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新聞部(仮)【リレー小説】  作者: 「小説家になろう」LINEグループ
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ハプニングは意図せずやってくる

この回の執筆者は夜月四季さんです。

「えっと、お兄ちゃん……?」

「あ、ああ……」

 目の前には愛すべき妹のあられもない姿が広がっている。ほかほかと白い湯気を身にまとっているのを見るに、今の今まで風呂に入っていたのだろう。凹凸の足りないがすらりとした体。その表面を滑り落ちる水滴。その艶やかさに息をのむ。

「――ッ!」

 俺の視線に気がついたのか、優子が体を隠す。中学校に入学してからの優子はどうやら異性に対する羞恥心を覚えたようである。兄としてその成長をうれしく思うと同時に寂しく感じる。

 ほんの数年前までは雛鳥のように後ろに着いてきていたのに。そんなことを考えていた俺の頭に小さくない衝撃が走る。

「こ、この変態兄! さっさと出て行けえええええ!!」

「す、すまん!」

 あわてて脱衣所を飛び出す。

 どうしてこんな事態に――。俺はほんのちょっとだけ前を思い返した。



 放課後。図書室で調べ物を終えた俺はまっすぐに家に帰った。夕飯も食べてあとは風呂に入るか寝るかといった時間。

 普段ならばパソコンか何かゲームでもいじっている時間に自室で俺は一人頭を悩ませていた。目の前には今まで集めた情報と真っ白な原稿用紙。そして国語辞典。適当な飲み物とおやつを置いていた。

 ペンを持ち、何かを書こうとしてはやめる。……前にも言った通り俺には小説を書いた経験がない。とりあえずそれっぽく用意してみたものの、その状態で早くも1時間が経過しようとしていた。

「……何も思いつかない」

 紙も真っ白なら頭の中も真っ白だ。書き出しからもう思いつかない。思いつかないからどうしていいかわからない。負のループの完成だ。

「あ~……どうしたもんかなあ」

 イスに深く腰掛けて、腕を思い切り伸ばす。ポキポキと小気味のいい音が鳴った。

 創作で詰まったときは、リラックスしたり趣味に没頭するといいらしい。

「風呂にでも入るか」

 汗を流して、浴槽に浸かる。そうしてのんびりすればいいアイデアが浮かぶかもしれない。そう考えた俺はクローゼットからジャージと下着を引っ張り出す。そして意気揚々と風呂場を目指した。

 ……その結果がこれである。

「まずいなあ。優子を完全に怒らせたかもしれん」

 ああ見えて優子の怒りは中々持続する。以前誤って優子のコップを割った時なんか怒髪天をつくといった勢いで怒り、1週間はそのままだった。機嫌を直すために飛ばした英世の数は、思い出したくもない。

「ううむ」

 今度は何を要求されるのだろうか。コップを割っただけで1週間激怒状態。そして英世が数人犠牲になるほどだ……今度こそ、諭吉の出番かもしれない。

 少し経つと、洗面所の扉が控えめに開かれた。そこに向かって俺は勢いよく頭を下げる。

「ごめん。さっきのはそんなつ――」

「んごっ!?」


 …………。


 沈黙がその場を包んだ。俺の頭は少しだけ低い位置にあった優子の顔にクリティカル。優子は年頃の女の子にあるまじき声を上げた。

 や っ ち ま っ た !

 俺、頭突き、優子の顔面、クリティカル。

 謝ろうと思ってやったことがタイミングを完全に読み違えたために大惨事を生み出した。俺は思わずふらっときてしまう。

「ああ、死んだ……」

「死んでないよ!?」

 自分の未来が暗すぎるために口からこぼれた言葉で、優子が起きあがった。涙目でこちらをにらんでおり、未だに顔から手を離さない姿を見るにかなりのダメージを負っていそうだ。

