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新聞部(仮)【リレー小説】  作者: 「小説家になろう」LINEグループ
27/45

第三の委員長

今回の執筆者はあげぱんさんです。

今、俺の靴には重りが付いていた。



 ……嘘だ。

 しかし、それほどに部室に向かう俺の足取りは重かった。

 今日の部活はおそらく、小説披露ドタキャンによる罪の有無を決める裁判になることだろう。

 いや、昨日の時点ですでに有罪判決が決まっていて、死刑執行になるのかもしれない。

 はたして、五体満足で家に帰ることは出来るのだろうか?

 反語に出来るが、したくない。

 そうだ、危ないと思ったら手を三回叩いて身代わりを呼ぼう。

 うん、それがいい。


 しかし、こうやって部活に行きたくないと思ったのはいつ以来のことだろう。

 新聞部(仮)に入った直後は、めんどくさいと言う気持ちや、部員の変人達と顔を合わせたくない気持ちがあり、あまり気は進まなかった。

 だが、最近はどうだろうか。

 死んでいたり、暴力を振るわれたり、携帯を壊されたり、小説を書く羽目になり、その所為で更なる変人に遭遇したり。

 とまあめんどう事に巻き込まれているのには変わりないのだが、いつの間にか変人達に惹き込まれ、それを楽しんでいる自分がどこかにいた。

 その所為かお陰か、部活に行くのは苦なことではなくなっていて、昨日は一番乗りしてしまうほど足取りは軽いものとなっていた。



「きゃっ!?」



「おわっ!?」



 突如前から衝撃が襲い、俺は後ろへ倒れる。

 見ると、ここの廊下はT字になっているため、曲がり角から歩いてきた人とぶつかったのだろうと推測出来た。

 いつもは注意していたが、今日はいろいろと思考を巡らせていて上の空で歩いていたから、怠っていた。

 注意している時は人に遭遇しないのに、こうして注意していない時に限って居るもんだよな。

 そう思いながら立ち上がり、ぶつかった人の姿を確認する。


 顎の辺りまで顔のラインに沿って伸びた栗色のショートカット。

 白く透き通った綺麗な肌。

 愛らしく、くりくりとしていて、すこし潤んだ瞳。

 八の字眉で、困り顔。


 そんな女子生徒が、あひる座りをして、おでこをさすっていた。


「大丈夫か? すまん、俺の不注意で……」


「ううん。私も注意を払ってなかったから……」


 差し出した手を掴んで、彼女は立ち上がると、スカートをぽんぽんと叩いて埃を落とす。


 身長はロリ以上俺未満。

 標準くらいだろうか。

 胸も標準サイズか。

 ……って、どこを見ているんだ、俺。


「みんなのノートが……」


 彼女は弱弱しく呟き、しゃがむ。

 周りには、おそらく彼女が運んでいたと思われるノートが散らかっていた。


「俺も手伝う」


 そう言って、ノートを拾い、詰んでいく。

 幸い、ノートのように重いものだったので、そう遠くには広がっていない。

 これがプリントだったら、飛んでいってもっと広がっていただろうし、薄くて拾うのも一苦労だ。

 ノートの表紙を見ると、それが世界史のものだと分かった。


「ごめんね、ありがとう」


「いや、俺が悪かったんだ。気にするな」


 彼女も悪いのかも知れないが、少なくとも俺の不注意というのが一つの原因だ。

 そしてその所為でノートが散乱してしまったなら、拾ってやるのが常識だ。


 しかし、と彼女を見る。

 彼女は美少女と言っても大差ないくらいの可愛さだ。

 ぶつかるシチュエーションがパンを咥えて……と言うようなものだったら恋に落ちていたかもしれない。

 それでも、少し胸が高鳴っているのは彼女が久々に会った常人だからだろうか。

 まだ彼女を良く知らないが、現時点では変人では無い様に思える。




「これで、よし」


 彼女が最後のノートを拾い、詰みあがったノートタワーの上に載せる。

 そしてそれを、よいしょと両手持ち上げた。


「それも手伝おうか?」


 ノートタワーは以外と高く、重そうだ。


「うーんと……。じゃあ、半分持って行ってもらおうかなー」


 彼女はそう言うと、ノートタワーを少し前に出す。

 俺は半分より気持ち多くそれを取っていく。

 半分と言われてきっちり半分だけ持つのは、男が廃るよな。


「どこに運べばいい?」


「職員室までだよー」


 どこか間の抜けた感じで、彼女は答える。


「それじゃあ、行くか」


 そう言って歩き出すと、彼女は俺の横を歩いた。


「えへへ。一人だとちょっと重かったんだよねー。ありがとう」


「いや、礼なんていいよ」


 さっきからお礼を言われてばかりで、ちょっと気恥ずかしくなる。


「そうだ、自己紹介してなかったね。わたしは入宮薫(いりみやかおる)。二年A組の委員長をやってるんだー」


「第三の委員長か……」


 俺は思わず呟く。

 俺が委員長の肩書きを持つ奴に出会うのはこれで三人目だ。


「第三の委員長……」


 入宮の呟きが聞こえ、視線を向ける。

 彼女は、何故か恍惚の表情を浮かべていた。

 完全に心ここに在らず。

 しかしながら、そんな状態でも真っ直ぐに歩いている。

 もしかして、さっきぶつかった時もこんな感じだったのか……?


