【2】雨
黒く長い髪が、動作とともに揺れる。空のような薄い青色の瞳が印象的な子供だった。こんな小さな子供に責任を押し付けなければならないほど、この村の現状は厳しいものなのだろう。
雨巫女オトが足を止めたのは、村から少し離れた泉。周りは木々に覆われ、周囲の様子を伺うことはできなかった。外から狙われてもこちらは気づくことさえ出来ない。職業柄恨まれるこ
とが多い為、少しの事にも神経を尖らせてしまう。
「大丈夫ですよ。此処は、龍神が住むと言われる泉。村のものは恐れて近づくことすらしませんから。」
普段ならば、警戒を解くことはないが、この村の異常なまでの信仰性から見て少し警戒を緩めた。
ここも、日照りの影響を受けているのか、水かさが減って底が見えていた。オトは、干上がった底を進み、泉の中心に立つ小さな社へ歩み寄った。雨風、時に蝕まれた社は屋根は傾き、鳥居は倒れていた。
「誰も作り直そうとは?」
雨を降らせたければ竜神を頼り、雨乞いをする。ならば。壊れた社を直さなければならない、そう考えるのが普通ではないだろうか?この村は科学が発展しているわけでもない、信仰性の強い村なのに…
「先程もいいましたが、村の者は泉に近づかない。こんな事になっているなんて知りもしないんですよ。知っているのは私だけ…」
「あなたが教えれば、村人は動いたかもしれない」
自分の言葉にオトは、表情を暗くした。そして、なにか決意したような顔をして、微笑んだ。
「貴方の手には呪いを解く力があると聞きました。貴方はそのせいで辛い目にあってきたのでしょうね…」
そう言いながら、オトは、自分の呪われた手をとった。
「何を…」
「ごめんなさい。また貴方に傷を負わせてしまった…知っていたもの…私は全て…」
オトは、静かに謝罪した。
人は死ぬとき、笑うという。筋肉が緩むからだと言う。本当はどうなんだろうか。死んだものに聞かなければ分かることのない疑問。
彼女は、オトは、笑っていたのだろうか。呪いを解く力があるこの手に触れ、彼女の姿は地面に叩きつける水になった。
皮肉なことに、この手にかけられた呪いの為か呪いを解いたものの記憶や思いが頭に流れこんでくることがある。呪いは人の強い思いの塊、そう言われている。