「いや、そうじゃなくてだな……いや、本当に申し訳ない」

「乙女の裸を覗いたあげく謝らないで頭突きした男が何か言ってるなあ」

「優子様の裸をみたあげく頭突きをして大変申し訳ございませんでしたァ!!」

 その場で土下座。優子の機嫌が悪いときは基本的に謝るしかない。今回に関しても俺の方が圧倒的に悪いので謝るしかない。そして、日本式誠意のこもった謝り方といえばやはり土下座だろう。相手よりも自分が下であるという自覚。頭を地面にこすりつけることで本当に悪いと思っていることを示す。その上で謝罪の言葉を言う。この方法で俺は何度優子の怒りを回避したかわからない。

 頭を踏み抜かれるかとびくびくしていたら、意外にも優子は何もしなかった。

「頭突きのダメージしかないし。お兄ちゃんだけが悪くないのはわかってるし……もう、頭上げていいよ」

「え、あ、ありがとう……?」

 普段ならここで頭を踏みつけて「もう一声」とくるので拍子抜けした。なんだろう。何かいいことでもあったのだろうか。見ると優子は顔を真っ赤にしてはいるが、怒ってはいなさそうだった。むしろ、どこか嬉しそう……? いや、まさかな。

 何があったのか知らないが、頭突きの分明日の夕食は優子の好物を作るとしよう。この機嫌の良さがいつまで持続するかわからないしな……。

「それよりも。お兄ちゃんもしっかり異性に興味があって安心したよー」

「……はっ?」

「今までお兄ちゃん、なんだかんだいいながらエロ本の一冊も買ってないし。かといってそういうサイトを覗いてる様子もないし……ラプソディさんともかなり仲がいいから、ホモなんじゃないかなって」

「ホモちゃうわ!」

「……でも女性経験はないんでしょ?」

「どっ、どどど童貞ちゃうわ!!」

 嘘だけど、正直に言えず思わずどもる。職員棟でそういう行為に至りかけたが捨てることはできなかった。捨てるどころか新事実を入手したほどだ。

「ふ~ん……」

「あれ? 優子さん?」

 なぜだか急に優子の機嫌が大暴落。俺はどうしていいのか困った。何が原因で下がったのか……もしかして、俺と充也が"そういう関係"ではないからなのか? 優子くらいの年頃の女の子の中にはいわゆる腐った女子がいるらしいので、否定はできない。もし優子がそんな道に進んでいるのであれば、兄である俺が止めなければいけないだろう。

「いいか、優子……」

「何?」

「日本じゃ、同性愛は受け入れられないんだぞ……?」

 言い切った直後、俺の頭にハンマーで殴られたような衝撃が走った。その原因は優子のハイキック。こいつ、また、威力が上昇している!

「何言ってるの!? この馬鹿兄!」

 普段なら何か言い返すところだが声が出ない。体も動かない。視界が段々とかすんでいく。

 優子も何かおかしいと思ったのか近づいてきて――そこで俺の意識は闇へと落ちた。



 気がつくと、俺の部屋だった。

 何やら頭に痛みが走るが、何かあったんだろうか?

 既に時計の針は9時を回っていた。8時頃に風呂に入ろうと思って部屋を出たはずなんだけれど。それは全くの思い違いで部屋のベットで寝てしまったんだろうか。

 首を傾げていると部屋の戸がノックされた。

「入っていいぞー」

「あ。お兄ちゃん起きた!? 大丈夫? 痛いところとかない!?」

「そう興奮するなって。確かに頭は少し痛いけど、慣れないことしたからだろうし。……それよりも優子はどうしたんだ?」

「え? えーっと、いや。何でもないよ~……覚えてないなら、それでいっか」

 ん? 覚えてないって何のことだろうか?

 空白の1時間。この間に何かあったのだろうか……この感じだともっと前の話か? 俺は寝ていたはずだし。

「うん。特に何もないならいいや。おやすみー、お兄ちゃん」

「お、おう? おやすみ」

 さっさと言って優子は部屋の外へと駆け出す。何やら焦っていたようだったけど、何か相談でもあったんだろうか。だとしたら申し訳ないな。頭痛だと知って遠慮したんだろう。

「また今度相談に乗るか。……今は、小説書かないと」

 俺は勢いをつけてベットから立ち上がると再び机に向かう。

 少し寝たからか、今なら少しは書き進められそうだ

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