人は見かけによらない
この回の執筆者は佐堂さんです。
「はぁ……どうするかな」
入宮兄と朝倉と別れ、俺は帰途についていた。
頭を悩ませているのはもちろん、入宮弟のことだ。
いくら入宮弟が優子のことを好きだとは言っても、優子にその気がなければどうしようもない。優子に好きな男がいるなら尚更だ。
とはいえ、俺が勝手に推測しているだけで、優子本人から鈴木くんのことを好いている、というのを聞いたわけではない。そこにまだ救いはあるか。
なんにせよ、入宮弟とは一度会って話がしてみたい。本格的に手を貸すか決めるのは彼の人間性を見てからでも遅くはないだろう。
そんなことを考えながら、俺は人気のない道を一人で歩く。
今日は気分転換に、少し遠回りをして帰っている。家に帰ったら優子がいるかもしれない。いま優子と正面から顔を合わせるのは、何となく気まずかった。
俺が今歩いているのは、閑静な住宅街の一角だ。このあたりは人通りも少なく、一人で静かに帰りたい気分のときにはこちらの道から帰ることにしている。
この通りを抜けると公園があるが、人通りの少なさからか不良の溜まり場になっており、このあたりの人間はあまり近づきたがらない。
まあ、近づきすぎなければどうということはない。
「……ん?」
ふと、気になるものを見つけた俺は足を止めた。
「あれは……鈴木くん?」
噂をすればなんとやら。
俺の視線の先。公園のブランコのところに、鈴木くんがいた。
近くに、同じような制服を着た男子生徒の姿も見える。鈴木くんを入れて四人だ。
声をかけようとして、不意に気付いた。
様子が少しおかしい。
この前、朝会ったときは整っていた制服は着崩され、周りにいる男子生徒たちも粗雑な雰囲気を醸し出している。
それに……彼らの右手に握られている細長い棒状の物体は、タバコじゃないのか?
それは、この前見た鈴木くんのイメージとはあまりにもかけ離れた姿だった。まるで不良のような……。
俺は物陰から彼らの様子をうかがう。ここからなら、こちらは相手のことを見れるが、向こうからは、よほどのことがない限り見れない。
ちょうどいいポジションを確保したとき、男子生徒のうちの一人が口を開いた。
「圭一さん、そろそろ藍住の奴に手出してもいいんじゃないですか?」
「――――」
今、聞き慣れた名字が聞こえた気がする。
そして、看過できない内容の提案も。
いや、待て。落ち着け俺。藍住というのが、優子とは関係ない人間のことを指している可能性だって――
「優子ちゃんねー。あの子意外と貞操観念しっかりしててガード固いんだよね。ヤれるのはもうちょっと先かなー」
そんな俺の希望的観測は、他でもない鈴木くんによって打ち砕かれた。
鈴木くんたちは、優子についてあれこれと話している。
その中には、聞くに耐えない内容のものも少なくなかった。
優子の話題が終わると、今度は他の女子と思しき女性たちの話を始めた。
あの子は締まりがいいだの、あの子は尻を叩かれると喜ぶだの、優子のときよりもさらに下衆な言葉の数々が飛び出す。それだけで、こいつらが複数の女性たちと関係を持っていることは明白だった。
手が震える。
頭が、話の内容を理解するのを拒絶しているような錯覚を覚えた。
鈴木くん以外の三人は、時折タバコを口に加えて灰色の煙を吹き出している。
妙に慣れた手つきだ。今日初めてタバコを吸うような感じではない。日常的にこういった行為をしているのだろう。
俺は黙って、ズボンのポケットからスマホを取り出した。
音の出ないカメラのアプリを起動し、彼らがタバコを吸いながら下品な話をしている様子を撮影する。
十分な時間を撮影し終えて、俺はその場を後にした。
空を見上げると、夕焼けが空を美しい赤色に染めていた。もうすぐ夜が来る。
「……はぁ」
とりあえず、奴らの喫煙の証拠となる映像は撮影しておいた。顔はしっかりと写してあるし、知っている奴から見れば、制服もどこの学校のものか判断するのは容易だろう。
……そういえば、優子はこのことを知っているのだろうか。
「知らないだろうな……」
おそらく、優子が知っているのは優等生としての鈴木くんの姿だけだ。きっと彼は、学校では完璧な優等生を演じているのだろう。
会話の感じからして、鈴木くんは無理に不良たちに従っているわけでもなさそうだった。むしろ、不良たちから慕われているような印象すら受ける。タバコを吸っていなくても対等以上に話しているのがその証拠だ。
どうやら、鈴木くんは思いのほか悪い虫だったらしい。
とにかく、優子の兄として、このまま放置しておくわけにはいかない。優子を不幸にするような男はこちらから願い下げだ。
「……はぁ。どうするかな」
どんよりと重い気分になりながらも、俺は家までの道のりをただひたすら歩き続けた。




