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新聞部(仮)【リレー小説】  作者: 「小説家になろう」LINEグループ
30/45

ぼっち=中二病

この回の執筆者は鈴風さんです。

 新聞部(仮)の部室を後にした俺と朝倉は、とりあえずということで身近な空き教室に向かう。

 誰もおらずめぼしいものもこれといってない無いそこで、朝倉から「どんな人が怪しいか」と尋ねられた。

 特に考えも無く「食い意地張ってる奴じゃね」と返した俺は、その教室を後にして歩き始める朝倉の後を追う。

 何でまるで目的地でも決まっているかのような足取りで幾つもの空き教室をスルーするのか。

 訊く必要はある気はしたが、それよりも訊ける雰囲気ではない。


 無論、彼女に無駄な詮索を入れると怖い目にしか遭わないからだ。

 だから俺は素直に朝倉の目指すところへとついていった。


 それから約10分ほど経った頃。


 幾つもの直進路とT字路、そして交差点路を渡り切り俺と朝倉が辿り着いたその場所。

 彼女に先導されるように開け放たれたその空き教室の中を一望する。

 よく見えないが、教室の淵を沿うように並べられた長机には何やら不気味なモノが置かれていた。それは不気味なモノとしか形容出来ず、今の状態ではただの鉄塊にしか見えない。

 けれどもそんな鉄塊達に囲まれるように教室の中央に存在しているのが、一つの台。

 1メートルほどの高さのそれ。その上には何か乗っているようにも見えなくは無いが、けれども今の状態ではその素性を明かすことは無い。


「……暗くてよく見えん」


「……うん、ごめんね」


 俺が愚痴のように零したその言葉を受けてか、後ろにいた朝倉も申し訳なさそうに謝ってくる。

 彼女にとってもこの部屋の暗さは想定外、だったというわけだろう。

 まぁこんなひと気のない教室の電気が点いてたらそれこそ不気味なんだが。


 まずは電気でも点けようか、と思い一歩教室の中に入ろうとすると背面から朝倉が割って入ってくる。

 知らない教室の勝手を知らないだろうから私が点けてやろう、ということだろうか。

 廊下側の窓際に追いやられた俺は、やがて室内からパチッという音を聞く。

 それから二、三度点滅した後に暗闇に包まれていた教室の中が光を取り戻す。

 それを窓の中から光が漏れてくることで知った俺は、多少の緊張を伴いながら室内へと顔を覗かせた。


「…………?」


 まず、さっき薄らぼんやりと見えていた鉄塊は本当に鉄塊だったらしい。

 正確には何やらガスマスクのような不穏な物体の数々なのだが、俺にはその物の使用用途がよく分からないためそうとしか感じられない。

 やがて部屋が暗すぎた理由が、校舎外に面する窓に遮光カーテンがかけられていたせいだと知る。

 よくよく考えれば校舎の中央にでも教室が無い限りはあそこまでの暗闇は作り出せないだろう。廊下はまさしくひと気のないように電気が点けられていなかったが、でもこの学校にそんな奇妙な造りの教室は無いはずだ。


 だいたいの室内把握が終わると、それと同時に俺は朝倉へと一つの疑問を投げかける。

 あまり触れたく無いが、これも念のため。

 あまり触れられたく無いのか、何処か朝倉も悲しげな表情を浮かべている。


「あのさ、朝倉さん」


「……質問は、本人(・・)へと」


「…………あい」


 何であの人がここに、と思いつつ俺は一つ溜め息をつくと教室の中へと足を踏み入れる。

 正直なところもうどうでもよくなってきたから帰ろうかとさえ思ったが、でも今の光景は何だか放置すると本人(・・)が一番つらそうだ。

 そして渋々、といったぐらいの気持ちで俺は重い足を扉のレールの奥へとやる。


 その時だった。



「おい貴様、それ以上中に入ったら不可侵条約の下、神による鉄槌が下されようぞ!」



 右手には指貫グローブを付け! それを顔の右半分を覆い隠すように(かざ)す!

