職員棟三階の狂気
今回の執筆者は鈴風さんです。
一階では二階堂先生、二階では高井良先生と戸村田先生の二人と遭遇した。
いずれの教師も校内で囁かれる噂通りの変人で、俺のこの職員棟調査に対するやる気を昂らせてくれる。
次はどんな奇天烈教師と出会えるのか、次などんな変人と出会えるのか、という思いが頭の中で駆け巡った。
だが、
「…………」
「……どうしたの、藍住くん?」
今俺の目の前に広がるのは、おっぱいだ。
男子には持つことを禁じられ対象に女性だけが持つのを許された、二つのお山さんだ。
しかも俺が見ているのをそこらにあるような平凡な山じゃ無い。
例えるならあれだ、富士山とかエベレストとかの最高峰の山が妥当な代物だ。
それぐらいに、今視界に目一杯映り込んでいるそれは豊満なものだった。
はてさて俺がどうしてこんな状況に陥ったのか、それはつい数分前に起きた出来事が原因だったりする。
***
職員棟二階の廊下で説教されていた高井良先生と戸村田先生。
その二人がどうしても気になってしまうため、足早に二階の調査を終えて三階へ繋がる階段を昇った。
「はぁ、結構ネタは揃ってるよな職員棟。後はどれだけネタを揃えられるか、そして俺の文才能力がいかほどかにかかってるな」
小説は愚か、感想文みたいなやつも去年以来全く書いてない。
その時だって相当ダメダメな文だったろう、よくは覚えていないが。
そんな俺が新聞部(仮)に巻き込まれ、何故か職員棟視点の小説を書く羽目に……。
もっとマシな部活動だってあっただろうに、何でこんな将来不安定なとこに関わったんだろうな。
こんな自問はよくしている、自分でもはっきりとは受け入れられていないからだ。
だけどその自問に対して俺はいつも「楽しそうだから」なんて理由で自答していた。
まぁ部活動なんて楽しくてナンボだから構わないんだけど、俺はいつあんな変人揃いの集まりを楽しく感じるようになったんだろうか。
委員長も部長も本の虫も、三人ともユニークなやつだ。
そんな奴らとだから楽しいのかもしれない。
例え何部であろうとも、あの面子だから満足感に浸れているのだろうか。
「ま、あの部活に入れて良かったのかもね。ラプソディみたいな普通すぎる部活じゃ、俺は保ちそうに無いからな」
そんな感じで俺は、心の中で一人あの部活の存在について考えていた。
調査だというのに、特に辺りを見渡しもせずにひたすら歩いていた。
だから気付かなかったのだ。
「……も一人追加♪」
そんな、今まさに通り過ぎようとした教室から聞こえる怪しい声と忍び寄る手に。
***
「……んで今に至る、と」
「何か言ったかしら?」
「い、いえ何も」
「そう♪」
俺がここに至る経緯を一人で走馬灯──思い返していると、目の前に居座る彼女はそう言って長い黒髪を手で静かに払った。
改めて周りを見渡すも、四方八方全てが闇。
遮光カーテンにより外から入り込む光の一切が遮断され、部屋の灯りも当然点けられていない。
唯一俺とその彼女を照らすのは、横の机に置かれた卓上ランプだけ。
俺の周囲を漂うのは大人な女性からよく匂う、あのフレグランスみたいな香り。
そしてそんな俺の目の前にいるのは、この学校の保健教諭である宇佐田涼先生である。
学校に蔓延る噂の一つに、彼女が関係するものがあった。
それが『職員棟三階にあるベッド付きの空き教室で、宇佐田先生は男子生徒を喰っている』というものだ。
俺が今いるのは当然職員棟で当然二階から一階分上がってきたわけだから三階、そして職員棟の三、四階には使用されている教室が無いため自動的にここは空き教室となる。
完全に噂と一致する現場だった。
宇佐田先生はバツイチ──というわけでは無いのだが、今の大胆な行動からは考えられないほど私生活では大人しい性格らしい。
その大人しい性格のせいで愛人を作ることが出来ず、しかも年下ならその性格は解けると来た。
それのせいでこうやって、暗い空き教室で俺のような男子生徒は餌食にされているのだ。
「あの、先生……そいえばさっき『も一人追加』って言ってましたよね? ならもう一人いるってことですかね?」
俺は、どうせなら犠牲者は多い方がいい、と悪い思考を回して彼女に尋ねた。
「えぇ、いるわよ。今日はまさか、三人でやることになるなんてね♪」
「………………」
思わず背筋が凍った。
よくよく考えてみたらそゆことになるのか、三人同時プレイに。
