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新聞部(仮)【リレー小説】  作者: 「小説家になろう」LINEグループ
16/45

Sですか? Mですか? それともツンデレですか?

この回の執筆者は桜椛さんです。

「お前…………童貞だよな?」



 俺が放った言葉を聞いたラプソディは、まるで石膏像のように固まったかと思えば、尋常ないくらいの瞬きを繰り返し、口をすぼめていた。



「お、おいっ!お前嘘だろっ……!?」



「まっ、……待て待て待て待てっ!!」



「うるせえ! 待ても何もあるか!! くそう……っ! どうして、どうしてこんなことに…………どうしてそんな羨ましいことにっ!!」



 くっと唇を軽く噛んで目を瞑り頭を振る。こんな現実から少しでも文字通り目を反らしたかったからだ。



「俺がせっせと部活動に勤しんでいる時に、お前は、エロエロな養護教諭とお楽しみしてたと言うことかぁあああああああっ!!」



 想いが耐えきれなく言葉として、最後の方は叫びとして出していた。今すぐにでも跳びかかって軽く5、6回殴りたくなるほどだ。

 いっそのこと、その六パックをひとつづつ千枚通しで突いてやろうか。



「だから待てっつってんだろっ!? 違う違う、俺は別に何もされてない!どこまでも純粋で純潔で無垢の童貞だよ!!!!」



 俺の言葉を否定するために放った言葉は、見事に充也へと、自分自身へとブーメランとなって戻って行った。その目にはうっすらと涙が溜まっており、何だか俺までというか俺が悪いことをした気分になった。


 

「そ、そうか……お前はどこまでも臭く、どこまでも汚く、どこまでも腐りきった童貞なんだな。うんうん。俺はとても安心したぞ。仮にも友達が初体験を半ば強引的に縛りつけられながら、年上のましてや学校の先生などと言うことにならなくて俺は安心したぞ」


 

 いやしかしするとやはり、その空白の15分間は一体何をしていたのかと言う疑問へ自然と移るのだが……


 俺の思考を遮り、そこまで下劣ではないわ!という充也の叫びが聞こえたと思ったら、俺の顎は冷たく細い指によって持ちあげられた。

 


「あら、藍住君。この状況で安心できるとは随分肝が据わっているのね。あなたもこれからそういう目に遭うのよ。さぁ、今から三人で加害授業による実戯指道を行うわよ♪」



「漢字に悪意しか感じねえ!!」



「漢字と感じをかけるとは、お前実は余裕だろサイバーテロ予備軍」



 自身はまだ襲われる番ではないからか、幾らか余裕の茶々を入れる充也。



「うっせっ!余裕なんか、……あるかよっ!」



 そんな俺をおかまいなしに、妖しく卑しく愉しげに、ペロリと舌舐めずりをした宇佐田先生は、俺の上へ馬乗りになり、すりすりと鎖骨から、胸へかけて脇腹の辺りを人差し指でなぞっていく。

 まるで氷が肌を伝っているようだ。その感覚はとてもくすぐったく、なぞられた軌跡は婉麗で、蛇が這ったかのようであり、皮膚感覚が極限まで研ぎ澄まされているような気がした。


状況的に縛られてさえいなければ素直に喜べるものであったのかもしれない。事実、充也は顔だけをこちらへ向けて、とても羨ましそうに頬を赤らめて息も荒々しい。



 だがしかし待て、冷静になって考えるんだ。そう、いくら下腹部が熱くなろうと頭は冷静にだ。

 

 そうだ、かのイギリスの経済学者も言ったじゃないか。


 

 クールヘッドウォームバー



 と。いや、明らかに違うのは言うまでもないが、そこは突っ込まないで欲しい。バーだけに。



 …………どうやら本格的に思考が纏まらなくなってきている。そもそもこんな状況で冷静でいようと言う方が問題だろ。だから俺は至って普通だ。


 いやむしろこんなくだらないことを考えられるだけ余裕があるのかもしれんな。



「うふ。私ね、童貞君がとても好みなの。この身を受け入れることは、好みである童貞だけよ」



 まるで道化のように口の端を吊り上げ、まるで執心した亡者のように目を蕩けさせている先生は、体を前に傾けて、その唇を俺に近付けてくる。

 鼻を擽る馨しい匂い。近づく深紅の唇。今それが、俺の唇へとまさに吸い寄せられようとしていた。



 ま、まずいまずいまずい! これは本格的にまずい状況になっているぞ。

てかよぉ、今更だけど学校で噂になっているくらいならよお、他の教師に知れていても仕方ないよな?仕方ないはずだよ。

 寧ろ知っていてもおかしくない。だというのに何故何の対応策が取られていない!生徒が教師に襲われているなど由々しき事態だと言うのに、一体うちの教師は何をやっているのだ!!