 左手にも同様にグローブが! それを掲げた右腕の肘部分へと当てがう!

 そうして形作られた美の造形は、まさしく神より舞い降りた暗黒堕天の必滅天使!


 ……そんな感じで教室のド真ん中にある高い机の横、一つの椅子から立ち上がっているソイツはポーズを取って俺の侵入を拒んできた。


「不可侵条約ですか、日ソですか……」


 ドッと押し寄せた疲れを隠そうともせず、俺は窓際に固められていた椅子を適当に引っ掴むとそこに腰掛ける。

 両膝に両肘を突いて明らかに面倒くさそうな俺を見てか、やがて入室してきた朝倉も手近の椅子を手にしてよそよそしく椅子に座った。

 まぁ、彼女自身コイツ(・・・)が面倒くさいのは承知だろうから、そんなヤツの下まで俺を連れてきてしまったことが申し訳ないのだろう。

 むしろそうじゃないと俺は今すぐにでも帰りそうだ。


「んで朝倉よ、簡単に説明をくれ」


「……そうね。でもどうせなら話を進めながら話すわ」


「了解っと」


 また一つ溜め息を零すと、やがて静かに腰を下ろしたソイツの近くに俺と朝倉は椅子を持ち寄って固まり始める。

 話し合いをするのに3メートルもの距離を空けているのは不自然すぎるし、必然的にこの人数で話し合いをするにはこういう形を取らざるを得ないのだ。


 ソイツと俺と朝倉の三人はソイツ、俺・朝倉といった一対二の配置で再び腰を据える。

 その席取りには、言わずもがな意味があってそれを如実に語っていた。

 話が始まるよりも早くそれを察した俺は、思わず後ろ頭をかきながら話し合いのスタートを迎える。




入宮いりみや(くろむ)、この学校の三年生よ」


「知ってる」


「あら意外。まぁやっぱりサイバーテロ予備軍の名は伊達じゃ無いのね」


「その名を口にするんじゃねぇ……」


 朝倉からの自己紹介が入ると、やはり見覚えのある顔だと思ったと合点がいき俺は返事をした。


 入宮黔。

 ソイツは正真正銘、ついさっき入宮薫と共に歩いていた時に颯爽と現れた現役厨二病患者だ。

 学ランをブラックスレイブン等と語り、あまつさえ自身を【混沌の闇より(きた)る抵抗者:ケイオススレイヤー】と呼んでしまう。

 コイツは、そんな圧倒的厨二力を持った末期症状の人間なのだ。

 なんで先輩に対して口が悪いかって? 敬語っていうのは敬うべき相手に使うんだろう?

 俺はゲス顔でそう言った。


「……ってちょっと待て。なんで俺の二つ名朝倉が知ってんの」


 唐突に浮かんだ疑問に、これ以上あの忌まわしいき呼び名を拡散したくないのと単純な謎に対する解を求めて俺は訊く。


「いや、いっつも追崎くんと呼び合ってるからクラスの人間なら皆知ってると思うわよ?」


「…………」


 朝倉の呟いた真実に、室内の空気は固まる。

 こういう時こそ厨二病で空気をぶっ壊してくれるのがありがたいのだが、こんな時に限って入宮兄は椅子に座って黙っていた。

 マジで空気読もうぜお兄さん。


「…………」

 

