第十五話 門の外
一歩踏み出せば、後の足は軽い。
そのまま、先を歩くエルーシャさんについていく。
周りを見渡すと、別にファンタジーさながらの雰囲気というのは感じられなかった。
建物や人々の服は、元の世界での中世の文化に似ている。
しかし、空飛ぶ絨毯や箒、チョ●ボのような馬代わりの鳥がいるわけでもない。
この世界に存在しているはずの亜人も見かけない。
いうなれば、中世ヨーロッパ版の映画村といったところだ。
そのことについてエルーシャさんに聞いてみたところ、城の周りは貴族区になっているそうだ。
亜人族の貴族も存在するにはするのだが、数が少ないらしい。
城と聞いて、後ろを振り返るとまさに城が存在していた。
先ほどの門から上に突き出しているように視界に入る。
横に視線を向ければ、城壁が堀を前に遠くまで続いている。
今まで近くで生活していたから遠くから見る機会はなかった。
こうして見ていると首が痛くなる。
しばらく歩いていると、街の雰囲気が徐々に変わってくる。
街の雰囲気が変わるにつれて、亜人族や、実際に見たことが無いのでわからないが庶民っぽい恰好をしている人たちがちらほらと見えてくる。
「この辺りから一般区になる」
おお、獣人族だ。
初めて見る本物の獣耳は、残念ながら男の獣耳だったが、それでもいよいよファンタジーの匂いがして、嫌でも気分が高まる。
「このまましばらく歩くと」
あれって武器屋か。
本当にあるもんなんだな。
魔物類がいないことから、冒険者のような存在はいないかもしれない。
それでも売れるのだろうか。
「姫さまとの集合場所に」
いや、魔道具っていうのは遺跡から見つかるんだよな。
そこには何かいるんだろうか。
単に、護身用や傭兵などからの需要があるだけかもしれないけど。
「着く予定なんだが」
本屋もあるな。
本は高価だと思うけど、是非買っておきたい。
できる限り知識は貯めておきたい。
「聞いていないな」
「あだだだだだ!」
つい興奮して、周りを見ていて話を聞いていなかった俺にエルーシャさんはアイアンクローを決めてきた。
頭がミシミシと音を立てている。
俺の悲鳴が周りの人々の視線を集める。
「外に出るのは初めてと聞いたので、説明をしてたのだが」
「すいません。外に出るのが初めてなもので、興奮していて話を聞いていませんでした」
痛い痛い。頭がやばそうな音を立てる。
エルーシャさんは、周りの注目を集めていることに気づくと顔から手を離す。
「行くぞ。あのお方をお待たせているからな」
姫さまとは言わなかったエルーシャさんと一緒に先に向かう。
向かった先にあったのはそこそこ大きな平屋建築の建物だ。
奥の方から煙と鉄を叩くような音が聞こえてくるから鍛冶屋だろうか。
建物の入り口に近づくと、エルーシャさんが扉をノックする。
「私だ。開けてくれ」
すると、すぐさま扉が開く。
「あら、マサヤさんも一緒ですか」
「ルッカさん?」
自分の胸元の高さにあるドアノブを回して、扉を開いて出てきたのはルッカさんだった。
「ええ、ここは私の自宅ですよ」
そう言って、扉を大きく開き来訪者を招く。
中に入るとより一層、鉄を叩く音が聞こえてくる。
「すみませんうるさくて、今は主人が仕事中でして」
俺もエルーシャさんも気にしてないと言う。
鍛冶場か。
考えてみれば不自然ではない。
ルッカさんはドワーフなのだ。
むしろイメージ通りだろう。
エルーシャさんはルッカさんに一言断り、俺に待っているよう言い、奥に進んでいった。
「そういえば俺は休みですけど、ルッカさんは仕事、どうしたんですか」
「私も休みですよ。今日は事情がありまして」
ということは、パトリックさんは一人であれを処理していることになるのか。
城の方に向かって心の中で合掌しておく。
その後は、少ない話題の中で世間話をしているとエルーシャさんが一人の少女を連れて戻ってくる。
少女はスカーフで頭を覆い、薄い青色のワンピースのような服を着ている。
少女は伏せているので顔はわからない。
一目見ると見しらぬ少女だが、スカーフから流れる眩い金色の光を放つ髪には見覚えがある。
「王女殿下……ですよね」
俺がそう問うと、少女は顔を上げてこちらを嬉しそうに見る。
「正解です、マサヤ様」
姿は平民の娘でもその立ち居振る舞いには高貴さが表れていた。
すみません
ちょうどいい区切りがなかったのでちょっと少なめです