 という俺の心の嘆きは虚しく、



 ジ・エンド――――



 という言葉が頭を過ぎった。

 俺は、せめて視覚情報だけはシャットダウンしようと瞼を強く瞑った。もうどうにでもなるしかない。南無三。



 と、覚悟を決めたと言えば体のいい諦観を決め込んだ俺は、迫り来るだろう感触が未だにこないという状況が、逆に不安になって恐る恐る目を開ける。

 すると同時、ガラッと大きな音と明るい光が部屋に差し込んでいた。



「涼! お前、またやっているのか!!」



 パチッという音と共に部屋の電気が点けられる。

 先ほどまでの先生の格好と状況によって俺の目は眩まされていたが、それとは違い、卓上ランプの淡い光とは違い、はっきりと部屋全体を照らす照明は俺の目を物理的に眩ませた。



 何度か瞬かせて目を慣らすと、俺の視界に入ってきたその人物と、先程の声が、ある人物へと結びついた。



 生徒指導の嵐山だ。

 一昨日、突如タイムセールスに現われたあの、生徒指導の嵐山だ。

 スーパーという場所に似つかわしくなく、鶏もも肉をかっさらって行ったあの、生徒指導の嵐山だ。



 あぁ、助かった。そう思うと同時何故?という疑問も浮かんでくる。



「こ、昂慈(こうじ)さん、……っ!」



 宇佐田先生は先ほどまでの挑発的で挑戦的で誘惑的な態度は一体何処へやら、引っ込み思案の子供のように分かりやすく一歩身を引き、何かを怖がるように分かりやすく声が掠れて上ずっていた。



 こうじ、さん……?


 

 宇佐田先生の態度もそうなのだが、やはりそれよりも聞き慣れない名前に疑問符を浮かべる俺であったが、明らかに嵐山に対して言っているため、きっとこいつの下の名前がそうなのだろうと分かった。



 嵐山昂慈(あらしやまこうじ)。生徒指導の教師でありながらタイムセールスに現われる奇人。



「ど、どうしてここにっ!?」



 狼狽える宇佐田先生。まるで責めるように迫る嵐山。



「どうしてじゃない! またお前こんなことをしてるのか。俺が何とか隠し通してやってるから今のところ問題は起きていないとはいえ、だからって生徒に手を出していいわけないだろうが!」



 生徒指導の先生が先生を指導していると言う光景を、ベッドに縛られながら見ている生徒という構図は、一体どれだけ世界が広いとは言え、過去現在未来のどれをとっても、ここだけしか存在しないだろう。



 今のセリフから察するに、どうもこの嵐山のせいか嵐山のおかげか、他の教師には知れ渡らずにいたらしい。そのせいで俺たちが今こんな状況になっていると言ってもいいのか。


 うーん……?いや待てよ?だとしたら不自然だぞ、何故止めに入った?止めに入るくらいならそもそも隠し通すなんて面倒なことをする必要はないはずだ。

 止めると言うからにはこの状況を、快くないと思っている証拠じゃないか。だというのにこの人はそれをしている。何故だ?何かしらの理由があるからとしか思えない。どういう理由だ?

