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新聞部(仮)【リレー小説】  作者: 「小説家になろう」LINEグループ
34/45

一難去ってまた一難

この回の執筆者はあげぱんさんです。

「遅ーい」


 家の扉を開けるなり飛んでくる声。

 声音からは、怒気が感じ取れる。

 まったく誰のせいで、と込み上げてきた非難を飲み込む。

 無言で廊下を進み、リビングへ。

 ソファに寝転び、足をパタパタさせながらスマホを弄っている優子に、視線を向ける。


「優子」


「な~に~?」


 静かに、少し重い口調で言った俺に対し、彼女は間の抜けた返事をする。


「ていうか、何でもいいから早くご飯作ってよ~! お腹空いた~!」


「その件なんだがな」


 異変に気が付いたのだろう。

 彼女の足は止まり、スマホから離された視線が、俺のそれと重なる。


「何かあったの、お兄ちゃん……?」


 不安そうに覗き込んでくる、彼女。

 意を決して、俺は言った。











「今日、外食にしないか……?」



 * * *


 というわけで、俺と優子は家の近所のファミレスにいた。

 丁度夕食時で、店は混んでいて入れないかもしれないと危惧していた。

 しかし、割と店は空いており、すんなりと入ることができた。

 もし入れないようなことがあれば、それこそ妹は魔王になりかねないから助かったぜ。


 それにしても、以外だった。

 外食にしないか、と言う誘いに、優子はあっさり首を縦に振ってくれた。

 彼女曰く、たまにはいいよ、とのことだ。

 おなかも空いていたようだし、嫌だと言われると思っていた俺は、安堵すると同時に少しがっかりもした。

 外食よりお兄ちゃんのご飯がいいって、お世辞でも言って欲しかったな……。


「それで、お兄ちゃんはまたどーして外食にしようなんて言い出したのさ」


 尋ねて、オレンジジュースをストローで吸う、優子。


「まあ、ちょっとな……」


 俺ははぐらかす。

 外食にした理由としては、食事を作る気分ではなかったから。

 こういう時こそ、兄として愛情を込めて料理をすることが大切なのかもしれない。

 解決方法は明日皆でじっくり考える。

 そうは言っても、気になって仕方がないのだ。

 もたもたしている間に、鈴木の野郎が優子に手を出してくるかもしれないと考えると、気が気ではいられないのだ。

 そんな状態で料理をしても、上手く作れるはずがない。


 と、以上のことは建前だ。

 本音としては、入宮兄の依頼内容の衝撃に、行くはずだった買い物を忘れてしまった。

 だから、冷蔵庫には玉子があるが、逆に言うとそれしかない。

 具なしオムライス or おかずなし玉子かけご飯。

 それでもいいかもしれないが優子に、待たされた挙句手抜きか、なんて言われたくなかったし、今から買いに行くのも非難を浴びるだろうと思った。

 だから苦肉の策として、外食を選んだわけだ。


「まあ、いいんだけどね~」


 優子が興味なさそうに言い、再びジュースを吸う。

 その時だ。

 店内に、見慣れた顔が入って来る。


「「「「あっ」」」」


「むっ」


 五人が、同時に驚きの声を上げる。

 てか、こういう時も空気読めないのか、この人は……。


「こんばんは、良太くん♪」


「今日三度目の邂逅だな、藍住良太」


 入宮薫と、黔兄さんだった。


「さっきはありがとな、入宮」


「ううん。大丈夫だよー。それと、苗字で呼ばれると分かりづらいから薫でいいよー」


「さっきだと……? 貴様、我が妹に何かしたのか!?」


「お兄ちゃん、他のお客さんもいるから大声ださないの」


「すまない……」


 薫に怒られ、しおらしくなる黔兄さん。

 まったく、どっちが年上なのやら……。


 そんな二人から、優子に視線を移す。

 彼女は、入宮二人と一緒に来た男と話していた。


「鸞くん、こんなところで会うなんて奇遇だね」


「ゆ、優子!? そ、そうだな、奇遇だな!」


 どうやら、この男こそ、入宮家次男で【七つの罪を背負いし咎人:セブンスシンナー】の二つ名を持つ入宮鸞(いりみやらん)らしい。


「あれ? 喋り方が普通だね」


「そ、そんなことはないぜ!」


「それに、制服と違って私服は普通なんだね」


 確かに、と思う。

 黔、薫という強力な兄姉の厨二病を受け継いだ鸞くんは、どんなすごい厨二病だろうと思いきや、さっきからそれを一切見せていない。

 どんな制服姿してんだよ、とツッコミを入れたくなるが、少なくとも今の彼はまともな格好をしている。

 かと言って、プライベートの入宮家全員がそうかと言うと、そうでもない。

 薫はもちろん普通の格好だが、黔兄さんは全力で厨二病だ。

 襟の大きく、あちらこちらに無駄な金具のついた黒のコート、ベルトのようなものがついた黒の長ズボン、両手には指貫グローブ。

 間違いなく、バリバリの厨二スタイルだ。


「いや、この服には特殊な能力が込められてんだぞ?」


「例えば?」


「た、例えばだなー……」


「この服には魔物を封印する力、ゴーストレスタレントが宿ってるんだよねー」


 困っていた鸞くんに、薫が助け舟を出す。

 聞いていた通り人見知りを隠すために厨二病をやっているからか、なんとなくぎこちない気がする。

 それでも、優子の話を聞く限りでは学校では完璧な厨二病ぽいから、恐らくは急に自分の想いを寄せている人に出会って緊張してるんだろうな。

 そう思うと、なんだかほほえましい。


「そ、そう! ゴーストレスタレントの力が宿ってんだ! カッコイイだろ?」


「そうだね」


 優子がそう言って笑う。

 今、鸞くんがお前に恋をする理由がなんとなく分かったぞ。

 お前のその、思わせぶりな態度が悪いんだっ!


