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銀の魔導師  作者: sena
プロローグ
3/20

プロローグⅡ

 城壁に背を向けた刹那が右手を翻した時、そこにもう長剣はなかった。



 「すごい……」

戻ってきた刹那に、二人は賞賛を浴びせた。

「すごいよ、今の何?見たことない剣だし、魔術みたいのも使ってた。あれは……」

好奇心を隠しきれずにキアが詰め寄る。刹那は少し困った顔をしてから、一歩離れてまた右腕を払った。

 瞬間的に長剣が現れる。

 「剣よりは、刀。長刀。元々極東の国のものだけど、現地でもこんなに長くはないだろうな。俺のオリジナルだ」

持ってみる?と突き出され、おずおずと柄を握る。刹那が手を離した瞬間、ずしりとキアの手に重みがかかり、長刀は金属音をたてて床にぶつかった。

「重……っ!!なんでこんなの使ってるの?重くない?」

「魔術と組み合わせるにはちょうどいい長さだ」

「魔術……?やっぱりあれは魔術なんだ?」

昔からあったが、今は技術の一つとされている、魔術。これが実用化されて、世間はだいぶ便利になった。

 しかしそれ故、現代の魔術は攻撃するには物足りないものばかりだった。

「俺の魔術は、丸い魔法陣によって発動するものばかりだ。だから、この長刀に発光魔法を仕組んでおけば、刀を一周振り回した軌跡で魔法陣を組める。長さは魔法発動の時間を稼ぐためだ」

ん、と重そうなキアから長刀を受け取る。

「魔法陣を自分で作るの?」

現在の、科学技術の一部となった魔術でつくられた製品は、予め組み込まれている魔法陣を簡単な動作で発動する形をとる。魔法陣が書けるのは一部の学者たちだけだ。

 よって刹那の魔法陣を作成するという発言はイレギュラーである。キアの母親が驚くのも無理はない。

 「教えてやろうか?」

にぃ、と意味深な笑みを浮かべる。

「ただし、お前らの秘密と交換で」



 場所を移し、大広間。

 といっても、素朴で小さなこの城に見合った、さほど広くない大広間だ。

 再び平穏が戻った城で紅茶をのみながら、刹那は自分について順を追って話し始めた。

 「俺は、生まれながらの魔導師だ。今で言う偽教会の血筋なんだ」

百年ほど前までこの国は2つの種類の教会があったが、片方の教会が黒ミサなどの危険な儀式をやっていると濡れ衣を着せられ、潰された。それが現在偽教会と呼ばれている。

「偽教会は、民の便利さを追求した本教会と違って攻撃に特化した魔術を使ってた。片方が民のため、片方は国の軍事のため、バランスよく協力しあいながら在ってきたものを、国上層部の本教会派が、国から利益を貰っている方が得に見えたのか、偽教会側を恨み潰そうと画策したんだ。その結果が今」

滅亡から100年経って、偽教会の作った魔術の使い手は限られてしまったのだ。

 「それで、攻撃が出来るほど強い魔術を使えたんだね」

「ん。戦闘中は素早く多様な魔法陣を展開するから、偽教会側はみんな色々な物から魔法陣が組めたんだ。俺も昔、両親から教わった」

「へぇ、魔法陣てそんな身近な物で組めるんだ……」

「そう。戦場だったら、上手く円形に人を殺していって、その死体で魔法陣を組んで広範囲の魔法を発動する、なんてこともできる」

一瞬、キアの顔色が変わった。あ、想像しちゃったかな、と思いつつ、刹那は「で」と話を続ける。

「ん?」

「キアは?」

「えっと……」

ちら、と母親の方を窺い見て、頷いたのを確認すると「オレ達は」と口を開いた。

「心を読む力を、この瞳と共に受け継いでいるんだ」



 キアの一族は、東の大国のはずれを発祥地とする。仙術などを使う種族から派生したのだという。

 昔から読心術を使い、村では相談役や外交役を務めている一族だった。

 キアが生まれて十数年後。各地に散らばり活躍し始めていた彼の一族の噂は、王の耳にも届いた。

 それが、彼ら一族の悲劇の始まりだった。

 仙術師に騙され命を落としかけたことのあった王は、超自然的な現象やそれを使う者が大嫌いだったのだ。

『殺せ。その者達は、必ずや我が身そして我が一族に仇をなす』

王の命に逆らえる者は、いなかった。

 「それでオレ達は、この国に亡命したんだ。魔術が普通に存在していたこの国では、オレ達みたいな特殊能力は大して珍しくないみたいだったし。でも、読心術は珍しかったみたいで」

今は王家直属で仕事をしているよと、キアは微笑んだ。

「それで、こんな城を」

「まぁ一応貴族の端くれで」

改めて城を見回す。絢爛豪華とは言わないが、小さいながらも上品に装飾されている。

 「そうだわ刹那くん。急いでいないなら、暫くここに泊まっていきなさいよ。まだ傷も癒えきってないわ」

キアの母親が、優しく微笑んだ。

「あ……その」

これくらいの傷なら、別に。

 言おうとして、ふと口をつぐむ。

「ね、刹那。泊まっていってよ。魔術の話とか色々聞かせて」

迫るキアの瞳があまりにもきらきらと輝いていて

「あ……うん、じゃあ……」

頷くしかなかった。



 キアと刹那はその後一週間、色々な話をして過ごしていた。

 魔術のこと。

 王宮のこと。

 旅で出会った人や出来事のこと。

 東の大国のこと。

 それらは互いに知らないことで、互いに興味深い話だった。

 そして、ぶっきらぼうな口調で話す刹那も少しずつ笑顔を見せるようになり、笑顔と真顔しかしなかったキアもだんだんと色々な表情を見せ始めた。

 キアの母親も、そんな二人を微笑ましく見ていた。

 「ねぇキア。刹那くんと一緒に、旅をしてみたら?」

「え?」

「え!?」

だから、そんな台詞が出てきたのだろう。

 ぽかんとする刹那に対し、キアはいつになく嬉しそうな顔をしていた。

「いいの!?」

「ええ。無事に帰ってきてくれるなら。まぁ……何かあったら、王様に泣きつくわ」

「キアの命は俺が保証します。でも……キア、旅って、そんなに簡単なものでは……」

やめた方がいい、という表情の刹那に、キアは得意げな笑みを返す。

「わかってる。オレだって、山越えて砂漠越えてここまで逃げて来たんだから、それは知ってるよ」

「……」

それは確かに。

 もう反論出来なくなった刹那に、母親がそっと耳打ちした。

「キア、君が来るまで表情一つ変えない子だったのよ。外にも出たがらないし。だから、この機会に色々な事を学んで欲しいの」

「……」

「父親を亡くしたショックで……これを機に、社会で生きていけるようになって貰わないと……」

「……!!」

もう、断る材料がない。そんな事まで教えられて、それでも無碍に断る程、刹那は冷酷ではなかった。

 「……わかりました」

刹那の言葉に、パッとキアの顔が輝く。

「この国周辺を一周するつもりなので、終わったらこの城に帰ってきます。でもその前に、色々と準備をしないと」

「そうね。私に手伝えることがあったらなんでもするから、よろしくお願いするわ」

頷き、刹那はキアの方を向いた。

「キア、出発前にちょっと特訓するから、覚悟してね」

「……え?」

その、何かを企むような笑顔に、キアはゴクリと唾を呑んだ。




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