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新聞部(仮)【リレー小説】  作者: 「小説家になろう」LINEグループ
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解決へのプロセス

この回の執筆者は桜椛さんです。

 とんだ下衆野郎がいたもんだ。


 俺は苦虫を噛み潰したような、胸糞悪い思いで歩を進めていた。

 視界に映るのは、優等生と言う羊の皮を被った、醜い狼の姿だった。



 俺は帰り道ながら、先ほど撮影した動画の確認をしていた。うすらながら聞こえてくる会話の内容、そして行われている中学生らしからぬ行動に、俺はひどく虫の居所の悪さを覚えた。



 正直俺がこの時思っていたのは、怒りと言う感情も正しいだろうが、その最もを占めていたのは、悲哀というものが正しいだろう。

 高校生ながら、中学生の猫かぶりを見抜けなかったこと、そして妹がそんな奴のことを好きになってしまったこと。

 それがただ悲しかった。


 俺は本当に嬉しかったんだ。いつまでも『妹』という立場であるため、何処か心の中で子供扱いをしていた。きっとそれは仕方のないことなんだとは思う。しかし、妹とは言え、俺自身が成長するように妹も成長する。

 つまり、自然的に好きな人と言う者が出来たり、そうやって少しずつ大人になって行くのだ。

 だから俺は嬉しかった。その成長の変化と言うものをこの目で見れたこと、そしてその成長の要因となった『彼』をこの目で見て、俺は安心してしまったのだ。

 この子なら大丈夫そうだ、いけ好かないが中々の優良物件ではないか。優子は、見る目があるのかもしれない。そうあの時は思っていた。


 

 だと言うのになんだよあれはっ!!


 優等生じゃないのか! バレーに熱を注いでるんじゃないのか? クラスの女子から憧れの的じゃねえのかよ!!

 それが何だよ、片手にタバコふかして? 同じ学校の女子を食ってて? 挙句同じクラスの、愚かにも俺の妹に手を出そうとしてるだ?

 ふざけんなよ。ふざけんな、ふざけんなふざけんな!!








 自分の家の門が、こんなにも重苦しく思えたのは初めてかもしれない。

 俺は今、ラストダンジョンに突入する勇者のような気分でいた。中に入れば何が起こるか分からない。

 ただ確実に、魔王(いもうと)がいると言うことは確かだ。何処かに遊びに出掛けているかも、という思いも、時間的に排除されてしまうからだ。


 

 まだあの入宮弟が優子のことを好き、という事実だけのまま会った方が気分的に楽だった。

 ただただ微笑ましい気分で優子のことを向かい入れてあげられただろう。しかし、今ではもうそんな気分ではいられない。

 ただただ胸が苦しい気分で優子のことを向かい入れてあげるしかなくなった。



 とは言えだからこそ、このまま放っておくわけにはいかない。妹が、あんな下衆野郎の手に堕ちるなど見過ごせるわけがない。

 それだけでなく、このままでは被害が増えるばかりで、『噂』と言う形で彼の不良ぶりを聞いてしまうかもしれない。

 優子の事だから、そんな噂で彼の素行の悪さを素直に認めるとは到底思わないが、そういった形でしるよりか、しっかりと事実として知らせてあげた方がいいと思った。

 



 ただいまと言いながら靴を脱いでいると、居間の方からおかえりーという気の抜けた妹の声が聞こえた。

 普段の優子の声、それだけで嬉しいような気がするが、やはり懸念事項があるということは変わりない。



 俺は一歩一歩踏みしめて、妹の姿を視界に捉えた。ソファにだらしなく体を預けている優子を横目に、俺は鞄を放り、冷蔵庫へ向かって麦茶を取りだした。

 いきなり本題を切り出すには話が重すぎる。何より、俺が気持ちを整理するためにも必要な行動だった。



 そこで俺は考える。どうやって話を切り出す? あの動画を見せるか? いや、優子は中学生だ。同じクラスの優等生男子、ましてや好きな相手があんな会話をしながら煙草を吸っている姿など見たくないだろう。

 俺は別に取り乱す優子が見たい訳ではない。ただ、道を踏み外して欲しくないために、軌道修正をしてあげようと考えているわけだ。

 