「おーい、入宮ー」


「はひっ!?」


 声をかけてやると、入宮は驚き、体をビクンをはねさせる。


「大丈夫か?」


「あ、うん。ごめんごめん。ちょっと考え事してて……」


 いや、第三の委員長って呟きながらいったい何を考えていたんだ。

 誰が第一で誰が第二か考えていた、そんなところだろうか。

 いや、だとしたら恍惚の表情を浮かべていたのに疑問が残る。

 まあ、空っぽの頭で考えても仕方ないか。


「少し間が空いたが、俺は藍住良太。二年B組だ」


「良太くんかー。よろしくね!」


 名前で呼ばれ、ドキッとする。

 気にしていなかったが、最近出会う人たちには苗字で呼ばれてたな。

 女の子に名前で呼ばれるとこうもドキッとするものなのか。


「二年B組って言うと、第一の委員長はやよいちゃんかー」


「良く分かったな」



 第一の委員長、朝倉やよい。

 俺の良く知っている委員長で、他クラスからも委員長と呼ばれている、まさに委員長の中の委員長。

 ただ、怪力暴力女と言うのが難点ではある。



「委員長会で会うからね。各クラスの委員長の顔と名前くらいは覚えてるよー」


 すごいな。

 俺なんか、クラスメイトでさえ名前覚えてるやつのほうが少ないぞ。

 そう言えば、朝倉のことも新聞部(仮)に入る前は名前知らなかったよな。


「そんじゃあ、第二の委員長は分かるか?」


「うーん……。何かヒントは無い?」


「そうだな……」


 俺は、彼女の特徴をいくつか上げてみる。

 そして、一番ヒントになりそうなものをその中から選んだ。


「ちっこいことかな」


「ちっこい……分かった、希沙良ちゃんだ!」


「お、正解」



 第二の委員長、如月希沙良。

 ロリぃ員長にして、俺の忠実なる(!?)従者。

 人智を超えた忍のような身のこなしの出来る人物だ。

 しかし、どうやら委員長としての威厳はないようで、クラスメイトの遊び道具にされているらしい。



「希沙良ちゃんってしっかり者だよねー。絵も上手だし」


「そうなのか?」


「うん。特に風景画が上手みたいだよー」


「そう言えばあいつ、美術部だって言ってたか」


 その情報、まったく忘れていた。

 まあ、思い出したところで特に何かに関係する話ではないだろうが。


「良太くんは部活は何部ー?」


「新聞部(仮)って部活に入ってるぞ。部員変人ばっかだけどな」


 俺がそう言うと、入宮の眉がぴくりと動き、一瞬怪訝な顔をした。


「どうかしたか?」


「ううん。なんでもない」


 そんなこんなで話していると、職員室の前に来る。


「失礼します」


「失礼しまーす」


 入宮が先に職員室に入り、歩いて行く。

 向かった先は、二階堂先生の机だった。


 俺は少し警戒していた。

 この間彼には、自身がミリオタということを生かしたドッキリを仕掛けられた。

 その時に、そのドッキリは止めた方がいいと制止したが、俺はまた何か仕掛けてくるだろうと勘繰っていた。


「二階堂先生。ノート持って来ましたー」


 入宮は敬語で話しているが、やはりどこか間の抜けた感じがする。


「おう、ありがとうな」