「ほお、貴様が藍住優子か」


「はい、そうですけど……」


「単刀直入に聞こう。貴様は、鸞のことをどう思っている?」


「えっ、鸞くんをですか……?」


「お兄ちゃん、そんな風に聞いたら怯えちゃうでしょ。ごめんねー、優子ちゃん。私は、鸞の姉の薫だよー。いつも弟がお世話になってます」


「いえ、鸞くんと話してると面白くて、いつも楽しませてもらっています。それと、こちらこそ兄がお世話になってるみたいで」


「とは言っても、良太くんと出会ったのは今日なんだけどねー」


「まあな」


 そう言えばこの二人、今日始めてあったんだよな。

 今更だけど、そんな人に恋のキューピッドを頼まれたんだよな。


「さっきはすまなかったな。我が名は入宮黔。【混沌の闇より来きたる抵抗者:ケイオススレイヤー】の名の冠する、この世界で唯一無二の抵抗者なり!」


「は、はあ……」


 決まった、とばかりにドヤ顔を決める邪気眼先輩と、それにどう返したものかと困り果てた表情を浮かべた優子。

 お願いだから、優子に気を使わせないでやってくれ……。

 あと、そう言うの教育上悪いから優子に見せないでやってくれ……。


「そういうわけで、この痛いお兄さんが私たちの兄。基本は無視してくれて構わないからねー……」


「おい、妹よ。初対面の相手にいきなり我が弱点を教えるとは何事だ」


「お兄ちゃんが無視の耐性を持ってないのが悪いと思うんだけどー……」


「私は抵抗者なのだ。抵抗とは即ち、加えられた力に対抗する事。故に、何もされない無視と言う行為に、抵抗は出来ない!」


 何、その無駄な潔さ……。

 薫も優子も呆れていたが、ただ一人、鸞くんがカッコいいと呟いたのを俺は聞き逃さなかった。


 その時、店内が騒がしくなる。

 どうやら新しく店に入ってきた客が、大声で話しているらしい。

 迷惑な客だな。

 そう思って、視線を投げる。


「「「「あっ」」」」


 再びの驚き。

 上げたのは、俺、優子、鸞くん、そして……。


「鈴木くん……」


 優子の口から、声を上げたもう一人の名が漏れる。


「優子ちゃん……」


 鈴木は一瞬こわばった表情を見せたが、それが気のせいであったかのように一瞬で笑みを作る。

 いつかの朝と同じような朗らかな笑みが、今はとても憎たらしく思える。


「奇遇だね、こんなところで会うなんて。あと、お兄さんに、君は確か……そう、鸞君」


「ねえ……鈴木くん……」


「なんだい?」


「その手に持っているのは、何……」


「ああ、これはこの人たちに無理矢理勧められちゃって」


 そう言って、手に持った煙草を落とし、踏み潰して火を消す。


「圭一さん、コイツが藍住優子ですか? なかなかにいい女じゃ──おぶぅっ!?」


 鈴木の横に立っていた大柄な男が、鳩尾に拳を喰らって倒れ込む。


「余計なこと言わないでよ。こっちが必死に取り繕うとしてんだからさ……」


「す、すいやせんでした……」


 謝ると男は、床に突っ伏し動かなくなった。


「ごめんね、優子ちゃん。この人が──」


