴方がここにおられるのか」


 彼の目は虚ろでありながら奥に殺気が潜んでいた。


余りにも主人公のうじうじで話が進んでいないので、今日は九時過ぎに二十三話を投稿します

ぐだぐだすぎて気分を悪くした方がいたら申し訳ありません

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