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遥か高みへ至る者  作者: 英明孔平
第一章 
19/59

第十七話 城下町 魔道具店

 やってきたのは一般区と貴族区の境にある、魔道具の店だった。


 大きさはコンビニ二つ分くらいの広さだろうか。


 中に入ると、入口に控えていた男性が話しかけてくる。


「いらっしゃいませ。王都で一番の魔道具店、【魔天】グラン支店へようこそ」


 なんとも厨二心をくすぐるネーミングだ。

 グランと言うのはこの街の名前だ。


「すいません、魔道具を見に来たんですけど」

「それはそれは、ささ、どうぞこちらへ」


 店員に半ば強引に店の奥に連れられる。

 リリも不思議そうな顔をしながらも、一緒に連れられて来られている。


 随分と熱心な接客だな、と思ったが周りを見ても店員と回っているのは数組で、他は勝手に棚に置いてあるものを眺めている。


 疑問に思うが魔道具のことを聞けるのはありがたい。


「それで今回はどのようなのをお探しでしょうか」


「いえ、まだ買うと決めているわけではなくて」


「わかりました、それでは何か御用がありましたらお声をお掛けください」


 店員は笑顔を浮かべたままそう言い、新しく店に入ってきた貴族風の客に向かっていった。


 俺が首を傾げているとリリが困ったような顔で話す。

「恐らく、マサヤさんが手に抱えている本を見て、お金を持っていると思ったのではないでしょうか」

 

 なるほど。

 一応、俺は軍の支給された服を着ていて、リリも服装は平民だが汚れのない新品同然だ。

 本は娯楽品だ。

 きれいな服を着ていて高価なはずの本を三冊も抱えている客を見て、金を持っていると思ったのだろう。

 

 結局、冷やかしと判断されたようだが。

 

 まあ、本当に半分冷やかし目的で来ているのだから仕方ない。

 それに店員が話しかけてくる店は苦手だ。


「それじゃあ、適当に見るか」

 

 棚には武器や防具、アクセサリーといった色々なものが置かれていた。


「マサヤさんは魔道具のことはどのくらいお知りですか?」


 リリが訪ねてきたので、カインズさんに教えられた魔道具に関しての知識を言う。


「大体お知りのようですね。後は……ランクでしょうか」

「ランク?」

「はい。まず、レプリカがどう造られるかはご存じありませんよね」

 

 俺は頷く。

 オリジナルの魔道具の力を劣化させることで、レプリカ、つまり劣化したコピーを造れるようになったものだ。


「ですがそれだけだと限定的な能力しか生み出せないことになります。お持ちになっている本をお読みになればおわかりになると思いますが、レプリカを造りだす方法はそれだけではありません」


 パトリックさんが使っていた、感知の魔道具を思い出す。

 他にも治療や解析、明かりの魔道具。元となるオリジナルの数は少ない。それにしては種類が多すぎる。


「魔道研究の元となったのはオリジナルで間違いありません。ですが近年の研究により、ある程度なら能力を道具に付与エンチャントすることができるようになりました。」

「付与?」

「はい。レプリカも元々はエルフの研究の成果です。付与もエルフが発明し、今では様々な魔道具が生まれるようになりました。技術はエルフが秘匿しており、明かされてはいないので詳しいことはわかりませんが」


 エルフという種族が、そういうところに長けているのはどこの世界でも共通のようだ。


「でもそれだと狙われたりしないのか?」

 

 元の世界のイメージだと魔法にも長けている種族だ。

 だがこの世界には魔法がない。

 エルフは長寿種族ではあるが、数が少ない。

 もし戦争になったら勝ち目は薄いはずだ。


「遥か昔に、エルフの里に技術を狙っての戦があったそうですが、今は国家に数人のエルフを派遣することで多くの国と不可侵を結んでいます。ドワーフも同様です。彼らが鍛えて加工された装備や装飾品は付与と相性がいいのです」

  

 技術提供をすることで安全を確保。昔はわからないが、魔法が存在しないことで特殊な攻撃は魔道具だけだ。

 エルフとドワーフに敵対すれば、魔道具の供給は止まる。 

 軍事利用の程は知らないが、所持している国との戦争であるのとないのでは大違いだろう。

 

「ランクは付与される能力と出力によって、主にA~Eまで付けられます」


「オリジナルはどうなるんだ?」


「オリジナルはランクがありません。文字通り規格外ですから。例外として、転移者が死亡した場合の劣化オリジナルはSに認定されます」


「なるほど、ありがとう。それにしても凄いな」

 魔道具の知識について考えることはあるが、リリの知識も相当だ。

 ある程度は常識だとしても、覚えようとしない限り学ばない事柄だろう。

 機械を使えても、その構造や由来などを知らないように。


「私は女ですが、学べない者もいる中で、私の立場を思えば暗愚でなどいられませんから」

 

