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遥か高みへ至る者  作者: 英明孔平
第一章 
21/59

第十九話 迫る殺意

すみません

大幅に遅れてしましました

 鈴と別れた後はまた街の散策に戻る。


 時々、リリがお店に寄って行ってパンなどを買っていた。


「申し訳ありません、荷物が多くなってしまって」

 リリが申し訳なさそうに言う。

 俺は気にしていないという。


 二人は両手で抱えるほどの荷物がある。


 歩いているのは一般区に入りさらに外に近い地区だ。

 街の散策も終わり、夕暮れとはいかないが日も落ちかけてきた頃。


 リリは最後に行くところがあると言い、目的地に向かっている。


 外に近づいてきたのか、外壁が見える。

 周りの建物も段々と言い方は悪いがボロくなっていく。


 それでもリリの足は止まらなかった。



「ここです」


 それからしばらく歩いた後、たどり着いたのは古びた教会だった。


「教会?」

「はい、ですがここは孤児院としての側面もあります」


 孤児院?

 そう聞き返そうとすると、教会から飛び出してくる声によって遮られる。


「おねえちゃんだ!」「久しぶり!」


 十二歳以下ぐらいの子供が十人ほど教会の扉から飛び出してくる。

 子供の中には赤ん坊を抱えていたり、獣人族の子も混じっている。


「お久しぶりです。ティア、ちゃんと好き嫌いはしてませんか? ルイ、シスターに迷惑はかけてませんか?」


 リリは一人一人、名前を呼び頭を撫でている。


 その内、リリの後ろに立っている俺をルイと呼ばれた少年が気づく。


「おねえちゃん、誰こいつ」


 ルイが俺について聞くと、他の子供たちも俺の存在に気付いたのか一斉に視線を向けてくる。

 警戒、怯え、好奇心、様々な感情が浮かんでいる。


「ルイ、コイツなどと言ってはいけませんよ。さあ、まずは入りましょう。まずはシスターにも挨拶をしなくてはいけませんからね」


 子供たちは、大人しくリリの言うとおり俺を遠巻きに見ながら教会の中に入っていく。


「マサヤ様、ルイが申し訳ありません」

「い、いやいいよ。だけどここは?」

「ここは先ほど言った通り孤児院です。親を亡くしたもの、捨てられたもの、様々ですが皆一人では生きてはいけない子たちが集められているのです」


 説明するリリの目には、僅かな自責のが見て取れた。





 外観もそうだったが、中も相当ボロかった。

 教会内部にある応接間のようなところにたどり着くまでに一度、床が抜けて足を取られて盛大に転んだ。


 警戒していた子供たちも、間抜けなこの姿に毒気が抜けれたのか、大笑いしている。

 

 なんとか耐えているとリリまでも堪えるように笑っている。


 死にたくなったが、子供たちの警戒の目がなくなったので、まあ……よしとしよう。


 応接室には二十代後半に見えるシスター服を着た女性が座っていた。

 この人がリリの言っていたシスターなのだろう。


「お久しぶりです。シスター・マリー」


 リリがゆっくりと頭を下げる。

 つられて俺も頭を下げると、女性の声が聞こえてくる。


「ええ、お久しぶりです。ミス・リリ、それと初めましてお連れの方。

 さあ、お座りください」


 顔を上げると、先ほどのシスターが同じように頭を下げている。

 リリがシスターと向かい合わせになっているソファに座る。

 

 俺がどうすればと戸惑っていると、突っ立っている俺にシスターが改めて席をすすめてきた。


 子供たちもわらわらと入ってきて、さして広くもない応接室の人口密度は急激に高くなる。


「ミス・エルーシャはご一緒ではないのですか?」

「いえ、すぐ近くに。今日はこちらのマサヤさんにご同行もらいました」


 シスターが俺を見る。


「は、初めまして。結城正也、です」

「ミラノ・マリーです。お気軽にシスターとお呼びください」


 無宗教の俺でも思わず拝みたくなるような、慈母に満ちた笑みを浮かべた。


「シスター、これをどうぞ」


 リリは手に抱えていた荷物をシスターに手渡す。

 俺も渡そうとするが、シスターはもう持てそうにない。

 

 すると、子どもたちの中でも最年長に見える少女がシスターの代わりに受け取ってくれた。


「ありがとうございます。貴方に神のご加護を」


 シスターは抱えていた荷物を近くの子供に預け、俺とリリに向き直り十字架を切る。


 話が終わったと思った子供たちは一斉にリリに群がる。

「おねえちゃん遊ぼう!」「ちょっと先にあたしたちよ」「おい、押すなよ!」


 呆気にとられていると、やがて競り負けたのかルイがむくれた顔で群がっている集団から出てきた。


 これはいい機会だと思い、俺はルイに声を掛ける。


「なあ、ボールってあるか?」





「なあ、本当に楽しいのか」


 前にはルイと他、同じく競り負けたのであろう子供たちが四人並んでいる。

 場所は教会脇にあった空き地だ。

 ああいう押しの部分ではやはり女子が強いのか、並んでいるのは男子だけだ。しかし今は好都合。

 

