ついにバレる? いやバレてない?
この回の執筆者は川澄尚さんです。
魔の巣窟から脱出し廊下に出た俺たちは、ツンデレ先生こと嵐山先生の追跡を逃れるためそれぞれに別れて逃げた。
ちなみに、俺は四階へ、ラプソディは下の階へ逃げるために別れた。
激昂したツンデレ先生……もとい、嵐山先生の追跡は運悪くラプソディに向けられた。修羅のごとく階段をかけ降りていくツンデレ先生を四階から見下し、ラプソディの身を案じる。
ーー幸運をラプソディ、お前の骨は拾わねぇぜ!
マントを翻すように、四階へ踵を返す。
「じーっ」
「うぉッ!?」
返したときに、女の人の顔がそこにはあった。ビックリして少し後ずさる。
それはどうでもよくて、今一番考えなきゃいけないのは、今の動きをみられたこと。
「い、いつから、そこに?」
「えっとねぇ。『ーー幸運をラプソディ、お前の骨は拾わねぇぜ!』からかな」
「うわぁぁぁああ!!」
俺はあまりの恥ずかしさに両手で顔面を見せないようにしてうずくまる。
というか、穴があったらそこに埋まりたい。
「君って……」
そう続ける女の人を指の隙間からみる。
この学校の制服を着ているから女子生徒。
「君って、かっこいいね!」
「え……?」
笑顔でそういわれる。
かっこいいとか言われたことはないから気恥ずかしい。
「さっきの“ラプソディ”って二つ名だよね!?」
グサッ……。
「……ラプソディ……俺は狂詩曲を紡ぐ罪なやつ。と言っていそう」
グサグサ……。
「そして君!」
「は、はい!」
つい返事をしてしまう。
「君にも二つ名があると思うから教えてくれたまぇ!」
「俺はサイ……って、待てッ!!」
「ぉぉ……君は“サイ”なのか……!」
完全に勘違いされている。
実際にあいつが言いそうなことを平気で口にするのが俺にも刺さる。
「だから待てって!」
「なんですか? サイのつく人!」
それを聞いて再び心拍が増加して恥ずかしさが倍増してしまう。
それでも、言おうと表情を普通にして対応をする。
「俺はサイのつく人じゃない! 藍住という名前がちゃんとある!」
「わかりました」
おっ、意外に素直……。
「サイバーテロリストとお呼びします!」
「ぶふぉッ!?」
素直じゃなかった。と言うかなにこの子!?
「それじゃあ、サイバーテロリストさん」
そう言われて、黙っていられない。
ここは一度冷静になって話を進めよう。
そう。心はお釈迦様のように。
「すみません」
「何でしょうサイバーテロリストさん?」
「ぐ……ッ!」
耐えろ耐えるんだ俺ッ! まだバレてはいない!
「俺はサイバーテロリストではない。俺はサイバーテロ……」
「サイバーテロ……?」
どわぁッ! なにばらそうとしてるんだ!?
「俺は藍住良太。普通の男子高校生だ」
「そうなのですね。あ、紹介がまだでしたね。私、奇稲田琴美です。よろしくお願いします」
奇稲田琴美か。
ん? 奇稲田?
もしかして、充也のいっていたやつか?
「なぁ、ひとつ聞いていいか?」
「なんですかサイバーテロリストさん?」
「だから、藍住だって。まぁ、いいや、奇稲田さ。“追崎充也”って知ってる?」
「バカそうな人ですか?」
「そうそう!」
「その人なら知っています。電話番号もあります!」
ポケットから携帯を取り出して、追崎“じゅんや”と記された所にラプソディの電話番号が入っていた。
とりあえずは知り合いということは確認できた。
それと、今日呼び出ししたのも当本人ということも。
「奇稲田、すまんが名前が間違っているぞ」
「えぇッ! それは失礼なことでした! 換えます」
携帯をポチポチと操作して、また見せてくる。
「どうでしょう! これでしょう!」
どれのことなのかはわからないが、読み方はきっちりと間違っていた。
携帯画面には追崎“みちなり”と。
おしいとも言えないほど清々しい間違いだ。
ここでラプソディの名前を教えてもいいが、後々面白くなりそうなので勘違いはそのままにしておく。
「あ! 私、帰るのでまた会いましょう! えーっと、“サイバー藍住”さん」
「ちょっ! 俺は藍住だぁァああ!」
俺の声が奇稲田に届いたのかはわからない。
最後はとびきりの笑顔を見せて去っていった。
美少女と噂されていた通りのかわいさだが……。
なんなんだろう?
性格に難がある……って言うか。
不思議な子。天然?
というか、サイバーと名前を混ぜられたままだ!
と思っても、もう奇稲田の姿はなかった。
次あったときにしっかり覚えてもらおう。
そう言えば、中二乙とはバレてはいないよな……。
いや、あきらかにバレてるな。
はぁ、しくじった。みられたら不味い人にみられた気がする。
あと、また近いうちにまた会いそうで怖い。
そう思い。俺も四階を後にする。