 俺はテーブルの椅子へと座り、指を組んで顔を微かに俯かせる。まるでそこだけが照らされているように、スポットライトが降り注いでいるようだ。

 どこぞの司令とポーズが一緒なのは御愛嬌だ。



 本題について考える前に、まずはこの状況の整理から入ろう。



 


 事の発端は、中学生である俺の妹、優子がそのクラスに、好きな男子がいると言う話から始まった。



 話を聞く限りだと、彼の周りにはいつも女子がいるとのこと。

 そして以前あった時に知り得た情報として、名を鈴木圭一というらしい。しかも、頭が良く顔もそこそこだ(誰が負け惜しみだ)

 優子と同じくバレー部に所属しており、文句無しの好青年、それが鈴木だった。

 それだけでなく、優子との仲も意外と悪くはないように見えた。



 だから俺は、どうせなら二人は上手く行って欲しいと思っていたのだ。

 しかしそこに現れた、【七つの罪を背負いし咎人:セブンスシンナー】の入宮君。

 同じく厨二病の兄曰く、セブンス君は同じクラスの、優子の事が好きだと言う。



 セブンス君の兄から、この二人をくっつけて欲しいと言われた俺は、正直困ったわけだ。

 それもその筈、俺も『兄』という立場であるため、妹の気持ちを大事にしたいという意味では一緒だ。

 そして妹は鈴木くんのことが好きときた。そうなってくると、俺は二人を応援したいという立場にある。

 だが頼まれたからにはセブンス君を応援しなくちゃいけない立場になった俺に、衝撃的な事実が突き刺さったわけだ。




 それが先程のあの光景、……優等生かと思われた鈴木くんは、その実『悪』という道に嬉々として足を突っ込んでいる、とんだ外道だったのだ。


 俺はそれを見て、妹の気持ちを大事にしたい兄ではなく、妹の気持ちを大事にした上で守らなきゃいけない兄という立場に変わったのだ。


 つまり、ここで俺はセブンス君を全力で応援してやりたいということになった、というのが今までのおさらいか。





 では本題はここからである。

 俺の気持ちの方向性は固まった。後は俺が望む形で、優子を納得させ気持ちを踏みにじらない、上手い打開策は無いか、というところだろうな。



 そこで一度深く深呼吸をする。

 あのゲス野郎がいつ優子に手を出してくるか分からない以上、時間が無いと言えば無いのだが、焦った頭で考えたところでいい結果は生み出ないだろう。

 こういう時こそ冷静にだ……。



「ねえ、今日の晩御飯な~に~お兄ちゃん」



 まず、この状況を穏便に済ませるには確か昨日の卵がまだまだ残ってた──って違う違う! 確かに今日の夕飯も大事だが、それよりも今はこっちの方が……ってお前のことでこっちは真剣に頭悩ませてるってのに~!



 掻き毟るようにがしがしと頭を掻いて、優子に大人しく待っていろと伝える。

 不満げに「へーい……」と返事とはいい難い返事をした優子は、一度俺のことを睨みつけてからソファへ深く腰を埋めた。



 そうだ、それでいい。今はお前に構っている場合じゃねえんだよ。

 今そこで脳天気に過ごしてるだろうけど、お前はいつ傷物にされるかも分からんような状況なんだぞ。



 そう、だからこそ俺がこの『事件』を解決させなきゃいけない。

 


 悪いが優子、鈴木君は諦めてもらうぞ。








 

