マリオネット 3
『弱肉強食』そんな言葉がこの街には、世界には似合っているだろう。王族、貴族、聖職者が、貧困層、農民から税を巻き上げ豪華な生活を営んでいる。
技術は、発達したものの、いや、技術の向上故の格差か…スラムはあちらこちらに点在していた。そして、人の心に闇に巣食う『呪い』なんてものが存在する世界。
「汚ないガキが!近づくな!!」
「どうか、どうか、ご慈悲を…」
汚れ一つ無い綺麗な服を着ていることから、高い身分を思わせる男は、ゴミでも見るかのように、白い絹のハンカチで、鼻と口を覆い足元に項垂れる子供を蹴り飛ばした。ボロボロのローブを纏った少年の体は軽く、宙を舞うと近くの壁に激突した。ズルズルと壁から地面へと着地した子供の顔を見て男は顔を引きつらせた。子供の顔を隠したローブのフードが先程の衝撃で肩に落ちたのだった。
「その顔じゃ、売り物にもならんっ…汚らわしい」
男はブツブツと文句を言いながらその場から立ち去っていった。周囲を囲んで野次馬も子供の顔を見るなり、嫌な顔をして立ち去っていった。紅の蝶の焼印、左目を通る痛々しい傷跡、まともな生を過ごしてきたとはいい難い子供の顔は、歪む。放置された悲しみではなく、引き攣った笑で。
「コロシテヤル」
長い前髪の隙間から見える眼が光る。獲物を前にした肉食獣のように、舌なめずりをすると、腰のホルダーから、短刀を抜いた。
「まともな商品はいないのかっ、全く…」
先程の男は相変わらずスラムで品物、奴隷として売れる人間を探していた。そんな、男の目が止まったのは、壁に背をあずけた青年。毛先の白い女みたいな顔に似合わず、背中に長剣を背負った青年に男は歩みを進めた。
「金貨二枚でどうだ?」
要件を伝えることなくいきなり商談を始めた男を青年は睨みつける。
「金貨5枚」
青年は男の姿を一通り眺め口を開いた。
「ふざけるなっ!足元見やがって!!…!?」
青年に怒鳴った男は視界に入った存在に疑問の声を漏らした。
ボロボロのローブに真っ赤なリボンで結った金髪、顔に蝶の焼印のあるの子供…間違いなく先程蹴り飛ばした子供だった。子供にさっきまでの弱弱しさは無かった。短剣を片手に獲物を追いかける獣と化していた。
「おいっ!私を助けろっ!!金はいくらでも!出すからっっ!」
「呪い、恨み代行致します。金貨5枚、まいど。」
文構成の滅茶苦茶なセリフを残し、青年は、子供へと向き直り、背負った長剣を抜いた。
子供は、なんの躊躇なく短剣を男めがけて振り回す。それを、青年の長剣が鈍い音を立てて受け止め払い、子供の手から短剣はするりと抜け地面に転がった。
「邪魔だっ」
短剣を素早く拾い上げ的を男から青年へと変え勢い良く走る子供の短剣をなんの躊躇もなく青年は、左手で掴み、刃先を子供の首筋に当てた。
「捕えろ」
青年の命令で動いたのは、影だった。青年の足元から伸びた影が実体をもち、子供の自由を奪った。
影の巻き付いた子供は身動きがとれず、声にならない悲鳴をあげた。
この時、悲鳴をあげたのは子供だけではなかった。男も悲鳴をあげ、腰を抜かしたのか無様に地面を這いつくばって逃げ出していた。
その様子を見た青年は舌打ちをし、子供と短剣を放り出して、長剣を男の通り道めがけて投げた。
「代金。こちらも、タダでやってるわけではないので」
青年の感情のこもらない冷淡な声に震えながら男は金貨5枚を地面に投げ出し、転びそうになりながら走り去った。
「まいど。」