 二階堂先生は、何をすることもなく入宮からノートを受け取った。


「藍住くんもいるじゃないか。手伝いかい、偉いね」


「いや、まあいろいろあったんだよ。それより、こないだの止めちゃったの?」


「止めちゃったのも何も、藍住くんが止めたほうがいいって言ったんじゃないか」


「いや、それはそうだけど……」


「もしかして、新しいのに期待してた? いやね、藍住くんが帰った後僕もいろいろ考えて新しいものを作ってみたんだけど、校長に見つかっちゃってね……」


「あー、それはドンマイ」


 そういうことだったか。

 それはご愁傷様です。


「まあでも、藍住くんが期待してくれてるなら僕も頑張ってやってみようかな。校長にちょっと注意されただけでめげていちゃ駄目だよね! よし、やる気出てきた!」


 そう言うと、机を開けてなにやらいろいろと取り出し始める。


「あー、いやそういう意味じゃ……」


 駄目だ、聞こえてない。

 校長先生に注意されたくらいでって、そりゃあくらいじゃないだろ。

 イエローカード二枚で退場、つまり退職になっちゃうよ。

 っていうのはいくらなんでも大げさだけどさ、注意のうちに止めておきなよ……。


「……行こっか、良太くん」


 入宮は苦笑いを浮かべている。


「……そうだな」


 俺もそれに苦笑して返した。






「これでお仕事おーわり!」


 職員室を退室して、入宮が伸びをしながら言う。


「ありがとね、良太くん」


「いや、元々は俺が悪かったんだし、気にすんな」


「それじゃあ、良太くんはこれから部活?」


「ああ。あー……」


 あ、だけで返し思い出す。

 そう言えば今日の部活は……ああ、想像したくない……。


「どうかした?」


「いや、なんでもない……」


「それならいいけど。私も部活に行くから、ここでお別れだねー」


「おう。そういえば、入宮は何部なんだ?」


「わたし……? わたしは──」


「──そこにいるのは、我が妹ではないか」


 後ろから、唐突に声が飛んできて、反射的に振り向く。

 そこには、入宮と同じ栗色の短髪の男がいた。

 着ている学ランは前を開けていて、右手は袖に通していない。

 ちらちらと見える右手は、どうやらギプスをはめて三角巾で吊っているようだ。

 骨折でもしているのだろうか。


「お兄ちゃん、学ランちゃんと着てよ。妹として恥ずかしいよ……」


「何かあった時にすぐに力を解放できるようにしておかなければならないだろう? それにこれは学ランじゃない。力を封印するための服、ブラックスレイブンだと何回言えばわかるのだ、妹よ」


 な、なんなんだこの圧倒的厨二病は……。

 ブラックスレイブンって、どっからどう見ても普通の学ランにしか見えねえよ。

 痛すぎるぞ、コイツ!


「そいつは誰だ? まさか敵か……!」


「ち、違うよ、お兄ちゃん! 良太くんには私の仕事を手伝ってもらってたの」


「そうか、勘違いしてすまなかった。我が名は入宮黔(いりみやくろむ)。【混沌の闇より(きた)る抵抗者:ケイオススレイヤー】の二つ名を持っている」


「は、はあ……」


 入宮の兄ってことは、高三だろ?