 さて、状況が分かったこの状態で、解決に導く方法は如何なものか。



 まずは考えられる解決策を考えてみよう。それを行動に起こすかは取敢えず今は放って置いてだ。





 解決方法:1  優子に、鈴木君の素行の悪さを収めた動画を見せる。



 解決方法:2  優子に、鈴木君のことなど忘れるくらい、入宮弟のことを好きになってもらう。



 解決方法:3  優子の学校に、鈴木君の素行の悪さを収めた動画を送る。




 考えられる方法としてはこんなところだろうか。

 しかし、どれもこれも真っ当な、穏便な方法かと言われればそうではないだろう。



 まず、解決策1についてだ。


 これはさっきも言ったが、俺は別に優子に取り乱して欲しい訳ではない。

 正常に考えて、自分の好きになった人物が、自分が知っている良いイメージとは全くかけ離れた姿を見た場合、当然良い思いはしない。

 ショックを受けるし、人によっては現実を受け入れたくないと怒りだすやもしれん。

 それは俺が望む結果ではない。更に言うと、根本的な解決になっているかと言えばそうではない。


 この事態の解決は、優子自身に鈴木君のことを諦めてもらうと同時、鈴木君自身を更生……とまでいかなくとも、悔い改めさせる必要があるのである。

 そのためには、この解決策1というのは非常に効率が悪い手段と言えるだろう。



 そこで解決策2、だ。

 セブンス君の兄である、ケイオス兄さんの相談に、渋々乗ってしまったため、ここは通らなければいけない道なのではあるが…………困ったことにこれが一番大変だ。

 なんせ、あの優子は多分だが鈴木君にぞっこんだ。きっと鈴木君以外の男には目もくれないだろうさ。

 だけどそれは飽くまで『恋愛』という観点からの話だ。きっと『友情』という観点からは分け隔てなく話しかけるのだろう。

 

 そう、優子とセブンス君の関係はそう言った関係なのである。

 

 そういうのってあれだよな、男からしたら一番辛い状況だよな。

 俺自身はそういう経験はいまいちだから分からんが、想像は出来る。

 中ニ病にはあまり人は寄ってこない。精々面白半分で笑かされるだけの存在だ。そういった存在は遠巻きから見ているのが楽しいのであって、決して話しかけて関わりたいとは思えない。

 だからこそセブンス君は、そういった垣根を軽々飛び越えて話しかけてくる優子に、恋心を抱いたわけだ。

 『兄』という立場を忘れて、中ニ病、そして男と言う目線から言わせてもらうと、素直にセブンス君のことを応援してやりたい。

 こんなに純粋な彼を、俺はどうしても後押ししてやりたい。しかしそれは一筋縄ではないことは俺も、セブンス君も、そしてケイオス兄さんも理解している。

 

 困った……これは本当に困ったぞ? 

 うーんと、確かセブンス君からは後日話を聞けるんだったよな……いつだ? 出来れば早い方がいい。

 状況が変わったため、鈴木君のことも話さざるを得ない。是非とも腰を落ち着けて話せる機会を得たいところだ。

 そのためには……連絡を入れた方がいいか? 明日話すつもりじゃなかったと言われても困るからな。

 でも俺はセブンス君はもちろん、ケイオス兄さんの連絡先も知らないぞ。



 うーんと首をかしげていた俺は、そう言えばと拳を手のひらへと打ちつける。

 

 セブンス君もとい入宮鸞(いりみやらん)、ケイオス兄さんもとい入宮(くろむ)の間には、俺らと同じ学年の、入宮(かおる)という存在がいるのだ。


 第三の委員長、入宮薫と連絡を取れれば、その兄とも弟とも間接的に連絡を取れると言うことになる。

 ならば俺が取る方法は、入宮薫への電話なりなんなりの、電子的な接触を図ることだ。



 ふむ。となると、()()()()困るな。

 俺は椅子からやおら立ち上がり、優子へと視線を投げかける。



「ちょっくら出かけてくる。そんなに遅くなるつもりはない」



「えー。晩御飯は~!」



 ぷくーっと頬を膨らませて、怒りを露わにしている優子は、自身の空腹を訴えるためか、バンバンと両手両足でソファを叩きまくる。



「そんなに遅くならないって言ってるだろ、我慢しろ! それと埃が出るからやめなさい!!」



 まだ6時前だぞ。それくらいは我慢しろよなこの妹は……



 俺は半ば駆け足で、靴を履いて家から出た。

 向かう場所は…………公園か、もう一つだろう。

 


 そう決めた俺は、近場の公園へと向かった。先ほどの場所とは違う公園だから、鈴木君などの不良は存在しない、平和な公園だ。

 夕方となれば子供も遊んでいるような場所であるのだが、それにしては少し時間が遅いため、今は人が誰も居ない状況だ。

 遊具だけがぽつりとあり、なんだか少しだけノスタルジックな思いに駆られてしまう。



 しかしここで黄昏ている場合ではない。俺は入宮との連絡を取るために、()()()()()()()



