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新聞部(仮)【リレー小説】  作者: 「小説家になろう」LINEグループ
41/45

明日に向けて

この回の執筆者は桜椛さんです。

 決戦前夜(デートぜんじつ)



 夕飯後、優子はソファに体を預けて、テレビを見てくつろいでいた。

 明日のこともあってか、正直引くほど上機嫌な優子さんを前にして、俺は気が気でなかった。

 本当に優子はあの中ニ病の鸞くんとデートするのだろうか。というかデートと言っているということは、2人はもう付き合っているという認識でいいのだろうか。

 

 ……本当に? 


 いまいち信じられん話だ。

 確かに、あの一件で鸞くんに惚れたというのは間違いないだろう。どうも相性としてもそんなに悪くないみたいだしな。 

 とは言えまだ二人は中学生。今どきの中学生事情なんて知らないからあれだが、当人らは本気で恋愛感情として付き合うってことはあるのだろう。

 だけど、二人の場合はどうなんだ? ただの友達の延長なのでは? 中ニ病への憧れの延長なのでは? 

 それを恋愛感情として勘違いしてデートということにいたったのではなかろうか。


 まぁ別に優子があの中ニ病くんと仲良くなることに反対で、……は……ないとはいいきれないが、優子が本気で好きになって、信頼できる相手を見つけられたのならばそれでいい。

 だから二人が結果的につきあうことになっても俺は構わないと思っている。寧ろ諸手を上げて賛成してあげるのが兄としての器量ではなかろうか。



 とかまぁここまでは俺の精神を落ち着けるための言い訳じみたものでしかなく……。

 

 本題はここからだな。奇稲田に言われた通り、明日優子が家を出る時間を聞かなくてはならない。

 さりげなく、と言っていたが、俺はそんな気が利くような奴ではない。そんな器用な奴だとは自分では思っていない。


 だから俺はこう聞いた。



「なぁ優子。明日お前何時に出かけるんだ?」



 


 ドッ直球である。





「え? 何お兄ちゃん。まさか付いてくるつもり? やめてよね~そりゃこんなに可愛い妹のね、初めてのデートだもん。気になるのも仕方ないけどさ~へへっ」



 若干の蔑みを持って言っていたものの、最後の方は嬉しさのあまりか、顔が綻ぶのを止めれていない。


 ま、こうなるのも当然である。

 しかしながら俺は器用ではないが、そこまで馬鹿ではない。……ではないと信じたい。

 ここまでは予想通りと言えば予想通りだ。ならば後は、この当然ともいえる反応に正当性を求めさせてやればいい。



「いやいや、確かに優子の言う通り妹の初デートに興味がないわけじゃねえぞ? それこそ後をつけたくなるほど気になるさ。だけどそこは俺も大人だ。我慢することくらい出来るさ。お前らの邪魔はしねえよ」



