お兄ちゃんは妹の変化に一喜一憂する
この回の執筆者は佐堂さんです。
「あ、優子ちゃん」
俺がいつものように愛しい妹と一緒に登校していると、突然、背後からそんな声が掛けられた。
「あ、鈴木くん! おはよう!」
後ろを向き、その声の主の姿を視認した優子の顔がパッと明るくなる。
俺も後ろを振り向いた。
「おはよう優子ちゃん。奇遇だね、こんなところで会うなんて」
「そ、そうだね!」
その視線の先にいたのは、一人の男子生徒。朗らかな笑みを浮かべながら、柔らかな物腰で他人に接するその姿は、まさしく爽やか系イケメンと呼ぶにふさわしい。
そんな彼を見つめて、陶然とした表情を浮かべている奴が一人いた。言うまでもなくうちの妹である。
……男、か。
そういえば、優子に好きな人がいるのでは? という疑念は前からあった。もしかして、こいつが例の、優子が想いを寄せている男なのだろうか。
というか優子が若干挙動不審で面白い。
「隣の人は、優子ちゃんの彼氏さん?」
「ちちちち、違うよ! ただの兄だよ、兄!」
顔を真っ赤しながら、ブンブンと首を横に振って男子生徒の言葉を否定する優子。必死だ。
「ああ、お兄さんでしたか。はじめまして、僕は鈴木圭一といいます。いつも優子さんにはお世話になってます」
そう言うと、男子生徒は俺に向かって頭を下げてきた。俺のほうも軽い自己紹介を済ませる。
鈴木くんにも特別急ぐような用事はないとのことなので、俺たちは三人一緒に学校までの残り少ない距離を登校することにした。
「ところで、優子とはどういう知り合いなの?」
「同じバレー部の部員なんですよ。優子さんはいつもチームを引っ張っている、女子バレー部の頼れるリーダーですね」
「ちょっと、やめてよ……」
鈴木くんの言葉を否定するようなことを言いながらも、優子の顔は赤い。本気で嫌がってはいない証拠だ。まったく、愛いやつめ。
それにしても、優子と同じバレー部の鈴木くんか。覚えておかないとな。
そんなことを話している間に、俺の通っている高校に着いた。
「それじゃあお兄ちゃん。行ってらっしゃい!」
「うん。優子も、行ってらっしゃい」
優子は笑顔で俺のことを見送ると、鈴木くんと一緒に中学校がある方向へと消えていった。
そして放課後。
「……っていうことがあったんだよ」
「なるほどなるほど。それでこの真の委員長たる私に相談に来てもらったと、そういうわけですね」
「いや、間違えて三回叩いただけだけど」
「さすがに嘘ですよね!?」
今は、新聞部に向かう途中に間違えて三回手を叩いたところ、なんかロリぃ員長……もとい如月が来たので、適当に相手をしているところである。決してちょっと愚痴る相手が欲しかったから呼んだわけではない。
今日も今日とて大きなお友達が涎を垂らして喜びそうなほどロリロリしい如月は、全てを見透かしたような表情で口を開く。
「まあいいです……話を戻して。それで、妹さんに悪い虫がついてるのではないかと、良太さんは心配しているわけですね?」
「べっ、別にそんなんじゃねーし。優子のことなんて全然、これっぽっちも心配してねーし」
「わかりやすいツンデレですねぇ……」
やれやれとでも言いたげな様子で、如月が長いため息を吐く。
その様子があまりにもムカついたので、如月の頬を軽く抓ってみた。
「にゃっ!? い、いひゃいれふ!」
おお、柔らかい。ぷにぷにだ。これぞロリロリしいもち肌。
さすがにずっと抓っているのは腕がしんどいので、すぐに手を離した。
「痛っ! いま私なんで抓られたんですか!?」
「いや、なんかムカついたから」
「それだけの理由で!? 乙女の柔肌を何だと思ってるんですかっ!?」
「そんなに怒るなよ。減るもんでもないんだから」
「減りますよ! 私のHPが減りますよ!」
「あ、それじゃ俺、新聞部(仮)に行ってくるわ。如月、また今度な」
「お願いですから人の話を聞いてくださいっ!!」
ぜぇぜぇと息を切らしながらロリぃ員長が何か言っていた気がしたが、気のせいだろう。
よし。ちょっとすっきりした。
ロリぃ員長のおかけで晴れやかな気分になった俺は、新聞部(仮)の部室へと向かった。