 それなのに二つ名持ってるって、完全にアウトだよな。

 しかも、混沌の闇より来る抵抗者って、地味に五・七・五になっててじわるし……。


 兄が重度の厨二病か……。

 こりゃ妹は大変だろうな……。


「もう! 恥ずかしいから二つ名名乗るの止めてよ!」


「恥ずかしいも何も、考えてくれたのは薫じゃないか」


「え……」


 思わず声に出してしまい、はっと口を噤む。

 見ると、入宮は俯いていた。

 まさか、彼女も厨二病だって言うのか……。


「そうだぞ。ちなみに私たちには弟がいてな。そいつの二つ名である【七つの罪を背負いし咎人:セブンスシンナー】というのも、薫が考えたんだ」


 おいおい、ちょっと待て。

 それって、優子が言ってたクラスメイトじゃないか。

 弟も厨二病って、どうなってるんだ、入宮家。

 大丈夫か、入宮家。


「恥ずかしいから……」


 入宮の手がわなわなと震えている。


「恥ずかしいから言わないでって……言ってるでしょー! 喰らえ、すべてを一撃の下に砕く拳、玉砕拳(オールブレイカー)!!」


「ぐはぁっ……!」


 大きく振りかぶった拳を、兄の鼻にめり込ませる。

 威力こそなさそうだが、完全に直撃した。

 かなり痛そうだ。

 てか、玉砕拳(オールブレイカー)って、やっぱ厨二病なのか。

 もう、なんかついていけないわ……。


「くっ……。さすがは我が妹。右手が疼いているが仕方がない、今回は身を引いてやろう」


 鼻を押さえながら踵を返す、入宮兄。


「藍住良太と言ったな。貴様とは再び出会うことになるだろう。……あと、貴様のところの部長にもよろしく伝えておいてくれ」


 そう言って、去って行った。

 アイツ、何で俺の名前を……?

 それに、川見部長と一体何の関係があるんだ……?

 しかし、とりあえずその疑問は置いておいて、俺は入宮を見る。


「大変だな、お前」


「へ……?」


 彼女は不思議そうな顔をしてこちらを覗き込む。


「ひ、引かないの……」


「なんで?」


「だって、わたし厨二病なんだよ……」


「それが?」


「それがって……」


 彼女はまたしゅんとして俯く。


「入宮は確かに厨二病だな。でもまあ、俺と話してたときは普通だったろ? お兄さんみたいに、日常的に厨二病発言してるなら引くけど、お前の場合はそうじゃない」


 入宮は顔を上げる。


 まあさすがに、お前の兄にはドン引きだがな。


「ほんとに、引かない……?」


「ああ、ほんとだよ」


 まあさすがに、お前の兄にはドン引きだがな(二回目)


「じゃあ、このことは……」


「ああ、誰にも言わない」


 人には誰にだって知られたくないことの一つくらいある。

 俺は、その秘密を言ってしまうほどひねくれた奴じゃない。


 それに、今まで厨二病を笑ってきたが、俺にだってサイバーテロ予備軍という二つ名がある。

 俺の友人の充也に混沌のラプソディの二つ名をつけたのは、他でもない俺だ。

 玉砕拳(オールブレイカー)とか言ったりやっちゃう入宮ほどではないが、俺も厨二病の仲間ではあるのだろう。

 だから彼女に、幻滅などしていなかった。


 まあさすがに、おm(ry


「じゃあ、指きりね」


「お、おう」


 伸ばした小指に、入宮の小指が絡んでくる。

 色白く、細く、綺麗で、そして温かな小指だった。


「ゆーびきーりげんまん嘘ついたらハリセンボンのーます。指きったー」


 ……ん?

 なんか今おかしくなかったか?

 まあ、気のせいだろう。


「よし。じゃあ、そろそろ部活行かなきゃだねー」


 そう言う彼女は、元の間の抜けた声に戻っていた。


「それじゃあね、良太くん」


 そう言って、手を振りながら去って行く、入宮。


「さて、俺も部活へ……」


 そこで再び思い出す。

 もう結構遅くなってしまったし、これは本格的にやばいな。

 今日はもう行かなくてもいいかな、とも考えるが、罪が重くなるだけだろう。

 なかなか部室のほうに向いてくれない足を無理矢理動かす。

 そして、いろいろと言い訳を考えながら部室へと歩みを進めた。

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