兄弟のために
この回の執筆者は立待月です。
ひんやりとした風が頬を撫でる。たまには夕暮れに散歩するのもいいかもしれない。何も考えずにこのまま涼んでいられるのであればいいのだが、生憎そういうわけにもいかない。
ロリぃ員長と別れた俺は公園のベンチに腰を掛け、そんなことを思っていた。
すぐ家に戻り自室で連絡をとってもよかったのだが、万が一のことも考えこうして公園で済ませることにした。
先ほどロリぃ員長から教えてもらった連絡先に電話をかけようとしてふと思う。兄弟同士ではどんな会話を繰り広げているのだろうか。中二ワードを交えながらとかだったらカオスだな。まあいいか。
発信ボタンを押す。食事中だったら悪いなあ、と思いながら待っていると五回目のコール後につながった。
「もしもし」
『何者だ? 相手次第では――』
「あー俺、藍住良太」
『えっ? あっ……りょ、良太くん!?』
中二発言を聞かれたためか慌てているようだ。がしゃがしゃ何かが倒れる音や入宮の悲鳴のようなものなどがケータイ越しに聞こえてくる。
『ご、ごめんね。いきなりだったから』
程なくして彼女から返答があった。
「ロリぃ……如月から連絡行ってるかな?」
もしやまだ連絡が行ってないのかと思い訊ねてみたのだが、
『う、うん、聞いたよ』
未だに落ち着かない様子だ。
「何かあったのか?」
『何かってわけでもないけど……わ、わたしの連絡先知りたいっていう人珍しいからー』
あーそういうことか。確かに間接的な上にこんな時間帯に連絡先を知りたいって言われたら、俺でも不審に思うだろう。
誤解を解くためにも早速本題に入ろう。
「今日の放課後に黔さんから相談を受けたんだけど……」
さてどう伝えるべきか。
『それってセブン……ランが藍住くんの妹さんのことが好きだから手伝ってほしいていう話? ほんとにクロムも世話好きだよねー』
「知ってんのかよ!」
少し悩んだ俺が馬鹿みたいだ。
『それは……兄弟だし』
意思疎通が取れているのか疑問ではあったが、その辺りは問題ないらしい。
「それで急で悪いんだけど、できれば明日の放課後にその……鸞くんと話がしたいんだ」
『それはいいと思うけど……何かあったの?』
俺の声音から何かを感じ取ったのか、そう訊ねる入宮。
「…………」
正直な話、あまり大事にはしたくない。
言うか言うまいか逡巡しているとケータイの向こうから声が聞こえた。
『わかった。何かあったんだね。今は訊かない、けど明日の話し合いにはわたしも参加するー』
「なんで……」
咄嗟にそんな言葉が零れた。
『なんでって、それは兄弟だからに決まってるでしょ。それは良太くん、君だってそうなんじゃないかな?』
そうだ。だからこうして動いてるわけだしな。
「ごめん、変なこと訊いて。それと答えてくれてありがとう」
『ううん、気にしないで』
ふと公園の時計を見ると午後六時半を過ぎていた。
「もうこんな時間か。長々話して悪いな」
『いいよいいよ。良太くんの相談ならいつでも乗るからー』
全く嬉しいことだ。こんなに心強い人と知り合えたのは幸運だな。
「それじゃ、また明日」
また明日ねー、という言葉を最後に電話が切れた。とりあえず今日のところはこのくらいだな。
さて早く帰って晩御飯を作ってやらんと、優子が騒ぎ出すからな。
俺は腰を上げると帰路へ就いた。