 


 数秒の沈黙の後、俺の全身を冷やかな風が乱暴に撫でてくる。

 その風を背に現われたのは、微かに腰を落として、夕焼けに染まった紅い髪の毛を靡かせた、ロリぃ員長こと、如月希沙良(きさらぎきさら)である。



「短いスパンで呼ばれたり、人扱いが酷かったりと色々ありましたが、まさか学校外で呼び出されるとは思ってもいませんでした」



 不服そうにしながらも、何処か達成感を感じているような顔をしているロリぃ員長を見て俺は感心してしまう。

 言葉の割には、ちゃんと呼んでから大した時間を掛けずに俺の元に現われてくれた。

 何と優秀なパシ……忠犬なんだろうか。



「よ、こんな時間なのに来てくれてありがとうな」



「にゃ!? あ、藍住さんが優しい!? 大丈夫ですか!! 熱でもあるんですか!? それとも頭をぶつけましたか!?」



 優しく接したのは頼みごとがあるからに他ならないのだが、そこまで言われると流石に傷つくな。

 


大袈裟に驚いているロリぃ員長を見て、俺はそう思った。


 なので俺は一度、頭をひっぱたいた。



「にゃにゃ!? いつもの藍住さんに戻りましたね!? さっきのは幻か何かですか!?」



 ふむ。段々喧しくなってきたな。取敢えず近所迷惑になりかねんし、傍から見たら同じ制服を着てるとはいえど、高校生男子が小学生を苛めているようにしか見えないため、俺のご近所さん評判が怖くなってきた。

 井戸端会議の議題にされるのは御免被る。



「それはそうとロリぃ員長、第さっ……第二の委員長、入宮薫さんのことを知ってるか?」



 第三で間違いないのだが、俺の中で第一の委員長である朝倉よりも、私が委員長にふさわしいと豪語したロリぃ委員長の事である、『如月希沙良委員長』を差し置いて、第二の委員長と呼ばれる存在が現われたら、ロリぃ員長からしたら悔しいと言う言葉に尽きるだろう。

 ほら、案の定眉を八の字にして顔を真っ赤にしている。



「何ですか第二の委員長って!! 委員長は私だと言っているじゃないですか!! そして入宮さんの事なら知っています!!」



 大声で叫んだロリぃ員長は、肩で大きく息をしている。怒りながらお応えてくれる辺り、可愛げあるんだよな~。



「何か今失礼なこと考えませんでしたか?」



 今度は半眼で俺のことを睨め付けている。全く、忙しい奴である。



「考えていない。考えていない。今日もロリぃ員長という壁は恐ろしい角度だなって思っただけだ」



 言いながらちらとロリぃ員長のことを見る。何を言っているのか気付いていないらしく、首をかしげている。

 そろそろ茶番は終わりにして、本来の目的を告げよう。



「それでなんだけどさ、ロリぃ員長は入宮薫さんの連絡先を知ってるか?」



「なんだかすっかりその呼び方が定着してしまいましたね…………知っていると言えば知っています」



 ぐぬぬっと眉を顰めて上目遣いでこちらを覗くロリぃ員長。俺はロリコンじゃないからあれだが、専門家がいたら卒倒ものだろうな。



「どういう意味だ? 知らないと言えば知らないとでも言うのか?」



「あぁいえいえ、そう言う意味では無くて……ただ、彼女ってほら……あれじゃないですか……」



「あれ?」



「普段は割としっかりしているんですが、ところどころ抜けているところがありますし、……それに、ほら──何て言うんですか? チュウニ病って言うんですか? 時々そう言った場面を隠し切れていなくて……正直必要最低限の連絡は取っていないんです」



 あー、と納得できてしまうのも無理はないだろう。なんせその委員長の上と下には、中ニ病の男がいるわけだし……もっと言うと、それに挟まれている薫さんの方が中ニ病度としては酷く悪化していると言えるんじゃなかろうか。