 極めて冷静を装いながら、ちょっとオーバーととられるくらい大げさに言う。言葉に真実味を持たせるには、演技力の無い俺はこれくらいやるのがベストだろう。



「ふーん……? じゃあ何で出かける時間を聞いて来たの?」



 ほら、優子も信じてくれた。

 まだ疑いの目ではあるが、ここで納得いかせるだけの理由を突き付ければ、その疑いも完全に晴れるだろう。

 だから俺は素知らぬ顔でこう答えた。



「いや~実は俺も明日出掛けなくちゃいけなくなったんだよ。だから、俺の方が速く出掛ける場合は鍵を預けようかなってっそう言う話」



 優子は目をぱちくりとさせ、じとーっと真偽を確かめるような顔をしている。



「言ったよね? 晩御飯はいらないって。だから多分私の方が遅く帰ってくると思うんだけど……」



 あ、そう言えばそんなこと言ってたな。忘れてた。まぁいいだろう。適当に理由をつけよう。



「いやだから俺も明日友達と飯食べてくるから、多分お前より遅く帰ってくる。第一お前まだ中学生だろう。高校生の俺より遅く帰ってくんじゃねえ」



 ここは嘘ではなく本心だ。デートとは言えあまり遅くなるのは関心せんな。とはいっても尾行するのだから変なことはさせんけどな。



「うーん……? お兄ちゃんそんな話一度もし無かったよね? 誰と出掛けるのさ」



「急に決まったことだからな。高校生ってそんなもんだぞ」



 同い年の女子、とは言える訳がないな。優子のにやけ顔が目に浮かぶ。



「まぁいいけどさ。じゃあ何? 取敢えずお兄ちゃんのが帰りが遅いってことなのね」



「あぁ。そう言うことで間違いないな」



「じゃあ出掛ける時間を教える必要はないよね? 鍵は私が預かっておくよ」



 ……ハッ!! してやられた!? い、いやいや! 落ちつけ俺。一見優子に出し抜かれた感があるが、こいつは見落としてる部分がある。そうだ、そうだ……落ちつけよ。



「いやいや、だからどっちが先に出掛けるかわかんねえと預けようにも預けらんねえだろ。優子の方が先に出掛けるってなったら、優子に鍵を預けても意味がないだろ? 家にはまだ俺がいるんだから」



 あ、と気付いた優子は、むぅっと眉間に皺を寄せ、不機嫌そうに顔をゆがめる。



「じゃあその場合はどうすんの? 私の方が家を出るのが先だった場合、お兄ちゃんが後に家を出て鍵を掛けても、帰ってくるのが私よりも遅いんだったら私家に入れないじゃん」



 まさにその通りである。

 俺の目的はデートの尾行。尾行である時点で、優子よりも家に帰るのが遅くなるのは必然。

 しかし、俺の今の目的は優子がいつ出掛けるのかを知るということ。

 何故知るのか。それは、いつ出掛けるのかを知って、優子よりも早くに家を出かけるためだ。

 つまり、どんなに優子が早い時間に家を出ようとも、俺はそれよりもはやくに出掛けなければいけないため、優子に鍵を預けなきゃいけないと言うことには変わりないのである。

 だからそこの解決法を考えるのは時間の無駄ではあるのだが……優子を納得させるためにそこは考えなければいけない。



「ふーむ……だったら、俺は鍵を閉めた後に、ばれない様にポストに入れておくよ。そうすれば、お前の方が先に帰ったとしても、ポストに入ってる鍵を使って家に入れるだろ?」



 セキリュティと言う面で不安が残るかもしれないが、実際は優子に鍵を預けるためにそこの心配をする必要はないだろう。

 優子は数瞬考え、渋るような仕草を見せた後に、微かに首を縦に振った。



「……分かった。じゃあそれでいいよ」



 ふふん。所詮は妹である。兄である俺には敵わん。



「で? いつ出掛けるんだ?」



 やばい。思うように事が運んで正直ニヤニヤを隠すのが大変だ。誤魔化すように、わざとらしいかもしれんが咳をする。

 そして冷蔵庫に向かい、麦茶を取り出しコップに注ぐ。

 その間、背後からボソボソと小さな声が聞こえた。



「ん? 何だって?」



 キンキンに冷えた麦茶を飲み干す。そうして優子の顔を見ると、照れくさそうに顔を赤くしていた。

 『デートに出掛ける』ということを思い出してのことなのだろう。くそっ妹の癖に生意気だな。



「九時だよ九時! 早くから映画見るからその時間! で? お兄ちゃんは何時に出掛けるの!」



 半ば逆切れ状態である。恥ずかしさの裏返しだろう。隠そうとしても隠し切れていないのが見え見えなのだが……。

 しかしなるほど映画と来たか。初回デート、定番と言えば定番だ。にしても何の映画見るのか、聞いておいた方がいいだろう。



「俺は朝の八時だ。明日は天気だって言うしな、たまには外で一日中遊ぶのもいいなってなったんだよ。それで優子? 映画とは一体何の映画だ? まさかベターに恋愛映画とかじゃないだろうな?」



 初回デートでの恋愛映画はやめておけ。純粋に気まずくなること必至だ。ただでさえ好きな人と初めて見る映画だ。碌に内容も入ってこないかもしれない。純粋にお互いが気になった映画でも見るのがベストだろう。

 ……こいつらの気になる映画って何だ? そもそも中ニ病の鸞くんは映画とか興味があるのだろうか。優子のために、って色々無理しそうだな。



 まさかアニメ映画とかじゃあるまいな?