 


 そこで俺は考える。状況の整理をし、本質を顕にさせよう。



 まず、放課後学校の空き教室で養護教諭である宇佐田涼先生が、男子生徒を見境なく大人げなく食っているという噂が広まっている。

 現在進行形の噂が広まっているということは、教師には誰一人として伝わっていないということ。(因みに食われた生徒も教師へ言っていない事になる。こんな分りやすく効果的で直接的な口封じは、他に無いからな)

 何故伝わっていないのか、その被害者は数知れずいただろう。だと言うのにだ。きっとそれは自身で言っていたように、この男、生徒指導である嵐山が隠し通していたからに他ならないだろう。

 一体どうやって隠し通していたのかという疑問はさて置き、隠し通すと言うからには、この噂が広まっては困ると言うことだ。ではなぜ困るのか、もし万が一広まってしまったその先には、何が待っているのか。



 宇佐田先生の処罰。



 言い方は物騒かもしれないが、こんな噂知れでも知れたらとんでもない騒ぎになるのは火を見るより明らかだ。きっと夕方のニュースに学校名と一緒に名前と年齢が出演することだろうさ。



 そうなっては困ると言うことか?嵐山が?何で?意味が分からない。

 そもそも何で嵐山はこのことを知っていたんだ?「また」という口ぶりから以前にも捕食現場に居合わせた事になるよな……その上で注意はしたが報告はしなかった。挙句隠し通すなどという共犯へ陥った。



 どこまでも不自然でどこまでも不思議でどこまでも不愉快だ。



「ごめんなさい……赦して下さい、昂慈さん……」



「俺に謝ってもしょうがないだろう。赦して欲しかったら、もう二度とこういうことはしないと誓うんだな」



 縋りつくように嵐山に赦しを乞う宇佐田先生、それを宥めるように諭す嵐山。


 先ほどから感じる違和感は何だろうか、明確に言葉として表せない、明確に認知できるほどの情報が足りない。



 顔に影を落とし項垂れていた宇佐田先生は、やがてこちらへゆっくりと向かってきて、俺と充也の拘束を解いた。



「ごめんなさいねあなたたち。今日はもう帰りなさい」



 自分からこんなことをしといて何を体のいいことを言っているんだと思ったが、嵐山の前ということもあって、反省したと言うこともあってここは素直に先生の言う通りにしようか。



 身なりを正した俺と充也は、何だかきまずい空気に居た堪れなくなり、早くこの場から立ち去ろうとした。



「あ、先生。嵐山先生、最後に一つだけ聞いてもいいですか?」



 嵐山は腕を組み、ぶっきらぼうに返事した。



「何だ、何を聞きたい」



 聞いていいのかどうなのか、本当は困った。聞いてしまったらいけないようなそんな気がした。だけど聞かずにはいられなかった。だから俺は勇気を振り絞って、喉から声を絞り出した。



「お二人の関係って、どういったものなのですか?」



「っ――!?」



 息を飲み目を見開く二人の姿がそこにはあった。文字通り息が合っている。だからこその疑問、だからこその質問だった。


 

 二人は互いの顔を見、数秒の間黙し、やがて観念したかのように肩を上げ息を吐いた。



「……それはね、……それは――」



「待て、俺が言う」



 口を開いた宇佐田先生を制し、嵐山が庇うように一歩前に踏み出た。



「俺たち実は、実は……」



 充也が唾を飲み込む音が聞こえた。そしてそれは俺も同様に動揺しており、追い打ちをかけるように信じられない言葉が嵐山から放たれた。



「俺達、結婚しているんだ」



 そういって嵐山は少し照れくさそうにしながら、宇佐田先生の肩を抱き寄せた。先生は突然の事に驚いたが、すぐに頬を朱に染めて、嵐山の胸に顔を埋めた。



「な、……えっ……?」



 声を漏らしたのは充也。信じられないと言う風に口をあんぐり開けている。

 俺はと言えば、やっぱりかという思いがあったが驚いていた。先ほどからの二人の雰囲気、そしてお互いのことを名前で呼び合う関係。今その事実を告げられてはっきりとそれを理解した。


 

「実はもう一年経つ」



「……?でも待ってください、噂では宇佐田先生に愛人はいないと聞きましたよ?それに、こうじさんの左手のどこをみても指輪が無いですよ?」



「おいコラ誰がこうじさんだ」



 嵐山の下の名前を初めて知った俺は、「こうじさん」という響きが面白くてついノリで呼んでみたのだが、鋭く突っ込まれてしまった。


 

「はぁ……確かに愛人はいねえよ。いたらこの俺が許さんからな。愛人ってのは結婚相手には当てはめて使わないからな。不純な関係のことを愛人と呼ぶ。言葉通り文字通りはとても綺麗なんだがな」