それは正直やだな、だってもう一人のアレも視界に入れなきゃならんわけだから。
どうせなら一対一と一対一にして欲しかった……っていかんいかん、思考が完全にヒートアップし過ぎた。シャレにならない。
「さぁ入ってきて!」
俺が一人で爆発していると、目の前で胸元をはだけさせている保健教師がそう言った。
暗くてよく見えなかったが、俺の横にも遮光では無いが普通のカーテンがかかっている。
きっとそのカーテンの向こうにもう一人の犠牲者がいるのだろう、気の毒にな。まぁ俺もなんだが。
そしてガラガラという音が鳴り、俺の横──もう一つのベッドの上にもう一人の犠牲者は姿を現した。
「…………よう」
「…………ラプソディ……」
そこにいたのは、上着を剥ぎ取られた様子で肉体を露わにした混沌のラプソディだった。
今まで培ってきた筋肉がここぞとばかりに露出されている。腹筋が六パックに割れてやがるコイツ……。
上着は後ろの方に脱がされており、ズボンもベルトが外されている状態で何とか履いている。
だが何故ちゃんと履き直さないのか、それは今奴は両手を後ろで拘束されているからだ。
どうやら連れて来られると抵抗されないようにとロープで縛られてしまうらしい。
現に俺がそうだからな。
そんな感じで現状最悪な事が分かった。
そして冷や汗が尋常じゃなくなってきた時、俺の頭に一つの疑問が浮かんだ。
「そういや充也、お前何でここにいんだよ」
「んあ?」
奇稲田……という女子生徒に呼ばれて職員棟に来て、でもその用事はちょっとした事でそのあとすぐに職員棟を後にしたはずだ。
あれからわざわざ三階に行ったとも、この何も無いこの階からは考えられない。
そう思い俺はラプソディに質問をした。
そしてラプソディは、疲れた様子で一度大きな溜め息を吐いてから口を開く。
「あぁ、奇稲田との件は話したよな? んでその後普通に教室に戻ろうとした。だけど急に上の階かデカイ物音と人の声がしたんだ」
「上の階? その時はまだ高良井先生と戸村田先生が絵をそこら中に設置してたはずだな……」
俺が考えを呟くも、それに口を挟んでも来ずにラプソディは続けた。
「それで俺は急いで二階へと向かった。そして適当に辺りを駆け回ってみた……。だが二階には誰もいなかった」
こいつ、もしかして絵の存在に気付いて無かったのか?
流石に同じところを走ってる感覚には陥るはずだが……。
「だから俺は三階へと昇った。すると三階の廊下に人の声が響いたんだ。それは女性の声で、とても苦しそうな声だった……いや、ちょっと快楽を味わっているような声でもあったな今考えれば。それで、その声が聞こえた教室に飛び込んだ」
「そしたらその中に宇佐田がいた、と」
「しかも一人でしてる最中だったけどな」
「おっふ……」
こいつ、なんて羨ましい体験を……ゲフンゲフン、なんてショッキングな場面に出くわしてしまったんだ。可哀想に。
だがこれで大体は把握出来た。
こいつが捕らえられた頃に俺は二階堂先生と出会い、そして喰われそうになった頃俺と引き摺り込まれた……そんな感じだろう。
二階堂先生と会っていたタイミングでラプソディが一階や二階にいることは恐らくあり得ないからな。
「……しっかし厄介な事に巻き込まれちまったなぁ」
「そうだな、何でお前まで来るとは思ってもいなかったが」
ラプソディはいいとしても俺はダメだ、今は名目上は部活動の最中なのだ。
そんな時にこんな事していることが新聞部(仮)のメンバーにバレたら、多分俺は即刻退部……は当然無いがしばらく部活動に参加出来ないだろうな。まぁその時は新聞部(仮)自体もキツくなるがな。
というかちょっと待て。
ラプソディが喰われそうになってから、俺がここに来るまでどれだけ時間があった?
だいたい一五分ぐらいだ。
その間ラプソディはこの性欲に満ちた宇佐田先生に襲われずに済んでいたのか? いや服は剥がされてるけども。
「なぁ、ラプソディ……」
俺は訊いておかなければいけないと思った。
だってラプソディ──充也はこんなやつだけど、俺の友人なんだ。
その友人に一大事があったら、それはもう友人として俺は失格。
だから、訊くのを少し戸惑ったがそれでも俺は、口に溜まった生唾を飲み下して言った。
「お前…………童貞だよな?」
この時のラプソディの顔が、最近全く見ないぐらいに固まっていたのを俺は覚えてる。




