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新聞部(仮)【リレー小説】  作者: 「小説家になろう」LINEグループ
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朝倉の心当たり

今回の執筆者は鈴風さんです。

優子に慰められたことで兄としての尊厳を失くしかけた俺は、もう今日は色々とあり過ぎて疲労困憊。


 素直に寝ることにする。

 どうやらまだ観たい番組があるようで、優子はリビングに残ると言う。

 夜更かしはするなよ、とだけ注意をして俺はリビングを後にした。


「あー、今日の俺お疲れ──さんっ!」


 お疲れ『さんっ!』のとこでベッドへとダイブし、もぞもぞと掛け布団へと潜り込んで俺はそのまま眠りに身を委ねた……。


 ***


「今日の俺おはよ──さんっ!」


 おはよー『さんっ!』のタイミングで、俺はバネを利用してベッドから飛び降りた。

 体操選手よろしく綺麗に着地した俺は、折った膝を伸ばして手を広げて周りから拍手喝采を浴びる振りをする。

 さて、心地良い朝だ。


「ふぅ、気持ち良いぜ」


 開きっぱになっていたカーテンから差し込む陽光を体に浴びながら、心底俺はそう思う。

 植物が光合成する理由が何と無く分かるぜ……。


 そしていい目覚めにご機嫌な俺は、少しばかり目覚ましより早く起きてしまったため時計のアラームを解除。

 それから朝食の準備と弁当の用意のため、そそくさとリビングへと向かった。




「おはっそ〜ん♪」


「おはっそ〜ん──って何言わせるか!」


 『ナイスノリツッコミ♪』と謎の挨拶をかましてきた我が妹・優子はそう言うと、早く朝食の準備をと催促してきた。

 ったく、しょうがない妹様だなぁ。


「待ってろ、すぐに準備するから」


「は〜い、出来たら呼んでねー!」


 俺の言葉にそう優子はソファに座りながら返事をし、手に持っていた新聞を広げてた。

 そして今日の優子の髪型は、どうやらポニーテールのようだ。

 何故毎日毎日髪型を変えるのか、やはりそこには血の繋がりがあるのか俺に似たせいだと思う。


「待つんだ妹よ、今日の朝食を一体どうする気だ注文も無しに?」


 俺も何だか朝食一つで世界が変わる、とか思っちゃってるからね。

 そこら辺が、妹のイメチェンと関係しているのかもしれないな。


「え、別に何でもいいよお兄ちゃんの作ったものなら〜」


 妹はいきなり困ったなぁとでも言わんばかりの表情で、そう俺に言ってくる。

 昨日は俺の独断専行で朝食を決めてしまったから、今日は優子の注文通りに作ってやろうと思ったんだがなぁ。


「……ホントに良いのか?」


「ホントに良いよ、それよりも早く食べたいな朝ごはん♪」


 ふむ、まぁ妹本人がそこまでいうのなら良いだろう。

 妹の意見を尊重する、俺のしようとした事とは意図がズレているが本質は変わっていない。


「ん、分かったよ。なら出来るまで暇つぶしてな」


「うん、りょーかい!」


 そうやり取りを済ませると、俺はキッチンへと向かう。

 ふむ……今日は、何だか直感的に今思いついたハムエッグと味噌汁、そして昨日の残りの野菜で行こう。インスピレーションは重んじるべきだ。


 そして俺は、妹のため自分のためにと料理に取り掛かった。


 ***


「──ご馳走様でした」


「ごちになりました〜」


 俺が礼儀良く挨拶する横で優子はそんな腑抜けた挨拶をする。

 ……まぁ、だからと言ってどうと言うことは無いが。


 そして朝食を済ませた俺と優子は、学校へと向かうために各自最後の支度へと取り掛かる。

 まぁ俺は特にすることも無いが、優子は女子だからという理由なのか部屋に戻って支度をしていた。


「…………」


 誰もいないリビング、そこで俺は朝食を摂った時と同じ席に腰掛けて窓越しに外を眺めていた。

スズメが二羽隣の家の塀に乗っている。

 二羽は仲良さそうにチュンチュンと鳴いて、塀の上を跳ねながら歩いていた。

 とても心和ませるような光景だな、思わずほっこりしちまう……。


「お?」


 だがその二羽の平穏な時も永遠では無かったようで、遠くから来たもう一羽のせいで二羽は別々の方へ飛んで行ってしまった。