「さて、話し合いを始めるぞ」


「ん、藍住くんもう大丈夫なの?」


「なにがだね?」


「え……いや何も」


「よろしい」


 俺は教室に入ると三人固まって椅子に座って、いざ今から話し合い。

 よし頑張りましょう。

 何も無かった。椅子に座ってノンタイムで今話し合いをしようと切り出したのだ俺が。わざわざ俺が。

 なんだか知らんが朝倉さんがまたも申し訳なさそうな表情を浮かべている。

 何をそんなに(しお)れているんだ、何も無かったのに。


「まぁ、藍住くんの現実逃避もあったわけだから話を進めましょうか」


「別に現実逃避で話を切り出したんじゃないやい!」


 くっそ……。

 俺、この話し合いが終わったらラプソディに仕返しするんだ。

 大丈夫、俺はフラグ折るの上手いから。


 そんな俺のことを特に気にした様子もなく、隣で座っている朝倉は足を組んで今日ここにこうして俺ら三人が集まっている理由(ワケ)を話し始める。

 まぁ確かに俺が切り出したはいいが俺は話の概要を知らんからな。

 ここは彼女に仕切ってもらうしかない。



「それで……入宮先輩」



「黔様と呼べ」


 朝倉が立ち上がり、一歩踏み込み、そして一発拳を放った。

 鳩尾みぞおちに一撃貰った入宮兄は、その勢いに飛ばされ椅子からズッコケる。

 床にぶつかった衝撃で背もたれが破壊されたが、今は目を瞑っておこう。


 静かに腰を落ち着けた朝倉は、やがて話を戻した。

 入宮兄は背もたれのない椅子で座り直したため、やたらいい姿勢で鎮座している。そのまま心も真っ直ぐになって欲しい。


「それで、入宮先輩。ここに呼んだ理由を教えてもらってもいいですか?」


 足を組んで腕を組んで、何だか気怠さを感じさせる態度で朝倉は入宮兄へと尋ねる。

 あぁ、朝倉も呼び出された理由は知らないのか。てっきり用事を知った上で俺をここまで連れてきたのだとばかり。


 それじゃあ、まぁ、きっとこの件に関しては俺だけが必要なのだろう。


 朝倉が必要なら、彼女には理由を通さないと話には応じないだろうし。

 そんな朝倉が理由を知らないのなら、もう片方の俺の方が重要なんだろう。

 朝倉がこの役を買って出たのも、きっと俺を一番素直に動かせそうだと思ったからだろうな。

 それか、朝倉しかこの役を引き受けなかった、か。

 そうだとしたら入宮兄の人望は大概だ。

 まぁ厨二病の人望なんてネッ友ぐらいだと相場で決まっている。現に俺も充也とネットの人間としか友好関係は築けていなかった。中学時代の話だが。


「ふむ、いいだろう」


 朝倉の言葉に対しての返答。

 入宮兄もまた足を組み腕を組みながら、しかし話し合いには真剣だという雰囲気は何故か伝わってくる。

 やはり背もたれのない椅子で座っているから不格好なんだけど。


 やがて一つ咳払いをすると、入宮兄は話の本題へと移った。




「弟の(らん)が…………恋を、したらしいんだ」




 隣で朝倉が口を押さえて大爆笑。

 見てるこっちまで恥ずかしくなるぐらいに、結構な勢いで笑っていらっしゃる。