「なんだっていいじゃん! お兄ちゃんには関係ないでしょ。子供みたいに外で遊んで、風邪でも引いてればいいんだよ」



 こいつ自身の恥ずかしさのあまり、兄に対する態度と言うものをすっかり忘れていやがるな。いや普段通りと言われればそれまでだが。



「ほほう? まぁそうだな。兄ちゃんには関係ないことだったな。取敢えずじゃあ鍵はお前に預けておくな。ちゃんと掛けてけよ。そして落とすなよ」



「落とさないよ! 子供扱いしないで!」



 俺から見たら子供でしかないんだがな。自分が彼氏出来たからってちょーっと大人ぶってるなこいつ。

 まぁ明日くらいは少し背伸びしてもいいとは思うんだがな。



 取敢えず任務はクリアした。ほっと一息ついて肩の力を抜いたところ、お兄ちゃんと声を掛けられる。



「ん? どうした」



 すると優子は、満面の笑みと、やけに甘ったるい声で、



「お小遣いちょーだい♪」



 と、恵みを求めてきやがった。





 


 俺自身明日の尾行で使うお金でいっぱいいっぱいなのだが、ここは妹優子の初陣だ、仕方なく財布の中身から英世を二人召喚した。

 優子からはこれだけー? と言われてしまったが、俺もきついのである。お前と同じだけ金を消費しなければいけないからな。

 ぶーっと頬を膨らませながら怒っていた優子だったが、すぐに明日のことで頭が一杯になったのか、顔のにやけを抑えられずに部屋に入って行った。



 俺も任務を終えた手前、早々に奇稲田へ連絡を入れてしまおう。





『あ、サイバー君。お待ちしておりました。結果のほどはどうですか?』



「あぁ奇稲田。こんな時間に悪いな。結果についてだが、概ね問題ない」



 電話越しから、奇稲田の鼻息が聞こえてきた。こいつもこいつで意外と乗り気なのかもしれん。



『そうですか。それで、私()は何時に待ち合わせですか?』



 気のせいだろうか、やけに強調した言い方をしたような気がする。声も心なし明るい。



「朝早くから悪いんだが、八時に家を出ることになった。だからそれくらいを目安に駅で待ち合わせだ。大丈夫か?」



『言ったじゃないですか。私にとっては、休日を潰すだけの価値があると。サイバー君と二人で、優子ちゃん達の後をつける。これほど面白い休日はありませんよ』



 電話越しでも明日を楽しみにしていることが伝わってくる。どうして奇稲田はそこまで楽しめるんだ? 俺の妹の恋愛事情なんか関わりも無いんだから興味なんて湧くわけがないのに。

 ますます良く分からん奴だ。不思議ちゃんとはよく言ったものだ。



「まぁそう言ってくれると俺としても有難い。明日、頼りにしてるぞ奇稲田」



 そう言ったものの、奇稲田から返事は無かった。ただ少し、声を抑えるような、小さな悲鳴らしきものが聞こえたような気がした。



「……奇稲田? 大丈夫か?」



 沈黙。微かな雑音が聞こえているため電話が切れたわけではないのは明白。だとしたらどうしたのだろうか。突然奇稲田の背後から屈強な男が現われ、口元を抑えて攫いでもしたのだろうか。