 あぁ……、もっとチュンチュンし合っていたかっただろうに、可哀想だ。

 何故来たんだもう一羽、お前はうちの塀にでも止まっていれば良いんだ。


 だけど深く考えてみると、そもそも俺の思い違いだったのかもしれない。

 別々に飛んで行くような仲の二羽が、楽しくチュンチュンしているわけが無い。

 つまりあのチュンチュンは、『ここは俺の縄張りなんだチュンチュン』『何言ってんだ俺の陣地だチュンチュン』と言う会話なのかもしれない本当は。

 そしてその中に飛んで行ったもう一羽。


『争いは良く無いチュンチュンよ!』


 おぉ、そうするとあいつはホントは良いやつなのか。

 なのに俺はあの二羽を勝手に仲が良いなどと思い込んでしまったばっかりに、もう一羽を悪者と決めつけてしまった。

 俺は何て奴なんだよ、正義の味方はそこにいたんじゃねえか……!



「くそぅ……ッ‼︎」


「何が〜?」



 あ、見られてた。


 俺は適当に言い訳をしてその場をやり過ごすことにする。

 流石にスズメ相手に感情移入し過ぎた、だなんて言えるわけが無い。

 そして準備の出来たらしい優子と共に俺は玄関へと向かう。


 俺は決して、チュンチュンの事は忘れないからな。これからもスズメの平和を守ってくれ……。


 ***


 はてさて、今日は充也が来なかったので優子と二人っきりの通学となる。

 ここ最近はずっと充也も一緒にいただけに、二人だけと言うのは何だか新鮮な反面緊張する。


 いやまぁ相手は妹なんだ、そこまで張ることは無いが。

 ……無いが、やはり優子も年頃の女子としてちゃんと成長している。

 身長とか食欲とかとかね。

 未だに成長しない胸は敢えて触れない、心の中でも触れてしまうのは優子に悪い気がしたからだ。

 と考えてしまってる辺り、やはり俺も優子の胸の成長が止まってることを気にしてるのかもしれない。


「ん、お兄ちゃんどうしたの?」


 あまりにも胸のことを考え過ぎて思わず優子の胸を凝視してしまっていた。

 胸のことは忘れろ、妹に悟られたら終わりだ。兄として一人の男として……!



「え、別になんでもぱいよ」



 俺は下手な作り笑顔をしながら首を振って、そう優子の言葉に否定を示す。

 最近は取り繕うと言うことをしてないせいか、声もちょっと上擦ってしまった。

 だがまぁいい、言葉さえ伝わっていれば。


「…………お兄ちゃん、今なんて言った?」


「いや、だから何でもぱいってば」


 優子が怪しんで来ている、これはマズイと察し俺は汗を浮かべながらもハッキリと否定する。



「お兄ちゃん、何かぱいぱい言ってない……?」



「ぱいぱい、そんなこと決してぱい!」



『無い無い、そんなこと決して無い!』と俺はキッパリとしっかりと否定してやる。

 てか、ぱいってなんだよ。それじゃあ胸の念にでも取り憑かれてるみたいじゃねぇ……か。



 ──『え、別になんでもぱいよ』


 え?



 ──『いや、だから何でもぱいってば』


 え……?




 ──『ぱいぱい、そんなこと決してぱい!』






「…………お兄ちゃん、変態さんだね?」



「忘れてくれぇぇぇぇえ──ッ‼︎‼︎」



 俺は学校まで全力疾走しました。



 ***


「いつもより早く学校に着いたぞー、やったー」


 そう正門を抜けて力無く言って、脇にある園芸部が手入れしている花壇に俺は腰掛けた。


 あー、ダメだ。家で絶対気まずいはこれ。

 何か帰るの憂鬱になってきたわぁ……、そう頭を抱えながら俺は一人考えている。

 すると今日も正門にはお馴染みの声が響いていた。



「おい! トコトコ歩くなキビキビ歩け!」



 そう、嵐山だ。


 ただでさえ優子の事で頭がいっぱいだと言うのに、何故嵐山のドスの効いた声なんて聞かなきゃならないんだ……。


「あ」


 そんな声を聞いてか、俺は昨日の戦場(タイムセール)での一件を思い出してしまった。

 俺の獲物を横から軽々と盗み取っていった、今後最大の敵になり兼ねない最大最強のあいつ。


 そう、嵐山だ。


 力をつけろとか何とか言ってきたあいつは、今思えば本当に嵐山だったのだろうか。

 生徒指導部の権力を使い、生徒に体罰と等しい事を散々やらかしてきた鬼なのだ嵐山は。

 その嵐山が、たかだかスーパーマーケットのタイムセールに顔を現すのか……?