 じゃ、じゃあ俺らは、噂に見事左右されていたと言う訳か。

 確かに結婚相手がいればこれだけの色香を持つ人だ、大人しく生活して男を誘惑させないことに徹するのも大事と言う訳か。だとしたら、そのせいでついてしまったイメージが噂の通りというわけか。

 本当の性格を閉じ込めて、大人しく目立たず生きてきた。その鬱憤やストレスを、性行為と言えば聞こえのいい凌辱の限りを尽くして来たのだろうか。だとしたらそれは、酷く不憫で、酷く不便ではないか。俺としては不犯に徹して欲しかったがな……


 

「綺麗なものには刺があると言うが、綺麗なものに限ってその実態は醜悪で醜劣で醜穢なものなんだよ。まぁこんな奴を嫁に貰っていうことでもないのかもしれないけどな……」



 優しい愛しみ溢れる目で、自身の胸元で幸せそうな顔をしている宇佐田先生を見つめていた。



「そうなるとコージさん疑問がありますよね?指輪のこともそうですし、苗字だって……」



「だから誰がコージさんだこら!昂り慈しむで昂慈(こうじ)だ!!指輪が無いのも、苗字が違うのも、婚姻届を出していないからだ!」



 昂り慈しむのか……すげえ偉そうに可愛がるのか?…………それってつまり、…………




 俺は想像してしまった――


『ふんっ……別にお前のことなんざ好きじゃねーよ。ただ、俺のものとして相応しいから傍に置いてやってるだけだっ!!』

 

 という嵐山の姿を――――




「ツンデレってことかっ!?!?」



「何がどうなってそうなった!!」



 くわっと大きく口を開けて否定した嵐山昂慈(ツンデレ)さん。



「人の名前をキラキラネームみたいにすんなっ!!」



 重ねて怒られた俺は、これ以上からかったら本格的に生徒指導の対象になりそうだったので、自重しておく。俺としてはもっと楽しみたかったのだが、流石にもうやめておこう。


 にしてもこのおっさん、ツンデレと言う意味も、キラキラネームと言う意味も理解しているとは……侮れぬな、嵐山昂慈(ツンデレ)



「って、婚姻届出してないんですか?」



 大きく息を吐きながら頭をかく嵐山。めんどくさそうに気怠げに返事をした。



「そうだよ。りょ……宇佐田先生が宇佐田という苗字を手放したくないって言ったからな。俺も嫌だと言われれば別に強要するようなことはしたくない」



「ツン……」



「あぁん?」



 やめようと決めたばかりだがやはりからかいたくなるのは人としての性だと決めつけてしまおう。しかし眉間にしわを寄せられて睨みつけられてしまったら言葉を濁らせるしかないだろう。

 

 だから俺は気を取り直して口を開いた。



「昂っ……ごめんなさいごめんなさい! お願いですからその指をポキポキするのをやめて下さい!?」



 駄目だ、どんなにやめようと思ってもこの状況が面白すぎてやめられねえ。だから俺は性懲りもなくこんなことを言ったのだ。



「別に、言いにくいのでしたら先ほどみたいに先生のことを名前で呼んでも宜しいのですよ?」



 その一言が完全に嵐山の堪忍袋の緒を切る決定打になったらしい。

 『切る』なのに『打』というのも、おかしな話だが。いや、『打』で『切った』のではなく、『打』によって『切られた』のだから間違いではないのか。

 いや~日本語と言うのは使い方が難しいな~だなんて余裕ぶっこいてる暇はないようだ。

 嵐山は今度こそ赦さんとばかりに大声を張り上げ、こっちへ迫ってきた。



「いいかげんにせいこらっー!! 大人をからかうんじゃねえガキが!!」



 激昂である。後に慈恵が待っていることを願う限りだが、ツンデレは面倒くさい。特に男のツンデレ何ぞ男からしたら別にというか全然嬉しくないから、ここは――――



「逃げるぞラプソディ!!」



「お!?、おう!!」



 脱兎の如く身を翻した俺は、追崎充也(おいざきみちや)こと混沌のラプソディと共に、魔の巣窟から脱出したのであった。





 後日、改めて二人纏めて呼び出しをくらってこっぴどく怒られたのは、また別のお話である。

 語る気もない、つまらない話だ。

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