「──どうして……」


「ううん?」


「どうして殴ったの!? 可愛そうじゃん! 何で鈴木くんじゃなくてその人が謝るの? 悪いのは鈴木くんのはずでしょ? それにどうして煙草吸ってるの? 未成年なのにどうして煙草吸ってたの!」


 優子の叫びが、この場の空気を振るわせる。


「……ばれちゃったならしょうがないね。でも、僕も優等生で通ってるからね。こんなとこで学校側にちくられるのも嫌だし、口封じくらいはさせてもらおうかな」


 鈴木が指をパチンを鳴らすと、従えていた不良が彼の前に立つ。


「圭一さん、藍住優子はどうしますか?」


「そうだね……。まあ、捕らえちゃおうか。たまには無理矢理、と言うのも悪くないしね」


「俺たちにも美味しい思いはさせてくださいよ?」


「構わないよ。さ、とっととやっちゃって?」


「分かりやした!」


 男達が気合を入れ、こちらに向かってくる。

 ちょ、ちょっと待ってくれ……。

 相手は、体つきが良く、顔つきの悪い男たちが十人程。

 力もさることながら、数で負けている。

 ここは、平和的な解決をだな……。

 と、この絶望的状況で、ある考えが浮かぶ。

 ここで鸞くんが男を見せれば優子も惚れるんではなかろうか。

 というわけで、鸞くんを見ると……。


「あ……ああ……」


 見事に腰が抜けていた。

 なにやってんの、ここアピールポイントじゃん。

 なんでここで株下げてんだよ。

【七つの罪を背負いし咎人:セブンスシンナー】なんでしょ?

 相手の罪白状させようよ。

 そんでもって、『お前の罪? くだらねえな……そんなもの、俺の罪に比べれば微笑ましいものだ!!』ってカッコよく決めてくれるんでしょ?

 なんだってそこでへこたれてんだよ。

 と、一番へたれている俺は胸中で文句を言い続ける。

 しょうがないじゃん怖いんだもの。

 その時、二つの人影が俺たちの前に立った。


「まったく、我らに挑もうとは」


「命知らずも甚だしいねー」


 薫と黔兄さんだった。


「あん? なんだ、お前ら……」


「我が名は入宮黔。【混沌の闇より来きたる抵抗者:ケイオススレイヤー】の名の冠する、この世界で唯一無二の抵抗者なり! 行くぞ、【眠れる怠惰な茨姫:スリーピングローズ】」


「覚悟は出来てる……お兄ちゃん?」


「何故我に矛先が向いている?」


「その名前を良太くんたちの前で言わないって約束だったでしょっ!」


「……すまない。後でパフェを奢ってやるから許せ」


「それなら許してあげるー」


「茶番は終わったか? |ケイオススレイヤー(笑)と|スリーピングローズ(笑)さんよぉ」


「どうやら、我らの力を舐めているようだな。かかってくるがいい」


 黔兄さんが、左目を覆っていた髪を掻き揚げる。

 紅く染まった左目が現れた。

 おそらくはカラコンだろうが、こういう仕掛けも用意してたんだ……。


「なら、お望みどおり捻りつぶしてやるよぉっ!」


 黔兄さんの顔目掛け、男が拳を突き出す。

 この人、毎回やられてる気がするけど、本当に大丈夫なのか?