 いやまぁ嵐山の家庭がどうなってるのかは知らないが、嵐山ともあろう奴がタイムセールに来るとは思えない。


 くそ……、めっちゃ気になってきた。


 溜まった生唾を飲み下すと俺は立ち上がり、正門前に仁王立ちしている嵐山の元へ向かう。


(他のやつらが歩いてるし、後ろからこっそり話聞くか……)


 俺はそう決め、邪魔にならないようにそっと忍び寄ってから呼ぶために肩を触ろうとする。

 だが、


「はぁぁぁあッ‼︎‼︎」


「ぐへぇあッ‼︎」


 いきなり伸ばした腕を掴まれたかと思ったら、そのまま手首を返されて反対の手で俺の肩を思いっきり地面に向かって叩きつけてきた。

 俺は無様に地べたに体を強打する。

 いってぇ……、教師としてあり得ねぇだろこいつ……!


「ちょっとあらちゃん、痛いじゃんかYO!」


「誰があらちゃんだ」


 くそ、今の事を水に流してやろうと思って気軽に接してやったら何だよその態度は。

 まぁ学校では実質初対面だから、そんな相手にいきなり愛称(?)で呼ばれたらまぁそんな反応するだろうけども。


 俺はうつ伏せたままの体を起こし、そして嵐山と視線を合わせようとする……が、嵐山は充也よりも大きいのか視線が合わせられなかった。

 だから身長は185cm前後ぐらいあるな多分。


「それで、何しに来た。こんなとこでうろちょろして無いで教室に行け」


「い、いえその……ちょっとあらちゃん先生にお話がありまして──」


「だからあらちゃんを止めろ、侮辱してるようにしか聞こえん」


 おっと、何だか俺の中では『嵐山=あらちゃん』という公式が出来上がってしまっているようだ。

 普通に呼ぼうとしたら、ただ先生付けただけになっちゃった。


「まぁ二人称何てなんでもいいじゃないですか、それよりもお話が──」


「あらちゃんを改める(まで)話は聞かん。それに今は登校中だ、登校は自分の教室に入る迄だ。寄り道せずに真っ直ぐ教室迄行け」


 くっ、そんなに話したく無いのかよ生徒とは……。

 とことん生徒からは嫌われても良い姿勢、って感じだなあらちゃんは。まぁ、そこまで仕事熱心なのかもな。


 俺は何も言わずに、軽く頭だけ下げてその場から去った。


 昨日のことを聞きたかったんだがな、まぁ今じゃなんにしろ話聞いてくれそうに無いからな。仕方ない、また改めるとするか……。



 ────これが、長きに渡って戦っていく事となる好敵手(ライバル)・嵐山との初めてのコンタクトだった。
















「────って事があったんだよ今日」


 俺と朝倉、そして部長の三人は各自の昼飯を箸で突きながら昼食を摂っていた。


「それで、なんで嵐山先生にコンタクト取ったの?」


 部長は特に興味無し、と言った感じで無心で食事に勤しんでいる。

 ……まぁ、食べてるもんが虚しいけどな。


「ん、あぁいや。特にそれほどの理由があるわけじゃ無いんだけど──」


 俺は、まぁ話のネタぐらいにはなりそうだなぁ、と思って言うことにした。

 嵐山のイメージを少し壊してしまうかもしれないが、朝の事をチャラにするって事で許して下さいあらちゃん。



「いやぁ、昨日帰りに行ったスーパーのタイムセールに嵐山がいてさ、でもこんなとこに嵐山来るのかなぁと思ったから確認しようと──」




「……そう、それよ! 藍住君もなのねっ!」




 朝倉は俺の言葉に大声でそう反応し、持っていた箸を机の上に叩きつける。

 え、なんだ?

 いきなり何なんだ……?


「ん、何の話だ?」


 俺は恐る恐る訊いてみる。

 すると朝倉は、キラッキラした笑顔で口を開いた。




「心当たりよ心当たり! 私の昨日言った"心当たり"って言うのは、嵐山先生のその事っ! 藍住君も見てたのね嵐山先生のあの姿を!」




「………………マ、マジかよ」




 朝倉のその言葉を聞いた俺と、隣でそれを一緒に聞いていた部長は同時に食事の手を止め、口をあんぐりと開いている事しか出来なかった。

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