「部活動」となるために……
今回の執筆者はれみにゃさんです。
放課後。
今までどおり帰路につこうとして――気づく。
そういや、俺は昨日から「新聞部(仮)」なるものへと入部していたのだった。
……めんどくせ。
確かに? あの時は興味もあったし面白そうフラグが俺の脳内に立ってたことは事実ではあるけどさ……目が覚めたらもうそんな感情は消えかかっていたとでも言おうか。
そうは言っても、もう入ってしまったものは仕方がない。すぐに辞めるのも印象悪くなるだけだろうし、奴らの目的が達成されたら俺の役目は終わりだ。そのくらいは付き合ってやるのが入部届けに名を書いた者の責任だろう。
あまり軽やかでない足取りで、俺は例の部室へと向かった。
……しっかし、どうしてあんな陰気くさいところにあるもんかね。生徒会の許可をとっていないってのは分かるにしろ、それなら放課後の空き教室なんざいくらでもあるはずだ。みすみす自分たちからあんあ場所に本拠を構えるとは、これはたいした変人の集まりなもんだ……俺は違うけどな!
そうして、ようやく「新聞部(仮)」と書かれた紙が張られている扉へとたどり着く。
……「この名称は自分たちだけで使う」って言ってたよなあいつら!? なに考えてんだ? いや、この場所なら確かに誰の目にもつかないかもしれないが。
俺はドアノブへと手をかける。教室はスライド式の扉なのだが、この誰にも使われていなかったが故に変人に拠点にされているかわいそうな部屋に限っては、ドアノブ式なのだ。
ガチリ。ドアを開け、中を確認する。
まず最初に見えたのは、泡を吹いてブッ倒れている川見先輩――机には白い粉末――と例によって人を殺せそうなほどぶ厚い本を読み漁っている菅原。
俺は机に散らばっている白い粉を、ペロリと口にする。
これは――――青酸カリ!?
「川見先輩、そんな演技で驚くと思ってました?」
こいつらの実態が知れた以上、俺が死体演技でビビるわけはない。
「……うーん、けっこうよくできた、と思うけどね」
「確かに第三者がご入場なさればその途端一一〇モノでしょうね」
「だろう? 僕の演技力も備わってきたかな! ……相変わらず、美乃ちゃんには顔色一つ変えてもらえないけど」
それはただ本に熱中して見てないだけだとは思うが。
「そうそう、今日からは生徒会からの部の公認を目指す、って朝倉ちゃんが。新入り君はいい案とかあるかい?」
「俺は藍住良太といいます」
「あ、すまん。相生く」
「あいずみ、です」
「藍住君ね、了解した。何か案はあるかい?」
案、か。うちの生徒会が部活新設に厳しいのは十分心得ている。如何に真面目な部活にみせ、審議を通せるか――が問題だな。
とは言え、新聞部は既に存在しているから全く同じことはできない。ネットを使って記事を公開するにしろ、それが生徒の目に留まらなければ何も意味はない。学校のHPのコーナーを借りるというのが最も効果的だろうが、それにはやはり学校の許可がいる。この高校では生徒会の力が絶大なため、そういった行為は部活動として認められた後でしか許されないのだ。
やはり、素直に「校内記事部」として申請する方が良いのか? 新聞部との重複を理由に却下される可能性も否めなくはあるが……。
「やっぱり、難しいよね。僕もずっと考えてはいるんだけどさ、なかなか思いつかなくて……」
俺はふと、ある存在を思い出す。
「……す、菅原? お前は何か、案はあるか?」
重そうな頭をゆったりと持ち上げ、瞳だけで興味のなさを語るまなざしを向けられた。
「特に。そもそもあるのなら言っている」
実に正論なこと! いやあ、そりゃそうですよねー。
「とりあえず、朝倉が来るのを待ちましょう。数は多いほど捗りますし」
「そうだね、そうしようか」
俺たちは奥に重ねてあるパイプ椅子を広げ、今日もお忙しいらしい委員長様の帰還をゆっくりと待つことにした。
***
「ふぇー、疲れたあ」
バラついた髪を整えながら朝倉が部室へと入ってきたのは、およそ三十分後のことだった。
これほどまでに時間を長く感じたのは久しぶりだ。菅原のページをめくる音が規則的に聞こえてくるのはまだよしとしても、一向に誰も喋らないあの空気は耐えられるものではない。年も趣味も異なる先輩に何を話せというのだろうか。一口に四方山話とは言っても関心の差はあるだろうし。この死体の演技好きの変人に近頃の話題を振ったところで会話が不自然に途切れる気しかしない。
「……遅くね?」
「申し訳ないねえ、私はこれでも学級委員長なもので……と、お揃いでどうかしたの? 私が居なくても議論くらいできるでしょ?」
沈黙。
そもそもこのメンバーで「議論する」ことが難しい。実質、二人のようなものだったし。
「部の審査を通るために、何か具体的な策はないか?」
「うーん、如何に真面目にみせるかってことよね」
おや、変人と意思が一致したり。いとおかし。
「普通に校内記事をネットで書くだけじゃ、何も効果はない。そこで学校のHPにコーナーナーを作ってもらうのはどうかと思うんだが、その内容を何にするのか――それこそ校内記事でもいいかもしれない――けど、新聞部と重複してるって見なされないかと思ってな」
「あら、地味な藍住君がそこまで考えているとは心外ね」
「そう見えるならそれに越したことはねえな。目立ちたくないし」
そうそう、できるだけハイブリットに生きるのが俺の最近の目標だ。恋愛なんて無駄なものに時間を割くほど燃費は悪くない――(キリッ)。傍から見ればただ妬んでるようにしか見えんかもしれないが。
「そうね、じゃあ記事以外――――日記?」
日記?
「日記ね――なるほど、わりかし良い案かもしれないな」
記事、とはいえないであろう「日記」。
毎日欠かさず、その日の出来事や思いを綴っていく――悪くないかもしれない。
「……それなら、『校舎視点』での日記とか、どうかな。それなら生徒会も感心を持ってくれるかもしれないし」
なるほどな。やはり、人数がいたほうが効率の良い議論が交わされているようだ。
「『校舎視点』の日記かあ。面白そうですね! ……でもそれって、客観的に書く記事と何か違うんですか?」
「そう言われるとね……。校舎視点も僕たち視点も、結局は変わらないかも……」
「口調」
意外な方向から割り込んだ声に、俺は少し驚いた。
その方向を見ると――本をパタリ、と閉じた菅原が上目使いでこちらを見つめている。
「棟ごとに口調を変えて喋らせてみる。一人称小説のように」
そうか。この学校には四つの棟が存在する。普通棟、特別棟、部活棟、職員棟、の四つ。
語り口調を変えれば差別化もできる。さらに言えば、書き手によって「棟の性格」を描き出すこともできる。
「菅原さん、ナイスアイデア! 面白そうになってきたわね――――」
***
白熱した議論はその後も続き、結局「日記」を書くというおおまかな部の目標は決まった。
そのほかに決まったものといえば――『四人でどの棟を担当するか決めて、小説の形式で日記を面白可笑しく書く』といったようなものだ。
如何に面白く、またオリジナリティのある活動に見せられるかが、審査の合否の分かれ道となる。……正直、俺はあまり小説などを書きたいわけではないが――「新聞部(仮)」のいちメンバーとして、やってのける必要があるようだ。
期間は一週間。俺は職員の拠点である『職員棟』になりきって、一本の原稿を仕上げるノルマを貰った。