「ああ、お前らはサッカーって知っているか?」


 俺の言葉に首を傾げるルイたち。

 

 よし。


 首を傾げるルイたちにサッカーのルールを教える。

 ルールと言っても、オフサイドなど元の世界でも面倒くさいのは教えず、手を使わない、相手のゴールに入れるという二つだけだ。

 ボールは動物の皮で作ったらしい、球があったのでそれを使う。



 最初は面倒くさそうな顔をしながらやっていたが、段々と楽しくなってきたのか今ではすっかり夢中になっている。

 さすがは小学校では休み時間の代名詞ともいわれるスポーツだ。

 

 俺はというと、最初は昔遊びでやっていたサッカーを生かし、優位に立っていたが流石は疲れを知らない子供だ。

 中盤でもう追いつかれ、あっという間に俺からあっさりボールを奪うまでになってしまった。

 終盤には俺の体力が尽き、休憩中だ。


 今では、公園で子供たちを見守る日曜日のパパ状態だ。

 空はほんの少しずつ赤くなってきている。

 子供の体力にはついていけんな。


 パパ状態でいると、ルイが抜けて近づいてくる。


「どうした、疲れたのか」

「お前と一緒にするな」


 俺に対してはずっと生意気な口ぶりだが、面倒見はいいらしくサッカーに参加している自分よりも年下の子たちにうまくボールを回したりもしている。


「その、ありがとう」


 ルイの突然のお礼に首を傾げる。


「わかれよ! ……最初は、おねえちゃんが急に連れてきた変なやつかと思ったけど、その、なんだ、ありがとう」

「別に礼を言うほどじゃないだろう。俺はただ教えただけだ」

「それでもお礼はいっておかなきゃシスターに怒られる……」


 トリップものでよくあるように、異世界に元の世界の遊びを教えたらどうなるか、と考えただけだ。

 多少、ハマるだろうとは思ったが、あんなに楽しそうに遊ぶとは思わなかったのでむしろ満足だ。


「そうだな、なら一つ聞かせてくれ。リリはこことどういう関係なんだ」

 

 俺の言葉に首を傾げるルイ。


「おねえちゃんが連れてきたやつなのに知らないの?」

「生憎、最近知ったばっかだからな。今日も偶然、ここに来たようなものだ」

 

 嘘は言っていない。最近知り合ったのは事実だし、外に一緒に出掛けるようになったのも偶然だろう。


「おねえちゃんは時々、ここに来て遊んでくれたり教会に寄付をしたりしてくれる」

「それだけか?」


 ルイは頷く。

 だが、教会に入る前のリリの表情。

 喉に小骨が突き刺さった気分だ。


「あ、でもおねえちゃん、俺たちの話を聞くと苦しそうな顔をするんだよね」

「変な顔?」

「うん。全員じゃないけど、ここにいるのは戦争で親を亡くした子が多いんだ」


 戦争孤児。

 嫌な気分だ。


 俺の様子に気づいたのか、それでもルイは気にしていない様子で話を続ける。


「別に、もう俺は割り切っているから。まだ整理がついてないのもいるけど、俺たちにはシスターやおねえちゃんがいるから。だからそれでおねえちゃんが苦しそうな顔をするのは変なんだ」


 変ではない。

 リリが入る前にあんな目をしたのはそれが原因だろう。


 戦争。ここの教会に来るということは、この国で起きた戦争が原因で親を亡くした。

 そうなると例え、政治的な権力や責任がなくとも王族であるリリは責任を感じているのだろう。


 できるなら、その責任を取り除いてやりたい。

 だが背負わせることをやめさせることも、代わりに背負うことも俺にはできない。

 

 俺が難しい顔をしていることにルイは戸惑う。

「急にどうしたんだ?」

「いや、なんでも――」


 背後から風切り音が聞こえる。


『右横に三歩』


 声と共に「思考加速」が起こる。

 移動する際に後ろを振り返ると、俺だけではなくルイにも矢が迫ってきている。

 

 ルイは突然動いた俺に驚いた顔を向けて固まっている。

 いや固まっているのではなく少しずつ動いている。

 「思考加速」で止まっているように見えるだけだ。


 ルイは矢の存在に気づいていない。

 このままだと矢はルイのこめかみに突き刺さるだろう。


(ぐっ!!)

 

 必死にルイに手を伸ばす。

 ルイを突き飛ばして、矢を避けさせるためだ。


(おっせぇ!!)


 全力で手を伸ばしているというのに、手はナメクジのようにのろのろとしか動かない。


 その間に矢も遅く、しかし手よりも速く迫ってくる。


(間に合えぇぇぇぇぇええええ!)


 茜色の空に鋭い音が響き渡る。


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