 ……だとしたら携帯が地面に落ちる音と言うものが入るはずだ。

 と、そこで何やら艶っぽい吐息が耳を擽る。全身がぞわりとする感覚を覚え、一瞬携帯を耳から離す。

 そうしてやっと奇稲田の声が聞こえたかと思い近づけると、



『…………こ、──み……。』



 今にも泣き出しそうな声である。どうしたのか分からんかったが、取敢えず声が小さすぎて聞こえなかった。



「ちょ、どうした。本当に大丈夫か奇稲田」



 だ、と言い切るか言いきらないか、そんなタイミングで、奇稲田は声を張り上げた。



『琴美です!! 奇稲田じゃなくて、琴美です……っ!』



「え?」



 一瞬何を言っているのかよく分からなかった。奇稲田は奇稲田で、琴美でもあるわけだ。その奇稲田が奇稲田ではないと否定して、琴美だと主張してきた。

 意味が分からない。これも不思議ちゃんの一種なのか? 俺は小首を傾げながら奇稲田へと言葉を投げかけ──



『琴美です! サイバー君! 私は琴美なんですよ!!』



 ──る前に、有無を言わさぬ迫力で【琴美】の主張を続ける。若干やけくそのようにも聞こえる。暴走状態? とにかく、今の奇稲田は奇稲田らしくない。



「ちょ、ちょっと待て。落ちつけって。奇稲田が琴美だってことは俺も知ってるよ。だけどそれがどうしたってんだ?」



 別に名前を間違えたわけでもないっていうのに。そんなに名前を主張されてもな。意味がよく分からん。



『そ、そういう意味じゃなくてですね……私は琴美でして、だから……その──』



 落ちついて来たのか、声のトーンを落として何か言いたげな感じを出してくる奇稲田。

 


「ってかそれを言うなら俺だろう。俺はサイバー君ではなく藍住良太君であるとな」



 サイバーテロ予備軍、そしてあの黒歴史を想起させるその呼び方に、正直心がざわざわとするものがあった。

 奇稲田が琴美を主張するのは変なことだが、サイバー君が藍住良太を主張するのはなんら変なことではない。

 そして奇稲田はそれを聞くや否や、じゃあ! と少し興奮気味の声を上げる。さっきからテンションの上げ下げが忙しい奴だな。



『りょ、良太君って呼ばせて下さい……宜しいでしょうか?』

 


「寧ろそれを否定する理由は無いんだが」



 またも沈黙。本当にどうしたのだろうか。


 奇稲田の返事を待つこと数分。息を大きく吸い込む音が聞こえたと思うと。



『だから私は琴美なんです!! ……りょ、りょりょりょ良太君!! 明日、楽しみにしてますね! おやすみなさい!』



 と言って電話を切ってしまった。こちらがお休みとすら言う暇を与えずにだ。

 うむ。何がどうしてだから琴美になるのか良く分からんが、取敢えず明日に備えて俺も寝よう。八時に出掛けなくちゃいけないしな。寝過ごすわけにはいかん。



 くっと一度背伸びをした俺は、風呂に入って、早く寝てしまおうと、準備をするのであった。

 全ては明日に向けて──。





☆☆☆



 30坪はあろう部屋で、白を基調としたレースカーテンが付いたベッドに蹲り、足をパタパタとさせているものがいた。

 それは羞恥から来る行動。携帯をギュッと握りしめて、枕へと顔を埋めている。

 それから暫く、体を捩じらせたりくの字に折らせたり、埃が起つのも気にせずまた足をパタパタさせたりと、とにかく落ち着きのない忙しい光景が広がっていた。

 

 彼女は携帯と一緒に、シーツを頼りにするようにしがみ付き、まるで熱でもあるかのような真っ赤な顔を浮かべている。

 そうして携帯を開くと、画像フォルダから、作成したアルバムを開く。そこには、ある一人の少年が映ってる写真ばかりが入っていた。

 さしずめその男の子専用アルバム。どれもこれも目線があってないことから、隠し撮ったものであることが分かる。

 登校中、部活動中、授業中やその他色々。どうやって撮ったのか気になるほど、そこには少年の『オフショット』が詰まっていた。

 少女はその画像の一覧を見て、より一層顔を赤くする。

 そして艶めかしい吐息を漏らすと、一枚の画像を開いて顔に埋める。



「はぁぁぁぁああああああ~…………もうっ……明日どんな顔して会えばいいんです……っ~!」 



 


 奇稲田琴美(くしなだことみ)、影は似合えど光は眩し。

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