 そんな心配は見事に粉砕される。


粉砕拳(オールクラッシャー)!!」


 黔兄さんは軽くそれを避け、逆に相手の懐に拳を叩き込む。

 喰らった男が倒れこみ、仲間の不良達がざわつく。


「この程度か? 話にならんな」


「くそっ! お前ら、どんどん行けっ!」


 残りの不良達が束になって襲い掛かる。


「あの優子って女のほかにも上物がいるぞ。とっ捕まえちまおうぜ」


「ヒャヒャ、イイオンナ……。オモチカエリ、ヒャヒャ……」


「俺たち三人のコンビネーションを見せてやろうぜ!」


 薫に、一列に並んだ三人の男が襲い掛かる。

 まず、先頭の男が拳を振るう。

 薫も同じく拳を突き出すが、両者ともそれを避け空振り。

 その隙に二番目の男が薫に殴りかかる。


破砕踵(ミョルニール)!!」


 薫は足を高く上げ、脳天にかかと落としを決める。


「さすがに踏み台には出来ないかなー……」


 薫はスカートを穿いている。

 俺の角度からは見えなかったが、かかと落としはまずかったんじゃないか?

 そんな不安は見事に適中する。


「白、ヒャヒャ……」


 ご丁寧にも、三人目の男が色を教えてくれた。


「……玉砕拳(オールブレイカー)!!」


 拳を鼻面に叩き込まれた男が、鼻血を出して倒れた。

 その鼻血はどちらによって引き起こされたものか……。

 そうこうとしている間に、黔兄さんのところでも不良が倒されていく。


亜空乖離陣(エクセグエンス)呪滅袈裟剣(デッドリークロス)黒皇龍宿蹴(ブラックルーシュ)一点集中百烈撃(ピンポイントフルバースト)究極嵐(エクストリームストリーム)……」


 一つ一つ技名を言いながら繰り出される攻撃に、遂に不良達は全滅する。


「は、ははは……」


 鈴木の顔が引きつる。


「僕はこんなの認めないよ……。お前ら、このままで済むと思うなよ!」


 そう声を荒げ、鈴木は退散する。


「ふん、腰抜けが」


 黔兄さんが、その背中に言い放つ。

 俺はふと我に返り、優子に駆け寄る。

 彼女は、目を輝かせていた。

 その輝きは涙ではない。

 例えるならば、好奇心だろうか。

 いや、ちょっと待てよ。

 このタイミングで好奇心だって?

 いや、まさかな……。

 まさかとは思うけど、優子お前……。


「……カッコいい……」


 優子の口から、そんな言葉が漏れる。


「厨二病、カッコいい……」


 ……終わった。


「ゆ、優子。正気に戻れ! お前は今鈴木くんを失っておかしくなってるんだよな!? な、そうと言ってくれ、優子!」


「お兄ちゃん。私……」











「厨二病になりたい!」













 ……終わった。

 兄として、厨二病だけは絶対にさせないように勤めてきたのに……。

 だというのに、その積み上げてきたものが音を立てて崩れた。

 それはもう、派手に。

 こうも一瞬で壊れてしまうものなんだな……。


 一方、優子の言葉を聞いた鸞くんが何事もなかったかのようにすくっと立ち上がり、彼女に歩み寄る。


「なら優子。俺様が厨二病についていろいろ伝授してやるよ!」


「ほんとに!? よろしくね、鸞くんっ!」


「おう、任せとけ!」


 鸞くんがふふんと鼻を鳴らす。


「これで、良かったのかな……?」


「良かったのではないか。恋人ではないが、あやつらの距離はこれから十分に縮まって行くと思うぞ」


「いや、良くねえ。全っ然っ良くないんですけど!? どうしてくれるんだ、二人とも!」


「案ずるな、藍住。弟のことだ。悪いようにはせんさ」


「そうだよ。ちゃんと私もサポートするから♪」


「そういう問題じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっ!!!!」


 俺は生きてきた中で一番の大声で嘆く。



 そんな俺を尻目に、優子と鸞くんは笑い合っていた。

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