 確かに厨二病兄が"恋"なんて単語を発するのもそうだし、その弟が恋をしただなんて聞いたら大抵の人間は内心で笑うに違いない。


 だが、俺一人だけは笑うことが出来なかった。


 何故かと訊かれれば、一瞬答えが出ないが考えればすぐ分かること。

 入宮兄の弟は【七つの罪を背負いし咎人:セブンスシンナー】という二つ名を持つ、やはりこの兄にしてこの弟ありといった感じの奴だ。

 だが問題なのはそこじゃない。いやそこではあるんだが、今更そこを更生させるのは無茶がある。



 その弟は、俺の妹の優子と同級生なのだ。



 しかもクラスが同じときた。

 いつぞやの晩、優子に新聞部(仮)の話をした時に優子が言っていたソイツである。

 優子の記憶に入宮弟がいるように、きっと入宮弟にも優子の記憶があるだろう。

 そう、憶測にしか過ぎない考えでも予想を立てるとしたら、それは俺にとっては本当に考えたくもない可能性。



 ──入宮弟は、優子が好きなのかもしれない。



「大丈夫? 藍住くん」


 らしくもない様子でそう声をかけてきてくれた朝倉を見て、俺は何処かホッとした気分になる。


「あぁ、大丈夫だ。気にするな」


 というか、傍から見て分かるほどに動揺してたってのか。

 そう考えると何だか恥ずかしい。

 妹のことを気遣うのは兄としては当たり前なのだろうが、それをあからさまに外に晒しているとなるとやはり男として恥ずかしくなる。


 まぁ、そもそもに俺の考えだって所詮は俺の考え。事実とは誰も言っていないし俺も願っていない。

 勝手な推測で好きにさせられる優子が不憫すぎる。

 妹のことを気にしてやったことが一周して妹に対して悪いことをしていたなんて、こんな失態はない。


 とりあえず、入宮兄の話を聞き進めることにした。

 さっさと新聞部(仮)の部室に戻りたい、きっと朝倉も帰りたいだろう、無駄な時間は食いたくない。

 そんな考えもあるが、結局は優子のためだった。


「それで、弟さんの恋の相談を何故俺に?」


 それもそうだろう、と言わんばかりに俺は訊く。

 わざわざ弟の恋の話をしてくる意味が分からないからだ。

 一拍置き、入宮兄は答える。




「無論、鸞の恋の相手が貴様の妹だからだ」




「なにも聞いてないなにも聞いてないなにも聞いてないなにも聞いてない」


「現実逃避は一度まで。真っ向から向き合いなさい藍住くん」


「ちくしょう……」


 相談相手が親密度がほぼ皆無に近い俺である時点で、俺の予想は予想ではなくなっていることは何と無く感じていた。

 だがこうして目の前に突きつけられると、やはり逃げたくなってしまう。

 現実ってなんでこうも理不尽なことが多いんだ。


「……んで、俺にどうしろと?」


「案外従順ね藍住くん」


「……むしろ恋の邪魔でもしようと思いましてね」


 優子がもしかしたら厨二病になってしまうのではないか、という懸念はずっと前からあった。それこそ俺が現役であった頃から、自分のことよりも優子のことを気にしていたぐらいだ。


