【3】雨
自然の力を司る神、竜神の声を聞き、戯れる少女がいた。人々が恐る自然の神を、少女は優しい神だと言った。木々に囲まれ閉鎖された空間にいた竜神には、珍しい存在だった。
預言者、そう言えば聞こえはいいのかもしれないが、村人たちは少女を恐れた。自分の子供を少女と接触させないようにした。
少女は毎日のように泉へ遊びに来た。だが、ある日を境に少女は姿を現さなくなった。ずっと一人でいた竜神にとっては、当たり前が帰ってきた、その程度の感覚だった。
少女が帰ってこない、村では騒ぎになっていた。村を挙げての捜索が続いたが、最悪の結果になってしまった。少女は変わり果てた姿で谷底から発見された。
両親は、少女の遺体を抱えて竜神の泉を訪れた。縋るように少女の救済を祈り続けた。
竜神はその思いを受け取ったのだろうか、はたまた、己の中の何らかの感情が動いたのだろうか、少女は息を吹き返した。
それからだった。村に雨が降らなくなったのは。
呪いのなかに刻まれた想いが、押し寄せてくる。自分の意識が流されそうになっていたのを、肌に触れた雨によって引き戻された。
あんなに晴れ渡っていた空は真っ暗に曇っていた。
「竜神が、泣いてる…」
誰に言うでもなく、ポツリと呟いた。
呪いの解かれた村には、緑が戻った。
人の思いが起こす奇妙な世界の話。
1話『雨』完結