 しかし今はそんなことはどうでもいい。



「まぁなにはともあれ知っているってことだな?」



 ロリぃ員長はちんまい腕を組んでこちらを見上げる。



「そういうことですね。それで? いきなり何でそんな事を聞いて来たんですか」



「あぁ、実はな、ちょっと用があってな。連絡先を俺に教えてくれないか?」



 疑いの眼差しを向けながら、数秒の間首を傾げていた。



「何で藍住さんに教えなきゃいけないんですか? 用があるなら私の方から伝えてあげても良いですよ」



 必要最低限の連絡以外はしないと言ったはずなのにそういう申し出をしてくると言うことは、きっと他人に勝手に連絡先を教えられた場合の結果を危惧しているのではなかろうか。

 俺が入宮さんの連絡先を知った場合、そのルートと言うものは限られてくるだろう。

 その場合、俺とロリぃ員長が関わりがある、ということを入宮さんは知る由も無いだろうが、俺が入宮さんと連絡を取った場合、誰から教えてもらったのか、という話を必然的にする。

 というか俺は話す義務と言うものがある。そうなってくると、教えた本人である如月希沙良に責任と言うものを追及されてしまう、そうロリぃ員長は考えたのではなかろうか。

 


 ならば俺が、ロリぃ員長から連絡先を聞いた、と言わなければいいだけのこと。いや、言わないと建前としてロリぃ員長に言えばいいだけのこと。



「ふーむ。それは俺が入宮さんとお近づきになりたいからだ。恋する男の邪魔をしてはいけないぜ?」



 勿論大ウソなのだが、これでロリぃ員長は教えてくれるんじゃないだろうか。

 


「嘘くさいですねぇ~……なおのことそんなスートーカーじみたことを見過ごす私ではありませんよ?」



 ここで委員長という役職を思い出したかのように正義感を顔に溢れさせるロリぃ員長。めんどくさいことこの上ない。

 俺は今ここでロリぃ員長と押し問答をしている場合ではないんだが。



「まぁまぁ、そう言うなってロリぃ員長。これは一つのとっかかりに過ぎない。俺は別にこれから先入宮さんにつきまとったり、不快な思いをさせるつもりはない。連絡先を教えてくれたのも、友好の手立て、と説明してやってもいい」



 ふふんと鼻を鳴らして指を立てる俺。これならばロリぃ員長としても、何も困るところは無いはずだ。

 その証拠に、顎に手を掛け思案しているが、やがて観念したかのように肩を上下させている。



「わかりました。そういうことなら良いでしょう。ですけど藍住さん! その約束を裏切った場合……わかっていますよね?」



 さっぱりわからんが分かったと言うことにしておこう。



「おう。ありがとうな。俺が今日呼び出した理由はそんなところだ。教えてくれたら帰っても良いぞ」



 はいはい、とか言いながらロリぃ員長は俺に、入宮薫の連絡先を教えてくれるや否や、別れを告げて去ろうと……



「って待て待て、お前は何処から帰ろうとしてるんだ」



「え? 何処って、ブランコからですよ?」



 今ロリぃ員長は、ブランコの鎖が繋がれている、パイプ部分に足を掛けていたのだ。

 まるで犬のおすわりのように、足を開いて両手をついて体を支えている。今まさに、そこから飛び立たん勢いでだ。



「それでは、そろそろ夕餉(ゆうげ)の準備があるので。くれぐれも、入宮さんに変な気起こさないでくださいね!」



 そう叫びビシッと俺のことを指差したロリぃ員長は、腰を更に落として、そこから高い木へと飛び移った。

 葉っぱが邪魔で、すぐにロリぃ員長の姿は見えなくなる。ただ微かに、枝を踏みしめる音が聞こえたような気がした。

 


 本当に忍者のような奴だな…………まぁ苺パンツが見れただけでもよしとしよ────あ。



「苺メロンパン…………」



 いや、まさかな。








 6時15分。日は落ちて辺りは暗くなってきた。街灯だけが辺りを心許なく照らしているだけだ。

 やっとの思いで手に入れた入宮薫の連絡先。やっと本題の入り口に立てた、そんな状態である。


 なにはともあれ、さっさと連絡を入れて明日に備えよう。


 そう決めた俺は、さっそく入宮薫へと電話を掛けるのであった。

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