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新聞部(仮)【リレー小説】  作者: 「小説家になろう」LINEグループ
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今日も朝が来る

この回の執筆者は立待月です。

 俺は小鳥のさえずりと共に目を覚ました。

 七時にセットした目覚まし時計の世話になることなく、余裕のある朝を迎える。

 ゆっくりとベットから出てカーテンを開くと、思わず目をつぶってしまった。

 眩しい陽光が畳八枚分の広さの部屋を隅々まで照らす。

 新たなる一日の始まりを実感しながら、学校指定の制服に着替えた。


 身支度を済ませ二階の部屋からリビングへ降りると、洗顔もそこそこに台所へ向かう。

 そして逡巡する。

 今日の朝食は和食にするか洋食にするか。

 昨日タイマーセットしていた白米は既に炊き上がっており、立ち上る白い湯気を見るだけで腹が減ってくる。納豆を混ぜて食べるもよし、漬け物や海苔と一緒に食べるもよし、キラキラと輝く白い粒一つ一つが俺を呼んでいる気がする。

 それに対し六枚入りの食パンは常に用意されている。トースターで焼き上げ、その上にバターを乗せる。少しずつ溶け始めたバターとこんがり焼き上がったトーストが絶妙にマッチし、かぐわしい香りを放つ。

 どちらも想像するだけでよだれが出てくる。

 そんなことを考えていると、誰かが階段を降りてくる音が聞こえた。

 “誰か”と言ってもこの家には二人しか住んでいないため、改めて確認しなくても足音の主は分かる。


「おはよーう」


 朝の挨拶として最も妥当な「おはよう」が聞こえたことに耳を疑いながら、もう一人の家族に顔を向ける。


「おはよう、優子ゆうこ。今日の挨拶はスタンダードなんだな」


「あれ? お兄ちゃんスタンダード嫌いだった?」


 首元に赤いリボンが装飾された黒い制服姿の妹に対し、俺は首を横に振って否定する。

 嫌いというわけではない。ただ普段はまともな挨拶をしないくせに、たまにされると調子が狂うのだ。

 藍住あいずみ優子。

 俺の三歳下の妹で現在は中学二年生。

 妹としての優子しか知らないためいい加減なイメージしかないのだが、学校では成績が良く部活動でもチームの中心となって部員を引っ張っているらしい。

 肩ほどまで伸びた黒髪をゴムで二つに結んでいる妹を見やる。


「今日はツインテールなのか」


 言った瞬間、妹の動きがピタッと止まる。

 横目でじろりと見られ、はあとため息を吐かれる。


「昨日も同じ髪型だったのに覚えてないの?」


「そうだったか?」


 思い出そうと試みるが妹の髪型は曖昧にしか思い出せない。


「そんなんだからお兄ちゃんは彼女ができないんだよ」


「今の話とどう関係するんだよ」


 全く訳が分からない。


「そんなことよりお兄ちゃん、ご飯まだー?」


「待て! まだ和食にするか洋食にするか考えている途中だ」


 俺は冷蔵庫開け食材を確認する。


「それ毎日やらないとだめかなー?」


 呆れたように呟く妹の声を聞きながら、考えを巡らせる。

 親が家を空けてから家事は専ら俺が担当していた。

 両親とも共働きでしばらく戻ってきていない。


「この朝食の選択によって今日の運命ががらりと変わってしまうんだぞ」


「いや、ないから」


 毎日熱弁を奮っているというのに、この妹ときたら全く理解を示さないのだ。


「お兄ちゃんって段々お父さんに似てきたよね」


「はあ!? どこが?」


 俺は苦虫を噛み潰したような顔で聞き返す。


「料理はお母さんがやってたけど、そうやって熱弁奮うところとかそっくりだよ」


「冗談じゃない。俺が父さんに似てるなんて」


 間違っても、そんなことあるはずがない。

 勝手に家を出て行きやがって。

 その後俺と優子がどれだけ苦労したかわかっているのか。

 だからこそ俺は父さんのようになりたくはない。


「今日はパンで済ませる」


 料理をする気分でもなくなったため、六枚入りの食パンの内二枚を取り出しオーブントースターに突っ込む。

 パンが焼きあがるまでの間改めて部屋を見渡すと、何故こんな広い家に俺たちは二人で暮らしているのかほとほと疑問に思う。

 二十五畳のリビングダイニング、フローリングの床、壁と天井は共に清潔感のある白。

 42型の大きな液晶テレビに、それを見るために置かれた三人掛けのソファーが二つ。

 二人暮らしには広すぎる空間だ。

 やがてチンと音が鳴り、ほかほかに焼きあがった食パンをオーブンから取り出す。

 ナイフで食パンにバターを塗っていると、高ぶっていた気持ちも落ち着いてきた。


「優子ー、パンやけたぞー」


 優子は新聞を読むのをやめ、こちらへ歩いてくる。

 俺は自分の分の食パンを焼きながら、リモコンを操作しテレビをつけた。

 毎日見ているニュース番組にチャンネルを切り替えると、お馴染みの女性アナウンサーが文面を読み上げているところだった。

 俺も好きで見ているわけじゃなかった。

 ただ日課としてそれが当たり前になっていたから、今も続けているという話。


「うんうん、やっぱりお兄ちゃんの焼いたパンはおいしいね」


 満面の笑みで言う優子に心が安らぐ。


「オーブンで焼いてるんだから、誰が焼いても同じだろ」


「焼き加減もそうだけど、バターの塗りもサイコーだよ」


 俺も焼きあがった自分のパンを頬張る。


「うん、確かにうまいな」


「でしょ?」


 俺と優子は今日も朝のひと時を楽しんだ。

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