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遥か高みへ至る者  作者: 英明孔平
第一章 
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第十四話 一歩

 何だ、ここ。

 一面真っ白だ。

 何か体が軽くてふわふわしている。


「お主か、新しい者は」


「誰だ、あんた」


 前には金色の髪をした、美丈夫とでも表せる男が立っている。

 男は俺の問いに答えることもなく、俺を観察するように眺める。

 

「ふむ、なかなか面白そうな力を持っているが、これならば前の者のほうがマシであるな」


 出合ってそうそう失礼なことを言われている気がする。

 何なんだ。夢か、もしかして今までのは全部、夢落ちってことか。この男も夢の中での妄想ってことか。


「違う。お主がお主の世界とは違う、異世界とでもいうのだったか。その異世界に来たのは紛れもない現実である。儂も妄想などではなく、きちんと人格を持っておる」


 ですよねー。目が覚めたら夢落ちとかそんな現実味のない、元々異世界トリップも現実味がないが、そんな都合のいいことがあるわけがないか。


「む、なんだ。お主、元の世界に戻りたいのか?」


 そりゃそうだよ。

 何の了承もなく異世界に飛ばされて、頼みの綱である魔道具も使いこなせない。

 せめて行きますか、行きませんかと聞くか、もう少しマシに扱える能力が欲しかったよ。


「ふむ……前の者も帰りたがっていたが、儂の話を全く聞かない者であったし、それならばこの者のほうが良いか」


 勝手に色々と決められている。

 

 ってあれ、俺声に出したか?


「声に出す必要などない。ここはお主のいわば精神世界のようなところなのだからな」


 プライバシーの欠片もないな。

「心を読まれるのは気持ち悪い。言葉でも話せるんだろ」


 俺の問いに男は頷く。


「まず、あんたは誰だ」

「言えんな」


「何でこんな精神世界とやらに来させられてるんだ」

「言えんな」


 イラッ。


「目的は。さっきの前の者ってなんだ。もしかして帰る方法を知っているのか」

「言えんな」


 危うくぶちぎれれそうになった。

 精神世界とやらだからか、感情が抑えにくい気がする。

 

「だが、これだけは教えておいておこう。儂もまた、元の世界への帰還を願うものじゃ」


「もしかして、東の国にいる転移者か?」

 

 男は首を横に振る。


「今はそれだけだ。もしお主が、本当に帰還を願っているのなら力を求めよ」


「何、俺に新たな能力でも与えてくれるイベントか」


「残念ながら儂はお主の味方というわけではない。ただ、帰還のためには力を求めろ。お主の場合は知識か?

 しかし、今のお主ではすぐに死にそうだな。あの者には必要なったが多少、助言をしてやったことだ。ほんの少し、背中を押してやることぐらいは良かろう。

 いずれ、お主が儂の元に来ることは少しだけだが期待しよう」


 男がゆっくりと近づいてくる。


「何を言って……」


 視界が男の手で遮られた。



 朝っぱらからよくわからない夢を見た。

 ついに俺のチート主人公願望もここまで来たかと落ち込む。


 落ち込む気持ちを抑えて、朝食を摂り、その後にあるはずの仕事がなくなった俺は昨日約束をした所に来ていた。


「なんだ、来れたのか」


 池ののそばにエルーシャさんが待ち構えていた。

 回れ右をして元来た道を

 「おい、どこへ行く」


 肩を掴まれた。


 ちっ、捕まった。

 不機嫌そうな顔で仁王立ちしてるのだもの、怖いよ。


「エルーシャさんだけですか?」


「いや、姫さまとは後程だ」

 言うと、来た道とは反対側に歩き出す。


 呼びかけるが、エルーシャさんは答えずにどんどんと歩いていく。

 俺は諦めて着いていくことにした。





 後ろから着いていき、たどり着いたのは大きな門だった。

 車数台なら並んででも入れそうなぐらいだ。


 門の向こうには橋と、建物が並んでいる。

 兵士や職場で見かける文官の人でもなく、老若男女、様々な人が外を歩き回っている。


 もしかして街か?

 街に住むことにはなると言われているが、まだ出ていいとは言われていない。

 慌てて、門に向かうエルーシャさんを呼び止めようとする俺の前に屈強な男が立ちふさがる。


「ローザ近衛騎士殿のお連れの方か」


 男はそう尋ねた。


 二メートルくらいはあるだろうか。見下ろされて圧迫感を感じる。

 

 ローザ近衛騎士? エルーシャさんのことだろうか。

 

 男は、何も答えない俺を怪訝そうに見下ろす。


 多分、この人は普通に聞いているだけなのだろう。けれども二メートルのムキムキの巨漢、顔は漫画であるような傷がたくさん走っている。

 そんな人に目の前で見下ろされながら、問いを受けるのは相当キツい。


 俺はテンパって男もさらに怪訝そうな顔になる。

 どうしようもない状況だったが、そこで助け舟が入る。


「その者は私の連れだ。少々臆病者でな、怪しいものではないので安心してくれ」


 門に向かっていたエルーシャさんが戻ってきて説明をしてくれた。

 男は素早く敬礼をして、エルーシャさんとすれ違いに門の方に向かっていく。


「全く、情けない。あの時の不遜な振る舞いはどうした」


 呆れた視線が刺さる。

 あの時はどうかしていたんですよ。まさかここまで能力が扱えないと思っていませんでしたし。

 

 言い返せないので、とりあえず日本人らしく困ったときの愛想笑いを返しておく。

 

 エルーシャさんは溜息をつき、再度門に向かう。


「あの、まだパトリックさんに街に出る許可を貰っていないんですけど」


 俺がそう言うと、驚いたような表情をする。


「そうなのか? 私は既に許可を与えたと聞いているが」


 どういうことだろう。昨日の内に伝えておいたとか?時間的にそれはわからない。


「まあ、いい。一先ず着いてこい」


 歩みを止めて少し顎に手を当て考えていたが、自分の中では納得したのか俺を一目見て、歩みを再開する。


 そのまま門の元に向かい、門番らしき人がエルーシャさんに敬礼をする。

 俺は軽く頭を下げる。


 遠くからでもわかるが、真下に来るとさらにその大きさがわかる。

 門は石でできており、左右には門の大きさと同じくらいの木製の大扉が両開きになっている。


 ここから先は未知の世界だ。文明も違えば文化も違う。種族や道具、多少知ってはいるが知らないことの方が多い。


 怖い。

 元の世界は、少なくとも殺しなんて遠い出来事に思えるようなところだ。

 殺し殺されとまではいかないだろうが、死はずっと近くにあるだろう。


 今まで、比較的には安全地帯にいたからか、余計にそう思えてくる。

 

 ふと、朝の夢を思い出す。 

 今思い出してもわけがわからず、妄想と言ってもいい夢だったが、鮮明に覚えていた。

 

 力、知識を求めよ、か。

 面倒くさい。けれどそうしなければ元の世界には帰れないのは事実だろう。


 今の状態じゃ、カインズさんたちに庇護でもされていないと、ここでは生きていけないだろう。

 そして庇護されたままでは、昨日のように情けない姿を晒す。


覚悟を決めた俺は、一歩前に足を踏み出す。

  

あの夢が、俺のただの願望か異世界の神様のお告げだったのか、そこはもういい。


できる限り、チートにならないチート能力を使いこなしてやるとしよう。


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