 俺の妹であるが故、もしかしたらもしかするかもしれないと常々思っていた。

 だが俺の最近の行いがいいのか優子はまだ発病していない。

 実際発病するかもしれないししないかもしれない。それは分からないが、少なくとも優子に厨二病を近づけるのはマズいということは確かなのだ。


「それでだな、藍住良太。貴様には、私の弟の恋の成就に貢献して貰いたい」


「なにも知らないなにも聞いてないなにも見てないなにも関係ないなにもどうでもいいなにもかも消し飛べやぁぁあぁああ!!」


「現実逃避が極まってるわよ藍住くん」


「……すみません」


 この世に神がいるのなら、貴様には即刻退場願いたい。

 俺の今の心情はこんな感じだ。


「あのですね、どうしてわざわざ妹の身を危険に晒さなければいけないんですか?」


「……ただ恋の手伝いをしてやって欲しいと言っただけなのだが」


 それがイコールで繋がるんだよ。


 入宮兄はズレていた学ランを肩に掛け直すと(袖に腕は通さずに羽織っている状態)、いい姿勢から膝に肘を突いて指を組み、顔を突き出して話を続けた。


「正直な話、鸞は人見知りの激しい奴なんだ」


 急に重めの空気で話し始めた入宮兄を受けて、俺と朝倉は少しだけ身を固めて話を聞く。

 彼のような人間がちゃんとした話をし始める時は、大抵本当にちゃんとしている。


「そんな鸞が始めて自分から気になる相手がいると、わざわざ俺と薫に話にきたんだ」


「一人称変わってるのはやっぱり真剣だということなのか」


「黙ってなさい」


 肩を普段よりは弱めに殴られ、俺は呆気なく黙った。

 いや、普段が強すぎるから多少弱くても結構痛いんだが。


「鸞は自分の人見知りを隠すために二つ名を授かったわけだが、そんなあいつにも近づいてきてくれる人間がいたのだ」


「……優子か」


 確かに優子は男女ともに分け隔てなく話しかけるようなやつだから、そういう面があってもおかしくはない。

 だいたい優子から入宮弟の話を聞いた時も、普通なら痛々しいやつのことなんて話題にすらしないものだろう。

 だけど優子はソイツについて話した。

 ソイツのことを説明出来るぐらいには、ソイツのことを知っていたというわけだろう。


 我ながらいい妹を持ったなぁ、と少しだけ感動する。


「最初こそ怖がっていたが、でもしばらくの間時間を共にすることで鸞は打ち解けていったらしい。それで今では、その相手のことが好きなんだそうだ」


「なるほど……まぁだいたいは把握した」


 わざわざこんな嘘を吐く理由もないだろうし、本当のことなんだろう。


 確かに、厨二病ってやつは発病する人間の大半が現実では決してリア充とは呼べないような奴ばかりだろう。

 俺だって彼女がいてー、といった学校生活を送っていたら厨二病なんて発症していなかったはずだ。

 そして入宮弟の発症原因は、生まれて持った人見知り。

 人見知りな自分を隠したかったから厨二病という皮を被っていたのだと思う。


 そんな彼が、好きな相手が出来た。


 それは皮肉にも俺の妹だったのだが、彼にとっては初めてまともに気になることが出来た相手なんだろう。

 人見知りでも好きな相手はずっといただろうし気になる人もいたはずだ。


 でも『好き』とはっきりと言ってこなかったのは、今までがずっと一方的な片思いでしかなかったから。

 初めて自分に関わってきてくれる女の子が現れたから、彼は優子のことが本当に『好き』になったんだと思う。



「それで藍住良太。引き受けてくれるか?」


「……」


 入宮兄は、話を聞いた上で引き受けてくれるか、といった様子で訊いてくる。

 朝倉は、やはり表に少し出てしまったのだろう俺の様子を見て眉根を寄せていた。



「…………オーケー。引き受けた」



「本当か……すまないな」


 顔を俯かせたまま俺はそう呟く。

 入宮兄が望んでそう交渉を持ちかけてきたというのに、俺の返事を聞いた彼の返事は申し訳なさでいっぱいだった。


「藍住くんいいの?」


「なにが」


「いや……この話。引き受けてよかったのって」


「あぁ。いいよ別に」


 俺の言葉を受け、朝倉は完全とは言えないものの多少は普段通りになる。

 二人とも感じ取っているのだろうか。

 やっぱり俺が妹に無理矢理恋人を作ってやろうと思っていることに対して何も感じないのかと。


 もちろん何も感じないわけがない。

 むしろずっと嫌でさえある。



 だって、優子には好きな相手がいるんだから。



 先日通学路で出会った優子と同級生だという男、鈴木(すずき)圭一(けいいち)

 彼と会った優子の態度は兄や他の男に見せるような明るいそれではなく、まるっきり"女"というような初々しいモノだった。



 優子はその鈴木圭一という男のことが好きで、でも入宮弟は優子のことが好き。



 今更引き受けた話を断ることも出来ないし、優子が他の男のことを好きだということを話すことも悪いと思う。


 話を引き受けてしまったのも、単なる同情に近いものだったかもしれない。

 俺自身が厨二病を患っていた故、彼の苦悩も何だか分かるような気がしたのだ。

 だから、手伝ってやりたいと思ったのだ。


「それじゃあ詳しいことは、今日鸞と話し合ってまた後日話そう」


「あぁ……」



 優子のことを大切に思う気持ちもあるが、それと同時に入宮弟の手助けをしてやりたいとも思った。



「藍住くん……」


「あぁ、んじゃあ今日は解散にしましょうか」



 俺は一人立ち上がると、「今日は部活も休む」と一言だけ朝倉に告げて教室を後にする。



 ただ、教室を出て扉を閉めるその時まで、ずっと二人の視線が俺の背中に向けられているのを、俺は一人感じていた。

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