俺、新聞部の見学に行く
この回の執筆者は花来れんさんです。
時間はあっという間に過ぎ去り、放課後になった。
というわけで俺は、誰もいなくなった教室で一人悩んでいる。にしても、人がいなくなるのが早いことだ。どれだけ皆、部活動がやりたいんだろうな。
ご苦労なことだなーとぼやきつつ、俺は今朝、委員長から渡されたスケジュール表を眺める。良さそうな部活はないものか。
「っても、どれもピンっとこないしなぁ」
まず第一に、運動部は却下。運動部なんて入った暁には、確実に本気でやらなきゃならなくなる。そんなのはごめんだ。俺は部活動に、本気など求めてはいない。
第二に文化部だけど、暇が多そうな部活は大半入ってしまった。
うわぁ。めんどくさいなぁ……。
となると、俺が入りたい部活動なんてほぼなくなる。今思えば、なんで辞めたんだろうな、部活。本気でやる気がないなら、幽霊部員としていれば良かっただけなのに。
ぐて、と机に突っ伏したときだ。ふと、部活動スケジュールの端っこに気になる単語を見つけてしまう。
「……新聞部?」
なんだこの、地味な感じの部活。
見たところ、活動場所もかなり隅っこだ。別棟の端だな。つーかここ、確か理科室の隣りじゃね? なんかかなり不吉だわ。
そう思ったけど、俺の好奇心はどんどんそっちに向かってく。
「……別に行くとこないし、行くだけ行くか」
そうぼやき、俺は別棟へと足を運んだ。
***
別棟なんてくるのは、音楽とか理科室使うときくらいだなぁ。
俺はそんなことを思いつつ、一人廊下を歩く。別棟で活動してる部活なんて新聞部だけだから、ひと気はまるでなかった。
ちなみに吹奏楽部は、もっとちゃんとした部室をもらってる。ここの吹部は、毎年必ず全国大会に行くくらいは強いのだ。
「青春だねぇ……青春が、何になるんだか」
ほんとに、何がそんなに楽しいんだか。
俺は別棟の廊下の窓から、汗を流してまで必死にボールを追いかけるサッカー部のことを見つめた。
「……ほんっと、バカみたいだわ」
「おやおや、藍住君。本気で頑張ってる人に対してそんなことを言っていると、バチが当たるよ?」
「……っ!?」
俺は慌てて後ろを振り返った。するとそこには、委員長がいる。
……って、待て待て。今の今まで、俺一人だったよな!?
「ああ、安心して。藍住君の痛いセリフとか、聞いてないから」
「うわぁぁぁあ……」
聞いてたよ。この人絶対に、始めっから聞いてたよ!!?
俺はいい顔を見せる委員長に、頭を痛めた。
すると委員長はまぁまぁと笑い、首を傾げる。
「ところで藍住君。君はどちらへ向かう気なのかな?」
「いや……新聞部だけど」
「そうか。それは奇遇だね」
「……って、もしかしなくても委員長、新聞部なのか!?」
驚きを隠せない俺に、委員長は笑顔で頷いた。
いや、まさか委員長が新聞部に入ってるなんてな……。
だけど確かに、ジャーナリストが似合いそうな感じはする。何が、と聞かれたら、答えられはしないけどな。
「そうかそうか。藍住君が新聞部に見学か。歓迎するよ」
「あ、ああ。案内頼んだわ」
「もちろん。こっちだよ」
委員長はそう言って、部室へと案内してくれた。
理科室の隣りにある教室なのだが、そのに明かりはついていない。おかしいな。活動してるんじゃないのか?
思わず頭を捻ると、委員長は「またか」とぼやく。
「何が『また』なんだ?」
「なぁに。いつものことさ。……まぁいいや。藍住君、入ってよ」
「おう」
委員長は俺に先を譲るように、扉を開けて手で促す。
俺はそれに甘え、先に入れてもらうことにした。
「……え」
しかし俺は、部室の中を見て固まった。
中はぎぃ、ぎぃ、と鈍い音を立てて揺れる電灯で照らされている。
そして真ん中には、人がいた。
首を吊った、人が。