 リリのその発言に、知れる立場にありながら全く知ろうとしなかった俺には耳が痛い。


 魔道具についてはまだあるそうだが、詳しいのは戻ってから本で知識をつけることにする。


 ランクや能力を見ながら二人で棚を眺める。

 

 衝撃吸収の防具。水を生み出す水筒。明かりの魔道具もランタンや街灯に使うような大きいなど様々な種類があった。しかし、様々な便利魔道具のお値段はお察しだ。

 到底、庶民に手が出せる代物ではないことは確かであるが、当然ながらレプリカだ。衝撃吸収もたかが知れているし、水筒も魔力消費が激しい割にたくさんは生み出せない。


 半分冷やかしだったがもう半分はいいのがあったら買ってみるか、と思っていたのだがいくら褒賞があるとはいえ、既に本で手持ちを半分ほど使ってしまった。所持金の残りは銀貨が四枚。


 リリも楽しそうに見て回っていたので、今回は見るだけでもいいかと思い帰ろうとすると、一つの魔道具が目につく。


 桃色の宝石が付いた髪飾りだ。

 ある少女がこれをつけている姿を想像してしまう。


 つい気になって、髪飾りの前に置かれている木の板を手に取る。


 それぞれの商品の前にはこのように木の板が置かれている。

 木の板には、能力、値段とランクが書かれている。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

【幸運の髪飾り】

・身に着けているものに幸運が訪れる


 ディカット銀貨 三枚


 ランクD


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 後から気づいたことだが、レプリカには固有名称がない。

 ○○(能力)の○○(道具名)

 こんな感じだ。


 値段もちょうどよく気になったが、能力がよくわからない。


 ちょうど、先ほどの店員が一人で通りがかったので呼び止める。

 店員は、冷やかしだと思っている俺にも営業スマイルを浮かべる。


「何かご用でしょうか」


「この髪飾りの能力って何ですか?幸運って曖昧過ぎて」


 店員は俺が差した髪飾りを見ると一瞬、顔が強張る。

 しかし、すぐに元通り営業スマイルを浮かべると、髪飾りの説明をする。


「こちらの髪飾りはとあるドワーフの名匠が作ったものでして、デザインもさることながら身に着けている者に幸運を与えるという素晴らしい一品ですよ」


 デザインは気に入っているが、俺が質問したのは能力についてだ。


 店員もそれをわかっているはずだがスマイルを浮かべたままである。


 どうするか迷っていると、棚を見て回っていたリリが戻ってくる。


「どうしましたか、マサヤさん。あら、これはとても綺麗な髪飾りですね」


 リリの言葉を聞いた店員はこれ幸いと口を開く。


「お目が高い。この髪飾り、お嬢様によくお似合いですよ」


 リリはそうですか?と聞く。

 お嬢様呼びに動じないリリを見て店員の目が光る。


「どうです? お連れ様に一つプレゼントというのは」


 嬉しそうな顔になるリリ。

 しかしすぐに慌てたようにに首を振る。

 

「だ、大丈夫です。わざわざマサヤさんに買ってもらうなんて」


 リリは遠慮しているようだが、目には少しだが期待の眼差しを感じる。

 店員からはニヤッとした笑顔と男だろう、といった視線を感じる


「この髪飾り、いただけますか?」


 俺の言葉に店員は営業スマイルに戻し、リリはさらに慌てる。


「勿論です。今回はサービスと致しましてディカット銀貨二枚とネロ銅貨五枚にさせていただきます」


 店員は素早く髪飾りをケースに入れ、俺から代金を受け取る。


「これからもご贔屓にお願いいたします」


 ケースを受け取った俺はリリを連れて店を出る。去り際に店員から挨拶を貰った。


「あの、本当に宜しかったのですか?そんな大金を」

「平気だよ。王女殿下には安物だと思うけど」


 ケースをリリに差し出す。


 元々、リリに合うかな、と思って気になったのだ。

 助けたとはいえ、偶然俺も助かったというだけだ。

 それなのに多少面倒事はあったがこうして生活していられる。

 街にも連れ出してくれたお礼だ。


 お礼とは言え、人生初めての女の子へのプレゼントだ。

 心臓が凄い音を立てている。

 顔も熱い。


 既に頭の中では後悔しているが、今更戻れない。


 真っ赤な俺を見てリリはくすくすと笑う。

 そうして俺が差し出したケースをゆっくりと受け取る。


 二人の間に妙な空気が訪れる。

 

 俺はそんな空気に呑まれていたが、ふと後ろに控えている人を思い出し赤い顔が青くなる。

 あの人なら斬りかかってきてもおかしくない、と思い探そうとする。


 だが、空気を壊したのは数人の男の大声だった。

 

【衝撃吸収の魔道具】

鎧の形状をしており、殴られる、蹴られる程度の衝撃ならば無効にできる

ランクC


【水生成の水筒】

魔力消費の分だけ水を生み出すことが出来る

一見便利だが、消費量が凄まじいので普段使いには向いていない

ランクB




次回より徐々にシリアス展開です

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